ずっと待っていた16
それから何度かカカシが女性といるところを目にした。
女性ばかりではなくて男性も、もちろん一緒にいたりする。
カカシは、その人たちを楽しそうに話をしていた。
里に久しぶりに帰ってきて、久しぶりに会う人たちに積もる話もあるだろう。
楽しそうに話しをするカカシは生き生きとしていた。
人生を謳歌している、とそんな言葉がイルカの頭に浮かぶ。
ただ、その中に自分がいなかっただけなのだが。
元々、里を離れて会うことの少なかったカカシであったが、身近にいても接点が余りない。
自分とカカシの関係。
薄っぺらいものなのかもしれない。
仮の恋人関係も解消、消滅させた方がいいのかもしれない。
イルカは思い始めていた。
たとえ、それが一部の人が知っていても上忍と中忍ならすぐに忘れられてしまうの違いない。
いったん思い始めると、それが正しい選択だとしか思えなくなってしまった。
カカシは里で休養と言いつつも任務を少し受けていた。
それは受付所の仕事をしているイルカも知っていた。
休養はしているけれども忙しい。
それがカカシの現状だ。
会う機会も少ない。
カカシを見かけることはあっても個人的な話も自然としないようにしている。
壁があるような気がして。
それはイルカだけが感じていることかもしれないけれど上忍としてのカカシに気後れしてしまうのだ。
どうしようもない。
逆に言えば、カカシと表面上とはいえ恋人としての関係があるからかもしれない。
イルカは一人、悶々と悩んでいた。
プライベートでのデリケートなことを相談できる相手が思いつかず。
イルカの悩みは、ますます混迷していったのであった。
夕方、受付をしているイルカのところへカカシがやって来た。
会うのは何日かぶりだ。
カカシは報告書をイルカに差し出した。
任務で、どこぞに行っていたらしい。
イルカは報告書を受け取って、不備がないか確認してから受領の印を押す。
報告書は、それで終了だ。
会話も受付所での通り一遍の会話だ。
「報告書をお願いします」
「はい、大丈夫です。お疲れ様でした」という。
通り一遍の会話が終わるとカカシが何を言いたそうにイルカを見ていた。
「・・・どうかしましたか?」
なんとなく訊いてみるとカカシが小声でイルカに言ってきた。
「あのさ、イルカ」
「はい」
「今日はご飯、一緒に食べない?」
「ご飯って夕飯ですか?」
「そう」
カカシが笑みを浮かべる。
誘い方が、なんだか奥ゆかしい。
「予定がないならの話だけどね」
「特にありませんが」
ただ、今日は受付の仕事が終わるのが遅い時間になる。
そのことを告げるとカカシは頷いた。
「じゃ、仕事が終わったら俺の家に来てくれるかな。何か作って待っているから」
「・・・分かりました」
イルカが了承するとカカシは嬉々としてして受付所を出て行った。
カカシさんの家で二人きり。
誰にも邪魔されない。
だったら・・・。
ここ数日間、悩みに悩んで決めたことをカカシに言ってみよう。
もしかしたら不愉快に思うかもしれないけど。
しかし、ここで言わなければ、けじめや示しがつかない気がする。
・・・それにカカシさんに悪い。
心の中を一番、しめていたのはこの想いだ。
頑張って言わないと。
イルカは密かに決心を固めていた。
受け付けの仕事が終わってイルカは、とぼとぼと歩いていた。
カカシの家に行く為にだ。
行ってからのことを考えると気が重くなる。
憂鬱だなあ。
小さく溜め息を吐く。
足取りは重かったが歩いているのでカカシの家に着いてしまった。
カカシの家を前にしてイルカは自分を叱咤した。
頑張れ、俺。
やれば出来るから。
玄関脇のドアのベルを押す。
がちゃ、と音がして玄関の扉が開いた。
中から出て来たカカシは、いつものように優しい顔をしている。
「お帰り〜」
なんの蟠りもなくイルカに言ってきた。
「待っていたよ〜。さあ、中に入って入って」
招かれたが家に入ればカカシの優しさが仇になり、決心が鈍りそうな気がする。
というか、多分、言えない。
だったら、ここで言ってしまった方がいい。
急に心臓が、どきどきと音を立て始めた。
じっとカカシの顔を見たまま、動かないイルカを訝しく感じたのかカカシが表情を曇らせた。
「どうかした、イルカ」
心配そうだ。
「何かあった?」
はあっと息を大きく吸い込んだイルカは目を閉じた。
吸った息を吐き出し、目を開ける。
カカシを、しっかりと見て言った。
「カカシさん、別れてください」
「・・・・・・・・・は?」
「じゃなくて、恋人関係を解消してください」
「・・・・・・・・・え?」
「あ、『仮の』恋人関係ってことですけど」
『仮の』を強調した。
イルカの言葉を聞いたカカシの目がまん丸になる。
ひどく驚いているようだった。
でも、これはイルカが、ずっと悩んで考えていたことだ。
イルカも二十歳直前で里にいる今はカカシに守ってもらう必要はない。
まだまだカカシには及ばないが、修行もたくさんした。
自分のことは自分で守れるつもりだ。
カカシもカカシの人生がある。
思いつめたようなイルカの雰囲気にカカシが肩を落とし、自分の額に手を当てる。
ショックを受けているようだった。
逆に言われた。
「俺たちの関係、つまり恋人関係のことだけど」
カカシに問われる。
「『仮の』だった?仮の恋人関係って・・・」
そんな関係だったっけ、と。
「そんな関係って、だって、それって、あれで」
カカシの言葉にイルカは狼狽する。
俺が間違っていた、とか?
イルカもカカシの言葉にひどく驚いたのであった。
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