ずっと待っていた20
「あ・・・」
カカシを見た途端、イルカの体は硬直した。
動けない。
会いたくて会いたくなかった人が、そこにいたからだ。
カカシを見つめたまま、瞬きも出来なかった。
名前を呼ぼうとしたけれど声が出なかった。
「イルカ?」
それを、どう思ったのかカカシがイルカに近づいてくる。
こっちに来ないでほしい。
構わないでほしい。
今、カカシに優しくされたら泣いてしまうかもしれない。
それくらいイルカは切羽詰った気持ちであった。
だが、カカシはそんなイルカの気持ちには気がつかないらしい。
傍に来ると当然のごとくイルカの頬に手を当ててきた。
いつも手を覆っている指なしの手袋をとって。
「うーん、熱はないみたいだね」
少し、ほっとした様子だ。
「食欲は?ご飯は食べた?」
夕飯のことだ。
力なくイルカは首を横に振った。
食べる気が起きない。
食べたくない。
「ご飯、食べに行こうか?お腹に優しいものでも」
既に手を握られ連れて行かれそうになったが、それにも首を横に振る。
カカシの顔がまともに見れなくて俯いた。
握られた手を、そっと離す。
「イルカ、どうしたの?」
どこか痛いの?と訊いてくるカカシは本当に優しい。
「じゃあ」とカカシは、めげずにイルカの手を握ってきた。
「家に帰る?送って行くよ」
こくり、とイルカは頷いた。
ここで断った方がいいのは分かっていたのだが自分の気持ちに逆らえなかった。
カカシと一緒にいたい気持ちが強かったのだ。
夜道をカカシに手を引かれて歩く。
カカシの歩みに迷いはなく真っ直ぐイルカの家に向かっていた。
途中、カカシにイルカの持っていた鞄を取り上げられて、今はカカシが持っている。
「具合が悪いんだから無理しないの」とカカシに言われた。
「最近、どうだった?」
カカシが静かに話しかけてきた。
「あんまり会ってなかったからね」
口調に苦笑が含まれている。
「イルカに会いたかったんだけど俺も忙しくてねえ」
カカシほどの忍なら休みでもゆっくりしていられないだろう。
「でも、イルカのことは片時も忘れたことはなかったよ」
もう何も関係ないはずなのにイルカのことを気遣ってくれる。
「気になっていたことも大よそ片がついたから」
枕を高くして眠れるよ、とカカシはイルカの方を振り向いた。
「だからイルカも安心して」
にこりと微笑まれてイルカは、どう言っていいか分からない。
カカシのことになると分からないことばかりだ。
自分の中のカカシに対する気持ちがあやふやで曖昧で形になっていない。
この気持ちが何なのか理解するにはイルカは経験が足りなかった。
もちろん、恋愛に関して、の経験だ。
「さ、着いたよ」
イルカの家に前だった。
「今夜はあったかくして寝るんだよ、食欲があったら少しは食べて」
カカシはイルカの手を離して、その手でイルカの頭を撫でた。
「本当は朝までイルカの傍にいて寝ずの看病をしてあげたいんだけど、今日は深夜にまだ用事があってねえ」
残念、とカカシは眉を下げた。
「俺のことなら気にしないでください」
やっとイルカは声を出せた。
「大丈夫ですから」
用事があるカカシに家まで送らせて挙句に看病だなんて厚かまし過ぎる。
体調が悪いわけでもないし。
これ以上、カカシに迷惑は掛けられない。
そう言うとカカシは悲しそうな顔をした。
「迷惑だなんて思ってないよ。今日は、ほんとに野暮用でね、抜け出せないんだよ〜ね」
野暮用というと女性絡みかもしれない。
薄っすらとイルカは思った。
「ごめんね」
謝ったカカシはイルカに鞄を返してきた。
「この埋め合わせはまた今度するから」と律儀に言ってくる。
「いいんです」
イルカは何故かムキになってしまう。
カカシに優しくされて嬉しいのか嬉しくないのか、混乱してきた。
「カカシさん、明日は『お見合い』なんでしょう」
そんな言葉まで出てきてしまった。
「え、なんで知っているの?」
カカシは否定しなかった。
「まあ、そうなんだけどねえ」
気乗りしない様子で肩を竦める。
「しょうがないかなあって」
「・・・そうですか」
「どっちにしろ、折角だから楽しんでこようとは思っているけどね」
お見合いを楽しんでくる、ということは。
いくら察しの悪いイルカでも分かることはある。
目の前が真っ暗になるような思いであった。
それと共に自覚した。
明日のカカシのお見合いの相手に嫉妬していることを。
カカシのことを特別な気持ちで思っていることを。
その特別な気持ちが好きだということを。
ずっと待っていた19
ずっと待っていた21
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