その手の温もり14
次の日の朝。
イルカの病室を訪れたカカシは、いつもと違うイルカの様子に直ぐに気がついた。
頬が痩けて、憔悴しているように見える。
心配になったカカシはイルカに早速聞いてみた。
イルカの手の平を取るとイルカの体が不自然なほど、びくりと反応する。
不思議に思いながらも手の平に、体調が悪いのか、と問う言葉を書くとイルカは力いっぱい頭を横に振った。
「悪くありませんから、大丈夫ですから!」
慌てて返事をしているようだった。
「その、あの、えーと・・・。」
イルカはカカシに何かを言いたげである。
「どうしたの?ああ・・・。」
カカシは思い至った。
「朝ご飯、まだだもんね。イルカ先生、お腹空いたんでしょう?」
「え・・・。じゃなくて・・・。」
笑ったカカシの直ぐ横でイルカの腹の音が控えめに鳴る。
「あー、やっぱり。今、朝ご飯にしますよ〜。」
カカシはイルカの朝ご飯の乗ったトレイと持ってくるとベッドに備え付けてあるテーブルの上に置いた。
「さ、食べましょうか。」
にっこり笑って、カカシはスプーンを手に持った。
しかしイルカの様子が、やはり、おかしかった。
「いいですいいです。自分で食べますから。」
目が見えないのにカカシからスプーンを奪い返そうと手を伸ばしてきたのだが、その際に茶の入った湯飲みを引っくり返してしまった。
「うわっ。」
零れた茶に驚いたイルカは慌てて拭こうとするのだが、勝手が分からずに他の食器をテーブルから落としそうになり余計な二次被害を齎しそうになっている。
「イルカ先生、どうしたの。」
カカシはイルカの肩を叩き、落ち着くように促した。
「零れたお茶は俺が拭きますから、じっとしていてください。」
ね、と言いながら顔が近づいて拍子にカカシは少しだけイルカの頬に唇を寄せる。
どさくさに紛れて、つい出来心でやってしまったのだ。
イルカは、その瞬間に動かなくなってしまった。
カカシはその状態のイルカを特に不思議と思わずに、てきぱきと零れたお茶の後始末をしてイルカの朝ご飯を食べさせるのを再開させた。
「はい、イルカ先生。あーん。」
食事をスプーンで掬ってイルカの口元に持っていくと、今度はイルカは大人しく口を開ける。
「美味しい?イルカ先生。じゃあ、もう一口、あーんってして。」
イルカは再び口を開けた。
その口へ食事を運びながらカカシは言う。
「あーんってイルカ先生に食べさせるのって、すっごく楽しいんですよねえ。食べている姿が、ほんっと可愛いですね。」
口の中の食物を嚥下しようをしたイルカが、ごほごほと咳き込んだ。
「あ、大丈夫?イルカ先生。」
カカシはイルカの背を優しく摩る。
「ゆっくり食べていいのに。イルカ先生に早く良くなってほしいのは本心なんだけど、イルカ先生が治ったら、こうやってあーんってしてあげられないのが寂しいなあ。」
イルカは更に咳き込んだ。
「できたら、俺もイルカ先生に、あーん、なんてしてほしいなあ。」
咳き込んでいたイルカは、今度は苦しそうに呼吸している。
そのような状況に追い詰めているのは、他ならぬカカシであったのだがカカシは、そのことに全く気がついていない。
「ああ、もう。大丈夫、イルカ先生。」
カカシはイルカを自分の腕の中に抱え込むようにして背中を摩った。
心なしかイルカの体温が上昇しているように感じる。
「イルカ先生、本当に平気?」
腕の中のイルカは俯きながら、こくこくと頷く。
どうにか落ち着いたイルカはカカシの腕から抜け出して顔を見せたのだったが、その顔は真っ赤になっていた。
「暑いのかな?お茶でも飲みましょうか。」
カカシは新たに茶を入れた湯飲みをイルカの口元に持っていき、イルカの口に茶を含ませる。
「あ、このお茶、俺が口移しで飲ませてあげるとかしてもいいなら、是非ともしてみたいなあ。」
ぽろっと口から出てしまったのは常日頃、カカシが抱いているちょっとした願望だった。
「イルカ先生とキスしたいなあ。」
だが、遂にイルカは口に含んでいた茶を噴き出してしまったのだった。
その手の温もり13
その手の温もり15
text top
top