協定者たち24
イルカの家に上がり、居間に通されるとトマトジュースが入っていたとみられる空瓶や空の紙のテトラパックが散乱していた。
回復を早めるためなのか、任務から帰ってきてトマトジュースを、たくさん飲んだらしい。
しかし、食事をした跡は見当たらない。
「すみません。散らかっていて。」
イルかは慌てて、空瓶や空のテトラパックなどのゴミを拾い集める。
「いいですよ、俺がやりますから。」
持ってきた物をカカシは適当に、その辺に置く。
カカシはゴミを拾い集めるイルカの手を取り、イルカの動きを止めた。
大事そうにイルカの手を包み、そろりと撫でる。
「怪我してるんでしょう。」
イルカの手は白い包帯で巻かれていた。
服の中に続く手首も包帯で巻かれていて、いったい、どこまで怪我をしているのかカカシは心配になる。
掴んだイルカの手から手首、腕から肩へと服の上からなぞると肩口まで包帯が巻いてあるのが分かった。
触られたイルかは、びくりと体を揺らす。
「痛い?」
そうっとカカシはイルカの体に触れる。
念のために他に怪我がないか背や肩を触ってみた。
腕以外に怪我はしていないらしく、イルカの両腕からだけ血の匂いが微かにする。
「手当ては、ちゃんとしたの?」
「ええ、まあ。」
イルカは口篭って答えたが、その様子では手当ても、ぞんざいにしたに違いない。
そんなことに思い当たって、カカシは眉を顰めた。
「幾ら、治るのが早いからって、手当てをしないのは駄目ですよ。」
「・・・ごめんなさい。」
素直にイルカは謝ってくる。
その子供みたい顔にカカシは思わず、イルカの頭を撫でてしまう。
「先に手当てをしましょうか。」
食事よりも先にカカシはイルカの怪我の手当てをすることにした。
怪我に触らないようにイルカの服を脱がし、上半身に何も身に着けていない状態になったイルカは両手というより両腕が包帯で、ぐるぐると巻かれて、所々血が滲んでいた。
ゆっくりと包帯を剥がしていくと、かなり深い傷跡で、酷い有様である。
しかし、イルカは怪我の状態を見て、ほっと一息を吐いていた。
「あ、皮膚の再生が始まっている。」
よかった〜と喜んでいる。
カカシは黙って、イルカの怪我を消毒し薬を塗る。
こんなに怪我をしていて、まだまだ酷い状態なのに、それを見て、よかったなんて言うなんて、最初は、どんだけ酷い状態だったんだよ。
胸が、むかむかしてきた。
怪我をしても早く治るからと手当ても碌にしないイルカと、とんでもない任務をしなければいけないイルカの立場とか、その他諸々に。
見当違いなことで自分が怒っているのは解っているが、どうにも納得できない。
かといって、自分に何が出来るわけではないけれど。
最後は、自分の無力さに行き着いて、結局カカシは溜め息を吐くことしか出来なかった。
「はい、終わりです。」
包帯を清潔なものに替えて、丁寧に巻き終わるとカカシはイルカから借りた治療道具を仕舞い始めた。
「・・・ありがとうございます、カカシさん。」
イルカが控え目に言ってくる。
「あの、忙しいのに、態々来ていただいて・・・。すみません、お手数お掛けして・・・。」
恐縮したように俯いてイルカは身を竦ませていた。
カカシの不機嫌さが、どこかで出たのか、カカシが何かに怒っているのが伝わったらしい。
「俺、もう大丈夫ですから。・・・カカシさんも予定があるでしょうし、だから。」
カカシに帰ってもいいとイルカは言いたいらしい。
じろり、とカカシはイルカを見ると、きっぱりと宣言した。
「俺は帰りません!」
「・・・え。」
「帰りませんからね。帰ったら何のために来たのか全く意味がないじゃないですか。」
「・・・そうですか?」
「俺はイルカ先生にカレーを食べてもらうために来たのに目的を果たすまでは帰るつもりはありません。」
カカシの言葉にイルカは「そっか。」と呟いて、肩の力を抜いて目を閉じた。
「よかった。」
カカシが帰らないことに安心したのか、ふう、と大きく息を吐いている。
「イルカ先生?」
目を閉じてしまったイルカの様子にカカシは不安になり、イルカの肩に触れてみた。
イルカは服を、まだ身に着けておらず、カカシはイルカの素肌に触れたことになる。
そのことに思い当たったカカシは、どきりとした。
冷静になって考えてみれば、今、イルカは包帯を腕に巻いているとはいえ、上半身裸の状態で、しかもイルカはカカシの想い人だ。
好きな人が自分の目の前で上半身を晒している、その事実に行き着いたカカシは途端、柄にもなく焦ってしまった。
服を着ていないイルカ先生を初めて見るって言うか、上半身だけだけど、その素肌を見ているなんて夢見たい・・・。
いやいや、そうじゃないだろうとカカシは頭を横に、ぶんぶんと振った。
次から次へと湧き上がってくる場にそぐわない妄想を吹き飛ばすようにだ。
きっと自分は今、顔が赤くなっているに決まっていると痛烈に思った。
イルカ先生に服!服、着せないと!
服着ないと風邪も引いてしまうし、だから、早く、服を・・・。
頭では、そう思っているのに曝け出されたイルカの上半身に目が釘付けになり、中々、行動に移せないカカシであった。
協定者たち 23
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