その手の温もり18
「でも、俺は!」
ぐっと拳を握り締めてイルカはカカシの腕の中から、勢いよく顔を上げた。
「中忍試験に落ちたことを、上忍の方たちの所為にしてはいけないと思いました。総ては己の心の弱さゆえと。」
「・・・うーん。」
カカシは、ちょっと同意しかねる。
上忍の本気ってやつを知っていたからだ。
イルカを可愛がった上忍たちは、手を抜かずに全力でイルカを可愛がったに違いない。
戦いにも手を抜かないが可愛がることにも手を抜かず、それこそ本当にイルカが動揺するほどに。
だから、カカシはイルカが動揺してしまったことを理解できるし別に、それでいいんじゃないかと考えた。
だが、イルカは違ったらしい。
「俺はメンタル面も鍛えて、次の年の中忍試験を再び受験することにしました。」
「・・・それで。」
なんとなく、続きを聞くのが気が重い。
「そして中忍試験が数日後に迫った時に、また任務を受けたんです。リベンジです!」
なんだか嫌な予感した。
イルカの身に、また何か起こったのではないかと思ったのだ。
「任務は低いランクでしたけど、今度は実際に戦場にいる上忍の方たちに命令書を持っていくものでした。去年は戦場に近いところにいた上忍の方たちの所に行く任務だったのが、今年は戦場なんだ!と俺は、ときめきました。今度こそ、強い上忍、かっこいい上忍に会えるって。」
イルカの目は、また、きらきらと輝き始める。
「この任務を達成して今年こそ中忍試験に合格するんだ、と俺は意気込みました。この任務達成して中忍試験に合格する、というのが目標になったんです。」
そこで再び、イルカは肩を落とした。
「だけど、俺は実戦の経験はあったものの、戦場での実戦はなかったので、ただ単に命令書を持っていくだけだったのに、すっかり戦場の雰囲気にのまれてしまって・・・。道中、偶々、敵を遭遇してしまったのですが今までの経験が生かせず、結局、追い詰められてしまいました。」
その辺の話のくだりはカカシにも分かる。
なにしろ助けたのが自分だからだ。
「で、助けに来てくれたのがカカシさんでした。あの時のことは、よく覚えています。カカシさん、すごく強くて、かっこよかったです。」
イルカも、カカシ同様、覚えていてくれたらしい。
嬉しくなったカカシだが、ふと疑問に思ってイルカに訊いた。
「・・・ということは、助けた後のことも覚えているんだよね?俺は、今でも鮮明に事細かに覚えているよ。」
「そりゃあ、まあ、覚えていますけど。」
視線を明後日に向けながらイルカが答えると、カカシはイルカの顎を掴んで自分の方に向けさせる。
「覚えているなら再会した時の言葉が『初めまして。』なんて、おかしいよねえ。」
不満そうに言うとイルカは困ったように眉を顰めた。
「そんなこと言われても・・・。だって『あの時、キスした人ですよね?』なんて訊けないでしょうが!」
少々投げやりだが、『キス』というイルカの言葉を耳にするとカカシは顔が緩んだ。
「やっぱり、覚えていてくれたんだね〜。」
でれっと締りのない表情になる。
「だよね、覚えていてくれないとね〜。何しろ、俺にとっての人生初めてのキスだったからね。」
嬉しそうなカカシの告白にイルカは「えっ。」というような顔になった。
「本当ですか?」と態々、確認してくる。
大仰にカカシは頷いた。
「ほんとほんと。俺、任務で忙しくて恋愛どころじゃなかったし、最初のキスがイルカ先生なの。」
「・・・まさか。」
「本当です。」
カカシは断言する。
「・・・嘘ですよね。」
「本当に本当の真実ですから。」
それを聞いたイルカは、この世の終わりのような目をした。
「そんなことって、有り得ない・・・。」と呟いている。
「何で?イルカ先生は嬉しくないの?」
「嬉しくないっていうか、嬉しいっていうか・・・。」
言葉を濁してイルカは、はっきりしない。
「なーに?言いたいことがあるなら言ってしまいなさい、イルカ先生。」
あの時、キスしたイルカの様子ではイルカも、人生初めてキスだったに違いなのに。
お互い初めて同士で嬉しくないのだろうか。
「だってですねえ。」
イルカが自分の顎を掴んでいるカカシの手を外しながら、顔を赤らめる。
カカシは、その手を離さずに、さり気なく指を絡めた。
そしてイルカは衝撃的なことを言った。
「だって、あの時の俺は『俺が人生で初めてキスした人と一生添い遂げよう』と思っていて・・・。」
で、と続ける。
「相手の人も人生初めてキスが俺だったらいいな、と夢見ていたんです。」
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