協定者たち22
仲良く夕飯の買い物をして、イルカと一緒にカカシの家に向かう。
カカシの心は近年、稀に見るほど弾んでいた。
イルカが自分の家に来る、そして夕飯を二人きりで和気藹々と食べれることができるなんて、人生って、なんて素晴らしいことだろう。
感動すらしていた。
なのに、その感動はカカシの家に着く直前で打ち破られた。
式が飛んできた。
式は緊急の任務が入った時の報せなのだ。
だが白い小鳥の姿をした、それはカカシではなくイルカの手に舞い降りた。
「・・・何ですか?」
不可解な顔をしたイルカが式の内容を読み、眉を潜めるのを見てカカシは不安になる。
自分に任務が入った時よりも心配になってしまう。
イルカに緊急の任務なんて、絶対、ゲンマ絡みの任務に決まっている。
特殊な力を要する任務であろう。
どうせなら、自分に任務が入ればよかったのに。
そんなことさえ、思ってしまった。
「いえ、あの、そのですね・・・。」
イルカは答えるのに躊躇し、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「今晩、カカシさんの家で夕飯を食べる件なんですけれども。」
とても言い難そうにしている。
「・・・イルカ先生、任務なんですよね。」
イルカの代わりにカカシが答えを言ってしまった。
申し訳なさそうにイルカは頷く。
「すみません。」
肩を落として、心底、残念そうにしている。
「折角、誘っていただいたのに。ごめんなさい。」
「イルカ先生の所為じゃありませんよ。」
カカシは努めて明るく言い、イルカの手を取り微笑んだ。
「今日は、運悪くイルカ先生に任務が入ってしまいましたけど、機会は幾らでもありますから、是非、また来てください。」
「カカシさん。」
イルカは嬉しような哀しような表情が入り混じった顔をする。
「ありがとうございます。」
カカシの気遣いに心打たれたようだった。
「次の機会には、絶対にカカシさんの家にお邪魔させてもらいますね。」
「うん、きっとですよ。」
そう言って、カカシとイルカが目を見詰めあい、微笑みあった時、誰かの声がした。
「そりゃあ、よかった。」
ぽん、と煙が上がり、ゲンマがイルカの隣に姿を現した。
「ゲンマさん!」
ゲンマの出現にイルカは、いとも、あっさりカカシに手を離してゲンマに駆け寄って行ってしまう。
カカシの手が虚しく、宙を握る。
「出たな、お邪魔虫・・・。」
苦虫を噛み潰したような顔をしてカカシはゲンマを密かに睨んだ。
いつもいつも、いいシーンでゲンマは姿を現して、自分たちの邪魔をしているようにカカシには思える。
それが、偶然だとしてもだ。
「あ、カカシさん、こんばんは。」
カカシの形相に気がついたゲンマは、愛想笑いを浮かべた。
「悪いですねえ、お邪魔して。」
そう言いながら、ちっともゲンマの口調は悪びれていない。
逆に不適な笑いを浮かべている。
「そうだよ、悪いよ。だいたい、今日はデートだって知っていて、この仕打ち?今日は、イルカ先生のリクエストで俺の愛情たっぷりのカレーを作る予定だってのに!」
「スパイスは愛情ってやつですかい。カレーは二日目が美味しいって言うじゃないですか。明日の夜には帰ってくる予定ですから。そしたら二人で食べたらいいでしょう。」
「今日は、俺一人で寂しくカレーを食べろってか。」
「まあまあまあまあ、落ち着いてくださいよ。」
ゲンマは余裕の態度だ。
「機会は幾らでもあるんでしょう?今日じゃなくても、カレーは明日でもいいじゃないですか。」
カカシのことを、からかって楽しんでいるようだ。
そんな漫才気味な展開をしている二人をイルカが遮った。
「ゲンマさん、任務に行かなくていいんですか?」
「あ、そうだな。」
ゲンマは軽快な漫才の世界から現実に戻ってきたようだ。
「いかんいかん、つい、カカシさんで遊んでしまった。」
「遊ぶなっての!」
とりあえず、カカシは抗議しておいた。
「んじゃ、行くか?」
ゲンマの問いにイルカが首を縦に振る。
そしてカカシの方を振り返った。
「あの、カカシさん。」
「はい?」
「行って来ますね。」
照れくさそうにイルカが言って、カカシは大いに喜んだ。
イルカがカカシに「行って来ます。」という事はカカシの元に帰ってくるということだ。
そんな気がする。
途端にカカシは機嫌が良くなった。
恋に関しては、意外に単純なのかもしれない。
「行ってらっしゃい。」
見送られることが多いカカシが、見送る側になるのは余りない。
ふと、胸に不安も沸きあがった。
「気をつけてね、待っているから。」
目を細めてイルカを見る。
その眼差しはイルカを包み込んでしまうかのように温かいものだった。
「必ず、俺のところに帰ってきてね。」
イルカは、それには答えず何気にカカシから顔を逸らすとゲンマと共に、どろんと木の葉を一枚残して消えてしまった。
消える間際、カカシの見たイルカの顔は確かに真っ赤になっていた。
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協定者たち 23
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