ずっと待っていた10
「ここ、どこ!」
見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上で朝からテンション高くイルカは叫んでいた。
辺りを見回すと声がした。
「あ、おはよ〜」
そこへ、のんびりとした声がする。
どっかで聞いた声だ。
「まだ寝てていいのに。朝日が昇るまでには、だいぶ時間があるよ〜」
声のする方を見るとカカシがいた。
既に身支度を終えて足元に大きな荷物がある。
あ、そっか。
イルカは思い出した。
今日の朝、発つって。
カカシの任務のことを思い出したのだ。
・・・ってことは。
イルカは気を落ち着けた部屋の中を改めて見た。
簡素な部屋で物が少ない。
常に人が住んでいるようではない雰囲気がある。
「ここって・・・」
「うん、俺の部屋だ〜よ」
にっこり笑ったカカシが言った。
「カカシさんの部屋・・・」
「そうそう」
にこにこしたままカカシはイルカの方へ来て、ベッドに腰掛けた。
「ここは俺の部屋で俺のベッド。イルカが来ている服は俺の服」
「服?」
言われて見るとイルカは忍服ではなく、ゆったりとした服を着せられていた。
非常に着心地がいい。
「カカシさんの服・・・」
そこでイルカの思考が止まった。
カカシさんの服着て、何でカカシさんの部屋のベッドで寝てんの?
軽くパニックになった。
昨日の夜、カカシさんと久しぶりに再会して、で飯食べに行って、それから・・・。
それから記憶が曖昧だ。
美味い飯を食べていて、そしたら。
そしたら偶然、隣の席にカカシの知り合いがいたのだ。
カカシさん、とっても嫌な顔をしていたなあ。
知り合いに対して、何故かカカシが嫌な顔をしていたのを、はっきり覚えている。
それで、その知り合いの人が・・・。
「ああ!」
イルカは完全に思い出した。
ぽん、と手を打つ。
「お酒を飲んだんだっけ」
人生初の。
正しくは舐めただけだったが。
「そうだよ、イルカ」
昨日のことを思い出したイルカの横でカカシが渋い顔をしていた。
「昨日、俺の知り合いのやつに冗談で酒を飲むかと勧められて、ちょっとだけ酒を舐めてイルカ、すぐ寝ちゃったでしょ」
「はあ・・・」
カカシの知り合いは酒を飲んでいて、酒ってどんな味だろうと好奇心で見ていたら、お猪口に酒を少し入れて勧められ、つい飲んだというか舌で、ちょっと舐めたのだ。
「俺が手洗いに立って戻ってきたらイルカ、酔っ払って机の上に突っ伏して寝ているし」
びっくりしたよ、と真面目な顔でカカシに言われてイルカは反省した。
「すみません」
「イルカが未成年なのに酒を飲むのを黙認した俺も悪いけど」
「飲むってほどでもなかったですけど」
「それでも飲酒になるでしょ、俺が悪い」
カカシは成人しているので、一緒に食事をしていたイルカの保護者のつもりでもあったのかもしれない。
責任を感じているらしい。
そのことについてもイルカは反省した。
「本当にすみません」
カカシに迷惑を掛けてしまった。
「ごめんなさい」
素直に謝った。
「ま、いーけどね」
謝るイルカの頭をカカシは撫でた。
「酔っ払ったイルカは何回もカカシさんって呼んでくれて、カカシさんって呼ぶのにも慣れたみたいだしね」
「え、あ・・・」
そういえば起きた時から違和感なく、カカシさんと呼んでいた。
それは昨日の名残だったのか。
「で、イルカは寝たまんまで起きなくてイルカの家は分からないしで、俺の家に連れてきたってわけ」
「そうだったんですか」
謎は総て解けた。
昨夜はカカシの手を、たいそう煩わせてしまったらしい。
酔った自分を覚えていないが、どんな醜態だったのだろう。
考えれば考えるほど恥かしく、穴があったら入りたい気分だ。
そう思ってイルカが小さくなっているとカカシがイルカの額を、ちょんちょんと突付いた。
「お酒は成人してから一緒に飲もうね」
「・・・はい」
「俺がいない間、勧められても飲んじゃ駄目だよ。イルカは酒に弱すぎるみたいだし」
「・・・・・・はい」
反省したイルカの答える声は小さかった。
そんなイルカを見つめるカカシの目は穏やかであたたかい。
「じゃ、俺、もう行くから」
腰掛けていたベッドの上から立ち上がった。
「え、もう?」
「そう、次に会うのはいつになるかなあ」
よいしょ、とカカシは荷物を背負った。
何が入っているのか、非常に重そうだ。
「また何年か先かな?」
おどけたように言うカカシに、逆に寂しさを覚える。
イルカはベッドから下りてカカシの傍に駆け寄った。
「カカシさん・・・」
見上げるとカカシが優しい顔をしていた。
「寂しいです」
「うん、俺も」
思わず、吐露してしまったイルカの言葉にカカシも頷く。
「寂しいけど、いい子で待っていてね」
「はい」
よしよし、とカカシはイルカの頭を、また撫でる。
「俺の家の鍵は玄関横の靴箱の上に置いてあるから家を出る時、鍵をかけておいてね」
すたすたとカカシは玄関に行き下足を履く。
履いてからイルカの方を振り向いた。
「俺は寂しい時、この本を読んでいるよ」
カカシは、いつの間にか18禁のマークがある本を手に持っていた。
「結構、面白いよ」
へえーと思っているイルカの隙を突いて、イルカの頬にキスするとカカシは行ってしまった。
あっさりと。
実に、あっさりとした別れであった。
カカシがいなくなって普通の日常が戻ってきた。
イルカはカカシのことを思い出しながらも勉強や修行に明け暮れる日々だ。
そんな中、本屋に立ち寄った。
目当ての本を探しながら店の中を歩いているとカカシの持っていた本が置いてあるのが目に入った。
山積みになっている。
「あ、これ」
カカシが別れ際に持っていた本だ。
寂しい時に読んでいると言っていた。
カカシが懐かしくなってイルカは本を手にとった。
ぱらぱらと中を見て、一ページ目を流し読みする。
どさっ。
イルカの手から本が落ちた。
本を読んだイルカは大きく目を見開いて、体が硬直している。
ひどく驚いた表情であった。
ずっと待っていた9
ずっと待っていた11
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