ずっと待っていた11
硬直していたイルカは数秒後、はっとなって落ちた本を拾った。
元に戻すと足早に本屋を出る。
早足で、すたすたと前も見ずにひたすら歩いているといった感じだ。
肩から掛けていたカバンを胸の上にて両手で、ぎゅっと抱きしめている。
顔色は若干、青褪めていた。
簡単に言えばショックを受けているように。
そうだった・・・。
歩くイルカは心の中で思っていた。
先ほど立ち読みしたほんの内容を反芻する。
そうだ、そうだよ、そうなんだよ・・・。
盛んに瞬きを繰り返すのは動揺している証拠だ。
告白して好きだって伝えて、それで終わりじゃないんだ・・・。
お付き合いすれば当たり前のことなのだがイルカは、すっかり忘れていた。
頭から抜け落ちていた。
好きだと告白してから、その先があるんだ!
もうすぐ二十歳になのに、そんなことも忘れていた自分が情けなくもある。
大人のお付き合いって・・・。
恋人になるって、そういうことだったのか。
晴れて恋人の意味を悟ったイルカ、十代最後の夏でもあった。
イルカが歩いて歩いて辿り着いた先は自分の家であった。
無意識の内に自宅への道を歩いていたらしい。
そのまま無意識の内に鍵を取り出し、玄関の扉を開ける。
後ろ手に玄関の扉を閉めるとイルカは扉を背にして、ずるずると座り込んでしまった。
胸に抱えたカバンを未だ、抱きしめている。
記憶の奥底に潜めていた過去を振り返っていた。
もう何年も前のことになるけれど。
・・・・・・昔、迫ってきた人もそういう気持ちを抱いていたのだろうか。
考えてみる。
答えは出なかった。
・・・・・・でも、もしも、あの時、カカシさんが助けてくれなかったらどうなっていたんだろう?
それに。
・・・・・・カカシさんが恋人の振りをしてくれていなかったら。
憂鬱な気持ちになってイルカは溜め息を吐いた。
カカシさんとは仮のだけど恋人で。
それで自分は無事、という表現は、ちょっと違うかもしれないが今まで何もなかったのはカカシの恋人だからなのかもしれない。
カカシさんのお陰か。
高名で二つ名を持つ稀有な忍者、はたけカカシ。
立場は仮の恋人だけども。
上忍と中忍の間柄で親しくさせてもらっていることに感謝しなければならない。
「カカシさんて、すごい人だもんなあ」
今まで聞いたカカシの噂を思い出してイルカは目を閉じた。
「仮にでも俺の恋人だなんて、もったいない人なんだよなあ」
大きくなったイルカは横の繋がり、縦の繋がりを色々、感じ始めている。
忍においても階級の壁も。
大人って大変・・・。
イルカは、また溜め息を吐いた、深々と。
恋人とかお付き合いの先があることに気がついたイルカは、それから恋愛に対して怖気づいていた。
可愛い女の子に告白してキスをして、が願望だったが。
夢見ていた過去の自分を叱りたくなる。
馬鹿だなあ、俺って。
以前、カカシにそのことを話した時、カカシが実に微妙な顔をしていた訳が今になって解った。
カカシさん、きっと俺のこと夢見すぎだと思っていたよなあ。
もう夢から覚めたけどね・・・。
イルカは自嘲する。
俺って、すっごく子どもだったんだなあ。
カカシさん、俺のたわ言を何と思って聞いていたんだろ。
言いたいことが、たくさんあったに違いないよな〜。
次にカカシに会ったら、どんな顔をすればいいのか分からない。
会いたいけれど会いたくない。
そんな気持ちだ。
「カカシさん・・・」
名前を口に出すと無性に会いたくなった、カカシに。
「これでよし、と」
イルカはカカシの家に鍵を掛けてカカシの家を出た。
カカシが留守の間、家の鍵を預かっていたので何回かカカシの家に訪れていた。
一回目は借りた服を返すため、二回目は空気の入れ替え、三回目は軽く掃除とイルカはカカシがいつ家に帰って来てもいいように手入れをしていた。
せめてもの恩返しだ。
カカシが恋人として自分を守ってくれているための。
今日は布団を干してみた。
一日、干した布団はふかふかでお日様の匂いがする。
ベッドに布団をセッティングしてイルカは満足そうに頷いた。
「いい感じ!」
部屋の中も掃除をして綺麗になっている。
カカシさんが帰ってきたら・・・。
帰ってきたら、とわざとその先を考えない。
がちゃりと玄関に鍵を掛けて手の中のカカシの家の鍵を見つめる。
「鍵を返さなきゃ、な」
イルカは、きらりと光る鍵を見つめて呟いた。
そんなイルカの前に一人の女性が現れた。
銀色の長い髪が美しく、どこかカカシを連想させる。
きりっとしたような雰囲気を持っていた。
「あなたがイルカ?」
初対面の女性はイルカの名前を知っていた。
切れ長の黒い目がイルカを見つめる。
「聞いていたとおり可愛い子ね」
くすり、と笑った表情に、どきりとさせられた。
「あの・・・」
事態が把握できない。
聞いていたって誰に?
なんで俺のことを知っているんだ?
浮ぶ疑問に女性は、さらりと答えた。
「カカシに聞いたのよ」
「カカシさん・・・」
懐かしい名前であった。
ずっと待っていた10
ずっと待っていた12
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