協定者たち13
※イルカ先生に流血表現あり
「言っても解らないようだな。」
殺気の中でイルカの言葉は悲しい響きを持っていた。
「静かに生き終わろうとは思わないのか?」
四つの影が応えを返す。
「それは、こちらの台詞よ。」
「可能性があるからには生き続けようとするのが本能だ。」
「お前の方が間違っている。」
「その体を寄越せ。」
一瞬だけ、息をのむような間があった。
イルカが全力で一つの影に寄ったかと思うと離れた。
その影は、すぐさま地に倒れる。
イルカが先手を取ったらしい。
だがイルカは倒れた相手には目もくれず隣にいた影に、すぐに狙いを定めて襲い掛かった。
かなり激しいやり取りが繰り広げられているのが、遠目から見ているカカシにも分かる。
イルカは相手を本気で倒すつもりで闘っているらしい。
相手を滅ぼすつもりではないようだが、動けないようにしている。
そして、今しがた闘っていた相手も地に倒れて動かなくなった。
大量の血が流れるようで、匂いがカカシのいる所にまで届いてきた。
イルカは激しく肩で息をしている。
この分では残り二人を相手にするのは無理ではなかろうか。
カカシは心配になったが、自分が出て行って役に立つとは思えなかった。
人間である自分が、この闘いに加わることでイルカの足手まといになってしまうかもしれない。
イルカは必死で闘っている。
そんなことを考えているカカシには、あってはならない隙ができてしまった。
今、この場では決して隙など作ってはいけないのに。
残りの影二つが呟いた。
「若いくせに中々に強いことよ。ゲンマに鍛えられたか。」
「ならば、別の遣り方というものもある。」
その言葉にイルカの紅い目が釣りあがり舌打ちと共に、その二つの影に襲い掛かったのだが、それより早く二つの影は動いた。
影の動く先はどこだ。
二つの影の行く先を見ていたカカシは、写輪眼でも追いつけない、余りにも目にも止まらぬ動きで付いていくことはできなかった。
そして気がついたときには、影の一つに片手で首に閉められた状態で宙に吊り上げられていた。
イルカの敵対する二つの影に捕らわれてしまっていたのだ。
最悪の状況である。
闘いに加わる加わらない以前に敵に捕らわれて、イルカの足を引っ張ることになるとは。
カカシは後悔した。
この場に留まるべきではなかったと。
最初から近づくべきではなかったと。
「は、はははは。」
暗い笑い声が森に響いた。
「この人間はお前と親しき間柄なのだろう?」
影の一つが勝ち誇ったように叫んだ。
「噂では愛しき者とか。」
嘲笑うように、もう一つの影も言う。
イルカは捕らえられたカカシを瞬きもせずに見つめていた。
少しも動かない。
吊り上げられたカカシが、どうにか視線だけでイルカを見ると体から血が流れているのが見えた。
体中が血に染まっている。
動かないイルカから、血だけが滔々と流れ出ていた。
「さあ、この人間が殺されたくなかったら体を寄越せ。」
「こいつを殺すのは簡単だぞ。」
イルカはなんと答えるのか。
自分のせいでイルカが、と考えるとカカシの胸は張り裂けそうになる。
首を絞められて苦しいことよりもイルカへの想いの方が苦しい。
何も言わずにカカシを見ていたイルカが、ふっと体の力を抜くのが伝わってきた。
「わかった。」
それだけ言った。
「わかったよ。」
そしてカカシを見て鮮やかに笑っていた。
「ごめんなさい、カカシさん。」
イルカは何と言うつもりだろう。
「ごめんなさい、巻き込んでしまって。」
それから唇を噛み、少し下を向いて何かを呟くのが聞こえた。
「こんなはずじゃなかったのに。・・・・・・だから別れたのに。」
イルカ先生、とカカシは呼びかけたかった。
ごめんね、と言いたかった。
なのに言うことはできない。
強力な力で首を絞められて声を発することができないのだ。
「ごめんなさい、カカシさん。」
静かに言ったイルカは、次の瞬間、懐から何かを取り出して自分の胸に真っ直ぐに当てた。
暗闇の中で、それは鋭い光を放っている。
きらきらと光っていた。
「それは、まさか。」
影の一つが息をのみ、もう一つの影も動揺を見せた。
「銀の弾丸か。」
「そうだ。」
イルカの強い声がする。
「銀の弾丸が入った、銀の拳銃だ。」
これから何が起こるのか、カカシには検討もつかない。
銀の弾丸に何の意味がある?
「知っているだろう?俺達、一族の滅び方は三つだけ。」
揺ぎ無いイルカの声が響く。
「一つは朝日を浴びること。」
それはカカシも知っている。
「一つは柊の杭で心臓を貫くこと。」
あと、一つは何だろうか。
カカシは心臓の鼓動は早くなる。
非常に嫌な予感した。
「そして、あと一つは銀の弾丸で心臓を打ち抜くことだ。」
それは今、まさにイルカがやろうとしていることである。
イルカが死のうとしている。
いや、滅びようとしているのか。
「ここで俺が銀の弾丸を撃ったら、たちまち灰になって滅ぶ。そしたら塵も残らない。それでいいのか?」
影の二つが言葉を失くした。
「そして、一族の望みも消え失せる。」
イルカは凛としていた。
「カカシさんを下ろして仲間の体を持って消えろ。今すぐにだ!」
拳銃の引き金は指に掛かっており、いつでも銀の弾丸はイルカの胸を撃ち抜けそうだった。
「俺には覚悟はできている。さあ、どうする?」
その言葉が終わるな否やカカシは、どさりと草の上の投げ出された。
「ちっ、ゲンマの入れ知恵か。」
「この場は引くがただではおかぬ。」
呪詛を吐きながら二つの影は、倒れた仲間の影を担ぐを闇の中に消えていった。
後に残るはカカシとイルカ。
影の気配が完全になくなった途端、イルカは目を閉じて崩れ落ちた。
カカシは、せめても、と崩れ落ちるイルカを自分の腕に受けとめることしかできない。
血の気が引いたイルカを腕に抱いてカカシは大きく息を吐き出して、イルカの体を抱き締めた。
協定者たち 12
協定者たち 14
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