ずっと待っていた21
その後。
カカシはイルカが家に入るのを見てから立ち去ってしまった。
いとも、あっさりと。
野暮用とは何なのか。
イルカの友人たちが野暮用だからという時は、決って女性絡みだったりした。
つまりはデートとかだ。
「カカシさんの野暮用か・・・」
成人した男子であるカカシが女性と一晩過ごしても何ら支障はない。
危うく、あれこれと考えそうになる自分を無理矢理、押し留めるとイルカは明日の仕事のために眠ることにした。
次の日の夕方近く。
イルカは、そわそわしながら何回も時計と見ていた。
受付所にいたのだが時計を見すぎる余り仕事に集中できていなかった。
「どうしたんだ、イルカ」
見かねた同僚が声を掛けてきた。
「今日はおかしいぞ」
「え、そう?」
イルカはしらっばくれようとしたのだが目で時計の針を追ってしまう。
時計の針は六をさしている。
つまりは六時だ。
もうすぐ七時になる・・・。
今日の仕事は七時を過ぎないと終われない。
イルカが落ち着きないのは昨日、聞いたことが原因だった。
夜の七時からカカシがお見合い。
本当にお見合いをするのかどうかは知らないが考えると駄目だった。
何も手につかなくなってくる。
赤い看板の店って言っていた。
話から察するにイルカも知っている店だ。
「あのなあ、イルカ」
同僚が呆れたように言う。
「用事でもあるのか?」
「え、いや、別に。ないけど・・・」
用事はないけれど、でも。
「わかった」
にやっと同僚は笑みを浮かべてイルカに、ひそっと囁いた。
「野暮用だろう?」
「え」
まさか、そんなこと言われるなんて思ってもみなくてイルカは目を瞬いた。
「そうなんだろ?今日はもう帰れよ、後は俺がやっておくから。前に俺の仕事を変わってくれただろ」
お礼だよ、と同僚は言った。
「いや、そんな・・・」
うろたえるイルカの背を同僚は叩く。
「いいってことよ。幸い、今日は忙しくないしな。早く行かないと彼女に逃げられるぞ」
少々誤解されていたのだが。
イルカは有り難く好意に甘えさせてもらうことにした。
「じゃあ、今日だけ頼む」
仕事を早引けすることに良心が痛んだが、それよりも何よりもイルカの心を占めている人がいる。
その人のことを思うと居ても立っても居られなかった。
「ごめん」
同僚に両手を合わせるとイルカは受付所を後にした。
受付所を出ると一気に早足になり気がつくと全力で走っていた。
「俺、何してんだろ」
イルカは自問自答していた。
「こんな格好で・・・」
呟きは後悔の響きがある。
「こんな場所で・・・」
人の気配を感じてイルカは、こそっと電柱の影に隠れた。
場所は赤い看板の店の斜め前の電柱の後ろ。
気配を消して隠れているつもりだ。
仕事を早引けして自宅に帰り、それから店の前まで来た。
夜の七時前から店に入る客を見張っている。
見たところ店に入っていく客は上忍と思しき人物ばかりだった。
カカシの姿は、まだ見ていない。
「カカシさん、いないのかな?」
電柱の影に隠れているつもりのイルカの姿を上忍の何人かが見つけ、ひそひそと話をしていた。
「あれは何だ?」
「ああ、あいつは例の・・・だ」
「だったら放っておいた方がいいな」
「うむ、関わるのはやめた方がいいだろ」
「すごい格好だけどな」
「逆に目立っているがな」
そう言われるイルカの格好はというと。
いつもは縛っている髪を下ろして野球帽を被り、サングラスにマスク、全身黒い服と怪しい人の定番の格好をしていた。
自分と悟られぬような格好をと吟味した結果だった。
しかし上忍たちが言うように逆に悪目立ちして密かに注目の的になっていることに本人だけが気がついていない。
それが不幸中の幸いともいえた。
「カカシさん、どうしたのかな」
七時を回って、だいぶ時間が過ぎていた。
店に入る客足も途絶えて中から、やんややんやと酔客の声が聞こえてくる。
店の中は盛り上がっているようだった。
はあ、と溜め息を吐いたイルカは電柱の影に座り込み膝を抱える。
「来なきゃよかったかな・・・」
カカシのお見合いと聞いて来てみたものの考えてみれば、イルカが来たところで何も出来ない。
何してんだろ、俺。
ひどく惨めな気持ちになってしまう。
昨日、やっと自覚したカカシが好きだと気持ちがくじけそうになってくる。
昨日の今日で早くも失恋ってやつかな。
空を見上げると暗い空に星が光っていた。
流れ星が、すうっと流れていく。
思わずイルカは願っていた。
「カカシさんに会えますように」
早口で三回、唱えてみる。
「カカシさんに会いたい」
だって好きだから。
不意に、とんとん、と肩を叩かれた。
はっとして振り向くと、そこにカカシが立っていた。
「イルカ」
間違いなくカカシの声だ。
お星様がイルカの願いを叶えてくれたのかもしれなかった。
ずっと待っていた20
ずっと待っていた22
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