その手の温もり12
カカシに手を引かれるイルカは、どこか、ぎこちない動きを見せた。
先ほどのように頼りない動きではなく、緊張して動きが鈍くなっているような感じだ。
イルカの手を握っているカカシは、イルカが手に汗を掻いていることに気がついた。
「イルカ先生、手に汗?具合でも悪い?」
カカシがイルカの顔色を見るように近づくと、気配で察したのかイルカは、ふるふると首を振る。
大丈夫、という意思表示らしい。
「そう・・・。なら、いいけど。」
訝しく思わないこともなかったが、それ以上追求するのも憚られてカカシは中庭へをイルカを連れて行った。
中庭には涼やかな風が流れており陽射しも柔らかく、非常に気持ちがよかった。
イルカも気持ちよさそうに日光に当たっている。
目と耳が使えず、治りかけだが怪我をしているイルカを気遣い、カカシはゆっくりを歩く。
歩きながら、イルカに話しかけた。
聞こえないのは承知の上でだ。
「こうして、手を繋いでイルカ先生と歩いているなんて、すごく嬉しいです、俺。まるで、恋人同士みたいですね。」
イルカを導き、日陰になっているベンチに腰を下ろす。
隣り合わせで座る。
ベンチに座ってからは、イルカの手を握る必要はなかったがカカシはイルカの手を離さなかった。
イルカの手を握ったまま自分の、もう片方の手でイルカの手を包んだ。
両の手の平でイルカの手を包み込んだまま、カカシは再び、話し出した。
「イルカ先生は、忘れているかもしれないけれど、俺たち、昔・・・。といっても、若い頃なんだけど、会っているんですよ。覚えていますか?」
ぴく、とカカシの手にに包まれているイルカの指が動く。
「その時ねえ、俺、イルカ先生に・・・。」
近くに誰もいないことを確かめてからカカシは、一人、ほのかに赤くなりながら告白した。
「イルカ先生に口移しで薬を飲ませたでしょ。あれって、キスですよねえ。」
そんでもって、とカカシは、ふふふと笑みを零す。
「俺の人生初めてキスでもあったんですよねえ。」
当時を思い出すようにカカシは遠くを見た。
「それに俺が助けにいったのに、逆にイルカ先生が俺のことを助けてくれたりして。すっごくカッコよかったですよ、あの時のイルカ先生。」
イルカの指が、また、ぴくぴくと痙攣したように動く。
何かを必至に絶えているように。
カカシは自分の話しに夢中で気がついていなかったが、イルカの顔は熱を帯びて火照りはじめていた。
顔の色も赤く染まりつつある。
「で、俺、そんなイルカ先生に惚れちゃったんです。あの時から、もう、ずっとずっと好きなんです。」
耳が聞こえないイルカにカカシは想いを告白する。
「イルカ先生は俺のこと忘れているでしょう・・・。ようやく、やっと再会した時も反応なかったし。」
カカシは肩を落としたが微笑んでから、イルカの方を見た。
「でも今は傍にいるだけで、それだけでいいと思えるんですよね。この前、寝ているイルカ先生にキスはできたし、先は長いんだから、ゆっくりいこうと・・・。」
そこで言葉を切ったカカシはイルカの額に手を当てた。
「イルカ先生。顔が赤いよ、熱を持っているような顔色ですよ。」
あっ、とカカシは声を上げる。
「具合が悪くなったんですね?そういうことは早く言ってくださいよ。」
勢いのまま、イルカを抱き上げた。
「早く病室に戻らないと!」
「えっ。」
急に抱え上げられたイルカは、自分の身に何が起こったのかと声を出す。
「な、なに?なんですか、ちょっと・・・。」
「部屋に戻りますからね。」
カカシはイルカを抱き上げたまま、一瞬で病室へと移動した。
病室へ着くと、イルカを丁寧にベッドの上に乗せる。
そそくさとイルカをベッドに横にならせ、布団を肩まで掛けた。
「今、医者を呼んできますからね!」
ばたばたとして、病室を出て行こうとするカカシを、急いでイルカは呼び止める。
「あ、あの、待ってください。具合は悪くありませんから。」
「そう?」
カカシはイルカの横に来て心配そうに覗き込む。
「平気です。」
気配を察してかイルカは笑顔を見せた。
「そうですか。」
どこか負に落ちないものを感じたがイルカが、そう言うならとカカシは医者を呼びに行くのを止めた。
それからイルカに薬を飲ませたり、夜の食事を手伝ったりとしているうちに、あっという間に時間は過ぎた。
「じゃあ、そろそろ俺帰りますね。」
カカシはイルカの手の平に『帰る』と書き記す。
イルカは「いつもすみません。」と頭を下げた。
「いーえ、どういたしまして。あったかくして寝てくださいね。」
別れ際にイルカの手を撫でて触り、名残り惜しそうに病室の扉の方へ行く。
扉を開けてからカカシは振り向いた。
「また、明日ね。おやすみなさい、イルカ先生。」
「はい、おやすみなさい。」
病室の扉は、ぱたりと閉じられる。
別れ際、イルカは普通に受け答えをして、カカシに返事をしていた。
だが、そのことに、カカシは気がついていなかったのだった。
その手の温もり11
その手の温もり13
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