協定者たち 6
朝になると、イルカは薄っすらと目を開けた。
カカシの姿を目に留めると呟く。
「・・・ゲンマさん?」
「ええっ。」
てっきり自分の名を呼ぶと思ったカカシは思わず大きな声が出てしまう。
「違いますよ、ゲンマじゃありません。俺です、カカシですよ。」
訂正するとイルカは息を吐いて目を閉じた。
どことなく残念そうな、気落ちしたような様子である。
「すみません。」
イルカは目を閉じたまま詫びた。
「その、目がよく見えなかったものですから。」
「目が見えないの?今、医者を・・・。」
医者を呼びに病室を飛び出そうとしたカカシにイルカは呼び止める。
「待ってください。先に飲みたいのものがあるんです。」
「飲みたいもの?」
「はい。この病室の冷蔵庫に入ってるはずです。ゲンマさんが用意してくれていると思うので。」
カカシは内心、またゲンマかと憤ったが、今はイルカの言うとおりに冷蔵庫を開けた。
そこにあったのは、トマトジュースだ。
紙パックのトマトジュースが幾つか入っていた。
そのうちの、一つを取りイルカのベッドに戻る。
「起き上がれますか?」
カカシの問いにイルカが緩く首を振るものだから、肩に腕を回して起き上がらせた。
体は氷のように冷えている。
紙パックにストローをさして口元の持っていくと、イルカはゆっくりと全部飲み干した。
数秒後、イルカの体が熱を持ち始めて、体を支えているカカシにも伝わってくる。
夜、何者かに付けられた首の傷も朝には治っていた。
驚きを隠せないように目を見開くカカシにイルカは薄く笑う。
「驚きましたか?」
「いや、そんなことはないよ。」
否定する言葉にイルカは一瞬間、悲しそうな目をしたのだが、カカシに気づかれる前に瞼を閉じてしまった。
カカシは再び、イルカをベッドに横たわらせると肩まで布団を掛けてやる。
「カカシさ先生、任務があるでしょう?行って下さい。」
か細い声が聞こえた。
「昼間は大丈夫ですから。」
「でも。」
躊躇うカカシ。
「夕方に、また来てくれればいいです。待ってますから。」
「分かった。」
昼間は大丈夫だという理由を聞きたかったが、イルカからは静かな寝息が聞こえてきた。
昼と夜は、どう違うのだろうか?
昨夜のハヤテも聞き方の意味を変えれば、夜は何か気をつけなければいけない理由があるからイルカの元へ急いで行ってくれと言ったのではないか?
初めて、カカシは種族の違いとやらを感じていた。
昼間、カカシが不在の間は念のためにイルカに忍犬を付けておいた。
夕方、忍犬から異常なし、との報告を受けたカカシは病院へ急ぐ。
病室のドアを開けると、そこにはイルカとゲンマがいた。
ゲンマはベッドに起き上がっっているイルカの額に自分の額を当てて、「熱はない、体調も回復傾向だな。」と言っている。
カカシの姿を見とめると、「こんちは、カカシさん。」と挨拶をしてきた。
二人の仲の良さそうな場面を見せ付けられたカカシは、思い切り不機嫌を顔に表してイルカとゲンマの間に割り込むと二人を引き裂いた。
「ちょっと、ゲンマ。イルカ先生に余り近づかないでよ。」
背に庇うようにイルカの前に立ちはだかって、腕を組み威圧する。
その光景にゲンマは笑い声を上げた。
「ははははは。カカシさん、妬いてるんですか。」
怖い怖い、と肩を竦める。
益々、カカシは不機嫌になった。
「ちょっとゲンマ。少し話があるんだけどいい?」
「ここでですか?」
「いや、ここじゃなくて。」
「いいでしょう。」
ゲンマは頷いて、不安そうなイルカに目配せをした。
「少し待っていろよ。すぐ戻ってくるから。」
イルカの肩をとんとんと叩く。
「だから、触るなって。」
怒るカカシを軽く往なして、ゲンマは退室を促した。
病院でも人がいない中庭に来るとカカシは要点を纏めて簡潔に昨夜のことを説明した。
ゲンマは感慨深く聞いている。
しばらく考え込んだ後、ゲンマは確認するように聞いてきた。
「それで、その不法侵入者はカカシさんが来たら消えた訳ですね?」
「俺が来たのが理由とは思えないけど、そうなるね。」
「そうですか・・・。」
ふむと頷きゲンマは呟いた。
「やっぱり、カカシさんで正解だったな。」
それは聞かすためと云うより、思わず口から洩れたような呟きだったのだがカカシは聞き逃さなかった。
「やっぱりって何よ、ゲンマ?」
「え?いやあ、ははは。」
笑って誤魔化そうとするゲンマにカカシは詰め寄った。
「ゲンマ、俺も聞きたいことがあるんだけど。」
「なんでしょう?」
薄っすらと殺気を出すカカシ。
「俺のこと騙したね?」
ゲンマの顔から笑みが消える。
「いや、利用したと言ったほうがいいのか。」
「やっと気がつきましたか。」
ゲンマの両目が赤く光った。
協定者たち 5
協定者たち 7
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