ずっと待っていた4
深夜の森の中でイルカは何をしているのか。
イルカは木の幹を背にして真正面を凝視している。
その格好のまま動かない。
カカシは気配を消して、そろそろと近づいていった。
近づくに連れてイルカの肩が大きく上下していることに気がつく。
呼吸が乱れ、激しく緊張している状態だ。
カカシは近づくスピードを速める。
すると声が聞こえてきた、イルカのものではない声が。
「・・・なあ、いいだろ?」
男の声だ。
渋くて低い。
聞き覚えがあるのでカカシと同じ上忍だろう。
「・・・そんなに怖がらなくてもいいじゃないか」
男の声にイルカが、ぎゅっと目を瞑り首を横に振った。
何回も首を横に振っているのは強い意志の表れだ。
すなわち拒否の。
断固としてイルカは男の何かに対して拒否をしている。
絶対に嫌だと。
イルカの様子を見てカカシは思い当ることがあった。
先の任務でイルカが話していたこと。
男に迫られて、というイルカの言葉だ。
そうすると、これってあれなの?
愛の告白の最中な訳?
プライベートなことだけにカカシは介入するのを躊躇った。
二人の間の問題だしねえ。
あまり野暮なことはしたくない。
でもねえ・・・。
見ている限りイルカは、とっても嫌がっている。
相手は上忍、イルカは中忍。
さて、どうなるだろう?
想像すると何だか、とっても嫌な気持ちになった。
「・・・まあまあ、いいじゃないか」
男の声が聞こえ、じゃりっと一歩、イルカの方に踏み出す気配がした。
「大丈夫だから」
宥めるような男の声にイルカが声にならない叫び声を上げるのがカカシには解った。
逃げればいいのに足が竦んで動けないらしい。
・・・どうしよう。
カカシは悩む。
イルカは嫌がっている、とても。
イルカは怖がっている、とても。
イルカは・・・。
そこまで考えた時にカカシは消していた気配を解除した。
カカシの気配が露わになる。
「誰だ!」
イルカのではない、鋭い声が飛んできた。
それは男の方の声だ。
「えーっとねー」
なんと言ったものやら、と考えながらカカシは姿を現した。
「そのねえ」
だけど。
カカシの姿を見たイルカは今にも泣き出しそうな表情の中に、ほっと安堵の顔を見せた。
声には出てないが口の形が、はたけ上忍、となっている。
イルカは夜の闇の中でも判るほどに黒い瞳を潤ませてカカシを見ていた。
カカシだけを。
そんなイルカを見てカカシはあることを決意した。
「イルカ」
軽やかに名前を呼ぶとイルカに近づいた。
にこりとイルカに笑いかけるとイルカの顔が明るくなる。
潤んだ目を何度か、ぱちぱちさせてカカシの顔をじっと見ていた。
そのイルカの前にカカシは、すっと立つ。
まるで相手からイルカを守るかのように立ちはだかったのだ。
相手の顔を確認すると、やはり見知った上忍だった。
「・・・何のまねだ」
相手から怒りを含んだ低い声が漏れた。
邪魔されたのが気に食わないようだった。
「何のまねって言われてもねえ」
カカシは嘯く。
「そっちこそ、こんなところで何やっての?」
夜なのに寝ないで、人目に付かない場所で〜と突付いてやると相手は顔を顰めた。
「お前には関係ないことだ」
「そーお?」
「そうだ」
「でもさー」
カカシは背後のイルカを、ちらっと見た。
イルカの顔は落ち着きを取り戻してきたものの、青褪めている。
「イルカは嫌がっているみたいだしー」
今度はイルカはカカシの後ろで、うんうんと頷いていた。
それを確認してからカカシは宣言した。
「困るんだよねえ、こういうの」
こういうの、とは今ここであった出来事を指す。
「だって俺とイルカは恋人同士だからさ」
「えっ!」
目の前の男は大きな声を出した。
ひどく驚いている。
それはカカシの背後のいたイルカも同じである。
「は、はたけ上忍!」
先ほどまでは声が出なかったのに驚きすぎて声が出るようになったイルカだ。
「な、何を・・・」
背後のいたイルカがカカシの横に来て顔を覗き込んでくる。
「いったい全体、どうして何が・・・。だって俺たち、恋人じゃ・・・」
ない、と多分イルカは続けたかったのだろう。
その時にはイルカはカカシに片手を後ろに捻り上げられ動きを封じられてしまい、口元はカカシの手で塞がれていた。
カカシに覆われた手の下でイルカは口をもがもがと動かし何か言っているがカカシはお構い無しに言った。
「いやー、俺がイルカに一目惚れしちゃってねえ。この前の任務で一緒だったじゃない?その時に告白して受け入れてもらえたんだよねえ」
「・・・・・・嘘だろ?」
「ほんとほんと。イルカって素直で可愛くて見ているだけで癒されるよねえ。そこに俺が惚れちゃったわけ」
相手は、ついに黙った。
「というわけで。俺のイルカにチョッカイ出さないでくれるかな」
最後に、その言葉を言ったカカシは顔は笑っていたのだが目は笑っていなかった。
幸いなことに、それはイルカには見えなかったが。
「・・・そうか、分かった」
相手は言葉少なに、そう言うと夜の闇に消えていった。
後に残されたのはカカシとイルカだけだった。
ずっと待っていた3
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