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ずっと待っていた17



確かにカカシは言った、随分前だが。
『恋人ってのは仮のだからさ、深く考えないでよ』
イルカは、はっきりと覚えている。
カカシさんと俺は恋人だけど恋人じゃない。
仮の、だ。
そう思って悲しくなった。
仮の関係を解消すれば悲しい気持ちは消えるかもしれない。
カカシは面食らったようで何かを考え込んでいる。
腕を組み難しい顔をしていた。
「あのさ、イルカ」
カカシが玄関から一歩、踏み出してきたので反射的にイルカは一歩下がってしまう。
「イルカ」
すっと細まったカカシの目が悲しそうに見えた。
それを見ると胸が痛くなった。
悲しいのは自分の方だと思っていたのに。
カカシが悲しそうにしているのが辛い。
カカシさんが悲しくなる必要ないのに。
「そっか」
小さく息を吐いたカカシは肩を落とした。
「そっか、仮のだったんだよね、俺たち」
「はい」
「すっかり忘れていたよ、そんなこと」
そんなこと・・・。
カカシにとっては忘れてしまうほどの些細なことだったのか。
これが意識に食い違いというものか。
辛くなって下を向いてしまった。
自分の爪先だけが目に入った。



「ですよね、忘れてしまいますよね」
気持ちを振り払うようにイルカは一気に喋っていた。
「俺、カカシさんに甘えすぎていました、すみません。仮の関係なのに、ずるずるとここまで来てしまって本当にすみません」
下を向いたまま、更に頭を垂れた。
「本当にごめんなさい。俺がいなければカカシさん、自由に恋愛もできたのに。俺が邪魔してしまっていたんですね。里に帰ってきたカカシさんに周りには綺麗な人がたくさんいたのに」
「ちょっと待ってよ、イルカ」
それは誤解だとカカシが言うのを遮って続ける。
「俺なんかが本当に・・・」
「イルカ!」
強い口調で名を呼ばれて、がっと肩を掴まれてカカシに顎を掴まれて顔を上げさせられた。
目の前にはカカシが怖い顔して立っている。
「それは誤解だから、そんな風に言わないでよ自分のこと」
イルカは何かを言おうとしたけれど言葉にならない。
「もう、なんて顔しているの」
カカシの腕が背に回り胸に抱かれた。
「そんな顔しないで」
どんな顔をしていたのだろう、想像がつかないが情けない顔をしていたに違いない。
「イルカがそんなに思いつめていたなんて気づけなくてごめん。イルカは邪魔なんてしてない、何もしてないよ」
カカシの胸の中にいると温もりが伝わってくる。
あたたかった。



「俺はイルカを離したくないし離す気はないけど」
イルカの頭上でカカシが独り言を言っている。
「でも、この状況から一発逆転を狙うのも・・・。もう一度、初めからか・・・」
ぎゅっとカカシがイルカを更に胸に抱き寄せた。
カカシの独り言が聞こえにくくなる。
最後に聞こえた言葉は「気になることもあるし、しょうがないか・・・」だった。
イルカはカカシの胸に顔を押し付けている。
その胸が大きく上下して、カカシが溜め息を吐いたのが伝わってきた。
「うん、そうしよう」
何を決めたのか、カカシはイルカの肩を掴むと自分から引き剥がした。
上から顔を覗き込まれる。
「分かった、イルカ。別れるよ」
自分から言い出したのにカカシに言われると衝撃は倍だった。
「イルカと別れる」
「あ、はい」
自動的に頷いた。
「別れることにするから、ええと理由は・・・。あ、俺が振られたってのでいい?」
「それは駄目です」
衝撃を受けて動揺しながらもイルカは首を振った。
「そんなの駄目です、カカシさん、すごい人なのに。振る人がいるなんて考えられないです」
「そう?」
一応、別れ話なのにカカシが、にんまりと口角を上げる。
イルカが言った、自分の評価が嬉しかったようだ。
「そうです、俺が振られたってことにでも」
「それは駄目」
今度はカカシが首を横に振った。
「それは有り得ない」
「なんでですか?」
純粋にイルカは不思議に思う。
上忍のカカシさんに中忍の俺が振られるなんて普通じゃないのか、と。



「あー、なんでもどうしても駄目だって」
カカシは譲らない。
「俺がイルカを嫌いになるなんて有り得ないから」
「はあ」
「かと言ってイルカが俺を振るにしても俺の他に好きな人が出来たとかだっていうのは俺が嫌だし」
ごちゃごちゃとカカシは、あーでもないこーでもない迷った末に宣言した。
「とにかく仮の関係は解消、俺とイルカは何でもないってことにしておくよ、俺が何とかして」
カカシは胸を張った。
「まあ、俺の力を見ていなさいって、これでも上忍だから」
自信満々だ。
「はい」
素直にカカシに一任することにした。
「あ、そうだ」
イルカはポケットの中を探る。
銀色の鍵が出てきた。
「あの、これ、お返しします」
「あ、うん・・・」
カカシの差し出した手の平に鍵を乗せる。
カカシの家の鍵は本人の下へ戻ったのだ。
これでカカシとの繋がりはなくなる。
明日から仮の恋人でもなく、ただの知り合い。
イルカは頭を深々と下げた。
「今までありがとうございました、お元気で」
言うだけ言って、踵を返し歩き出す。
振り返らなかった。
カカシが、どんな顔をしているのか見たくなかった。




ずっと待っていた16
ずっと待っていた18





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