ずっと待っていた3
「そうですよ〜」
イルカは心底、憂鬱そうに溜め息を吐く。
「男が男にって、どうかしてますよねえ。迫られただけで何もなかったですけど」
カカシに同意を求めてくる。
「男に迫られても、ぜんぜん嬉しくないし。逆に気持ち悪いとか思ってしまいます」
気持ち悪い・・・。
少しだけカカシはショックを受けた。
自分も先ほどイルカに医療行為とは言う名のキスをしてしまった。
イルカは自分のことも気持ち悪いと思ったのだろうか?
しかし、それが原因でイルカは碌に食事も摂れなかったのだ。
「だいたいにして恋愛は男女でするものなのに、おかしいですよね?」
尋ねてくるイルカは無邪気だ。
この世の恋愛は男女間だけでしているとしか思っていないような口ぶりで。
「えーっとね」
その辺の知識はイルカより、たくさん持っていたカカシは何と言ったものやらといった風情でイルカに説明する。
「あー、その。恋愛ってのは男女でもするものだけど同性間でも芽生える感情で」
「えっ、なんで?」
「なんでって言われてもねえ」
全く知らないことを教えるのは難しい。
知識はあるが説明下手なカカシは適当に締めくくった。
「恋愛って、そういうもんだから」
「ふーん・・・」
説明されたイルカは全く納得していない顔をしていた。
「同性間っていうと男と男、女と女でも恋愛したりすんですか?」
「まあ、そういうこと」
「そうなんですか・・・」
声のトーンが落ちている。
腕組みをして考えて込んでいた。
「そんな世界があったなんて恋愛ってのは奥深いですね」
感慨深く呟いている。
「ま、そんな深刻に考えなくてもいいんじゃないの」
とりあえずカカシはフォローを入れた。
「どっちにしろ無理矢理は駄目だしね」
それはイルカの迫られて発言に繋がる。
「相手のことが好きでも無理強いは駄目だよ」
迫られた時のことを思い出したのかイルカが渋い顔をする。
「恋愛が色々あるのは分かりましたけど」
でも、と続けた。
「俺は、やっぱり女の子を好きになって恋愛したいです」
「へええ」
「女の子って親切で可愛くて優しくて髪がふわふわしていて、いい匂いがして見ていて本当に癒されますよね」
「・・・へええ」
「女の子がたくさんいると、それだけで華やぐし、その場の空気が煌きますし」
そこでイルカは、ぐっと拳を握り締めた。
「俺、絶対、女の子と恋愛したいです!」
「・・・・・・へええ」
そこでカカシはイルカに、女に夢見すぎと突っ込みたかったが耐えた。
少年の夢を壊してはいけない、とカカシは配慮する。
本音を言うと現実を教えてやりたかったが、それは後に嫌でも解ることだ。
実は女が結構、強かであることは。
「はたけ上忍は恋人はいないんですか?」
恋愛の話に便乗してかイルカが興味津々でカカシに訊いてきた。
「あー、うん。そうだねえ」
だが生憎、カカシはイルカが望むように答えはできない。
「いないよ。恋愛に興味ないし」
「そうなんですか」
イルカの顔には残念と書いてあった。
「じゃあ、好きな人は?」
目を、きらきらさせながら再度、質問をしてくる。
恋愛に対して過剰な理想を抱いているらしい。
夢多きことは良いことだよなあ。
イルカは若いなあ、と思いながらカカシは首を横に振る。
「いない」
「そうですか」
明らかにイルカは、がっかりする。
「はたけ上忍の恋愛話を聞いて、参考にさせてもらおうと思ったんですが」
何の参考にするつもりだったのだろう。
今まで自分よりも、かなり手強い女性たちを目の当たりにしてきたカカシは思う。
イルカの方がよっぽど素直で可愛いと。
「じゃあ、はたけ上忍はキスはしたことないんですか?」
ずばりイルカは言ってきた。
「俺、ファーストキスは女の子としたいです」
瞳を輝かせてイルカは夢見るように言っている。
「好きだと告白してから桜の木の下の花びらが舞い散る中で見詰め合って、そっとキスしたいです!」
具体的なシチュエーションも出来ているらしい。
桜というとイルカは春に告白するつもりだろうか。
イルカの発言を聞いてカカシは、ぼんやりと思った。
でも誰と?
そんなことを考えてカカシは何故か、むかっとしてしまった。
イルカは誰とキスするんだ?
疑問が胸に、むくむくと沸いてきた。
イルカは、と見ると「そういうのっていいですよねえ、憧れです」なんて言っているものだから。
ちょっとだけカカシは意地悪をしてしまった。
「キスなら、もう俺としたんじゃないの?」と言ってしまったのだ。
途端にイルカは黙り込んだ。
「さっきのキスは、もしかしてイルカのファーストキスだったりしたの?」
黙り込んだイルカは、じとっとカカシを恨めしそうに見てきた。
「だって、あれは・・・」
声が小さい。
「非常事態だったから・・・」
止むを得ない行為だとイルカは控えめに主張してきた。
「ご迷惑をかけたのは悪いと思っています」
カカシとしても医療行為のつもりで口移しで水を飲ませた。
結果的にはキスしたことになってしまったが。
でも。
なんとなくカカシの口元に、してやったりの笑みが浮かんだ。
にやっとしてしまう。
幸いにして覆面のお陰でイルカには見えなかったが。
話の流れからしてカカシがイルカのファーストキスの相手で間違いない。
そのことに妙に満足してカカシは立ち上がった。
「さてと。じゃあ、任務に行きますか」
「はい」
続いてイルカも立ち上がる。
そうして向かった任務は成功しカカシとイルカは無事に仲間の元へを戻ったのだった。
その夜。
ふと胸騒ぎがしたカカシが真夜中、起き出してテントの外に出ると遠くにイルカが、ちらりと見えた。
木々の間にイルカの姿が小さくある。
よく見ると、そのイルカの対面に誰かがいるのが確認された。
小さく見えるイルカの姿は何かに怯えているようだった。
ずっと待っていた2
ずっと待っていた4
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