協定者たち23
次の日、夕方、上忍控え室にいたカカシの元にゲンマが現れた。
「カカシさん、こんちは。」
早めに任務が終わったのか、予定より早く帰って来たらしいゲンマは、少々疲れた顔をしている。
本を読んでいたカカシは、ゲンマを、ちらと見てから視線を本に戻した。
「風の噂に聞いたけど。」と言いながら本のページをカカシは、ぱらりと捲る。
「とある国の城が昨晩、一夜の内に崩落、瓦解、城壁諸とも総て、粉砕されて跡形もなくなったんだって。しかも、別々の国の、別々の場所にある三つの城が同日同時になるなんて不思議だねえ。」
カカシは意味ありげに言う。
「術の痕跡もトラップ、爆薬を使った形跡もなく誰がやったか判らないらしいんだけど。」
ゲンマは聞き終わると黙って頷いた。
それは了承の意だ。
「派手にやったねえ。」
簡潔にカカシは感想を述べた。
「まあねえ。」とゲンマは肩を竦める。
「里から、やれと言われればやるのが俺たちの役目なんでね。」
「ふーん。」
「カカシさんだから、言っちまいますけど、城を三つ同時に破壊なんて大変でしたよ。人手も要りますしね。」
「だろうね。」
つまり、人手がいるのでイルカは昨日、狩り出されたということだ。
「爆発的な力が必要なんで。」
ゲンマはポケットに突っ込んでいた両手を出して見せた。
珍しく手首まで隠れる手袋をしている。
その手袋の下には包帯を巻いているようだった。
血の匂いが微かにする。
「久しぶりに力を思い切り使ったら、この有様ですよ。」
ははは、と乾いた笑いを漏らした。
「力って、素手で城を破壊したの?」
「そうですよ。」
ゲンマは、あっけらかんと答えた。
「馬鹿力だねえ。」とカカシの呆れた様子に苦笑いをする。
「まあ、それも俺たちの持っている力の一部なんで。」
「で、ですねえ。」とゲンマは思い出したようにカカシに言った。
「イルカの見舞いにでも行ってくれませんか。」
「見舞い?」
「イルカも手を怪我してますんでね。そりゃあ、俺たちは回復は早いですよ。でも一晩で、怪我が治るなんて魔法のようなことはないんで。」
「イルカ先生の怪我、ひどいの?」
「ちょっとだけですがね。昨日、作ったカレーでも持っていって、イルカに食わせてやってくださいよ。」
「昨日は邪魔したくせに。」
カカシが恨みがましい目つきでゲンマを見る。
「それは・・・。」とゲンマは眉を潜めて微妙な表情をした。
「初めてのデートで、いきなり自分の家に連れて行くってどうなんです?」
逆にゲンマが恨めしそうにカカシを見る。
「俺の立場からしたら、揺れる乙女心みたいに複雑怪奇な心境ですよ。カカシさんの家に連れて行かれたイルカがどうなるのかなんて考えたら・・・。」
「乙女心ってなんだ、それ?」
「二人の付き合いを応援したいけどしたくない、認めたいけど認めたくない、許したいけど許したくない・・・。そんな感じですかね。」
昨日、タイミングよく邪魔したのも、実はカカシに対するゲンマの牽制だったのかもしれない。
ゲンマの心境は、丸っきり、子供を心配する親、そのものだ。
「とにかく、怪我をしているイルカにカカシさんが、どうこうする訳ないと思っていますから。」
早口でゲンマは言うと、何かを振り切るように、ぼん、と消えた。
悔しげに「イルカをよろしくお願いします。」と言う言葉を残して。
しばらく、カカシは上忍控え室でゲンマに言われたことを考えていたが、くつくつと笑いが出てしまった。
「結局は認めざるを得ないんじゃないの。」
カカシは立ち上がると、うーんと伸びをして首を動かし、ぱきぱきと鳴らす。
「さてと、イルカ先生のところへ行きますか。」
昨日、カレーを作っておいてよかった、と内心思いながら、カカシは、とりあえず自分の家へと急いだ。
カレー鍋と、ついでに炊いた白米を持ってカカシはイルカの家の前に立っていた。
手を怪我しているなら炊事などできないだろうし、そうしたらご飯を炊いて食べるなんてことはしてなさそうだし、と思ってカカシは抜かりなく炊いたご飯を持ってきたのだ。
イルカの家の中に気配はあるので、イルカは在宅しているらしい。
一度来たことがあるイルカの家のドアチャイムを、ちょっと、どきどきしながらカカシは押した。
ピンポン、と可愛い音が鳴り玄関付近に人の気配が近づいてくる。
気配は少し弱弱しい。
「イルカ先生!」
カカシは堪らず声を掛けた。
「えーと、俺です、カカシです。あの、ええーとカレー持ってきました!」
元気な掛け声に押されたのか、ドアノブが回って、かちゃりと玄関のドアが薄く開けられた。
細い隙間からイルカの顔が覗く。
「カカシ先生・・・。」
ひどく、やつれて見えるのは気のせいだろうか。
光線の加減なのか、顔色が悪く見えてカカシは焦ってしまう。
「カレー!カレー食べましょう!」
食べれば元気になるかも、とカカシはカレーの鍋を持ち上げてイルかに見せた。
「昨日、あれから作ったんですよ。二日目のカレーは上手いですから食べたら、きっと元気が出ますよ!」
イルカの目が細まって、笑ったようだった。
「愛情たっぷりのカレーですか?」
静かで密やかな声だが、茶目っ気な雰囲気を感じさせる声である。
頬に赤みがさしていた。
「ええ、ええ。もちろん、愛情たっぷりですよ!」
カカシが勢い込んで言うと、微笑んだイルカが「どうぞ。」とカカシのために玄関の扉を開け放った。
協定者たち 22
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