協定者たち 8
「でも。」とイルカが渋りながら言った。
「カカシさんに泊まりに来てもらわなくて平気です。」
無理に笑って強がったりする。
「まあまあ。まだ、体が本調子じゃないだろ。念には念を入れて、今日はカカシさんに泊まって貰えよ。」
ゲンマが諭す。
「俺達はもう行かないといけないし。な?」
イルカの肩を軽く叩いて、ゲンマとハヤテは病院から立ち去ってしまった。
去り際に、ハヤテがカカシに「イルカのこと、お願いします。」とぼそりと呟いたのだ印象的であった。
邪魔者二人がいなくなってカカシは浮き浮きとする。
「さ、行きましょうか。」
「カカシさん、俺んち本当に来るんですか?」
「うん。」
カカシが元気よく頷くとイルカは首を振る。
「来てもらわなくても大丈夫ですから。」
「どうして?」
「あの、俺んちって、かなり変わってると思うんですよね。」
だから、と続ける。
「来て見たら、ビックリするというか驚くというか。俺のこと嫌になるんじゃないかと。」
ちょっと俯いてしまった。
「それってさ。」
カカシの弾んだ声が聞こえて、イルカは顔を上げる。
「嫌になるんじゃないかってことは、嫌になってほしくないってことだよね。」
「え?そうですか?」
「そうそう。つまり、俺のこと意識しているんでしょう?」
「それは違うんじゃ。」
「違わない、違わない。」
ご機嫌なカカシはイルカの荷物を持つと、イルカの手を引いて病院を後にした。
イルカの家には食べる物が何もないというので、途中、店に夜って軽く夕飯を食べた。
家に着くとイルカは恐る恐る鍵を開けて、カカシに「びっくりしないでくださいね。」と念押しする。
そんなに変わっているのかと思いきや、部屋を見ると意外に普通だった。
人が住んでいる気配が気薄で、家具や物が少なく、がらんとした印象はあったが。
食器も少なく、台所は使われた形跡がない。
「どうやって生活しているんですか?」
疑問が口から出てしまう。
「生活ですか?朝はトマトジュース飲んで、昼と夜は外で食べるか、もしくは食べないかの、どちらかですね。」
「食べなくていいの?」
「特に支障はないです。でも食べることは好きですよ。」
イルカはそう答えて、風呂の準備に行ってしまった。
「冷蔵庫にビールが入ってますよー。」とお風呂場から聞こえてくる。
「はーい。」とカカシは返事をして、居間の目立つところにあった冷蔵庫を開けてみた。
「トマトジュースばっかりじゃん。」
とりあえず、冷蔵庫の隅にあったビールを手に取り、人心地付く。
改めて部屋を見回してみた。
カーテンは分厚く、外の光を遮断するものだ。
部屋はどちらかというと暗いイメージで。
イルカはこの部屋で生活しているのか。
それに、とカカシは気が付いた。
あれがない。
鏡が。
自分自身の姿を映せる物が存在しなかった。
「カカシ先生、お風呂できましたよ。お先にどうぞ。」
戻ってきたイルカにタオルと着替えを渡されて、風呂場に行くとそこにも鏡はなかった。
「鏡?」
別々の布団に入り、電気を消してからカカシとイルカは暫く話をした。
そこで、カカシは先ほどの疑問を聞いてみたのだ。
「ああ。うちにはないですね。」
イルカが事も無げに言う。
「使わないの?」
「・・・自分の姿が映りませんから。」
「え、そうなの?」
カカシの声が高くなる。
「だって、外では映っていたよね?」
「まあ、外では鏡やガラスに映るように気を遣っているんで。自分の家に帰ってきてまで、その必要はないでしょう?」
イルカは欠伸をした。
「外では制約が多いので、家では自由にしていたいんです。」
「まあ、そうだよね。」
イルカの欠伸が移ったのか、カカシも欠伸が出た。
そういえば、昨夜は徹夜だったな。
思い出すと、急に眠気が襲ってきた。
「カカシ先生。」
「何?」
欠伸交じりで返事をする。
「昨晩はありがとうございました。ずっと、付いていてくれて。」
「何で知ってるの?」
「ゲンマさんから聞きましたし。それに昨日の夜は暖かいチャクラを感じました。」
「そっか。」
本格的に眠くなってきた。
イルカが鏡に映らないということは少し衝撃的だったけど。
これも種族の違いなのか。
眠る一歩手前でイルカの声が遠くに聞こえた。
「明日の朝は起きても、絶対にカーテンを開けないで下さいね。」
「ん。」
「絶対ですよ。」
返事をしたのか、しないのか。
それを最後にカカシは眠りに落ちたのだった。
協定者たち 7
協定者たち 9
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