子供と大人 16
事の成り行きを他人事のように、ボケッと眺めていたら五代目が呆れたように言った。
「カカシ、追いかけなくていいのか?」
「え?」
「だからー、好きな人を追いかけなくていいのかって聞いているんだよ。」
「ええと。」
追いかけるけど、でも。
イラッとしたように五代目は言葉を続けた。
「イルカの気持ちは、だいたい分かったんだろう?」
「は、まあ。」
つまり、イルカ先生も俺のことが、その。
あれ・・・なんだよな?
気恥ずかしいっていうか、胸に込み上げてくる、ふわふわしたものは何なんだろう?
「まさか、今更、分からないとでも言うのかい?」
五代目が訝しげな顔をしたが俺は流石に、そこまで鈍くはない。
「分かってますって。」
俺は強く頷く。
五代目は軽く溜め息をついた。
「カカシに子供がいると言われたときさ、イルカは動揺する自分の気持ちを渾身の力を振り絞って抑えていたらしいよ。」
もしかして涙を堪えていたのかもね、と五代目は付け足す。
「イルカの気持ちを知って、私も悪いことしたなあと思ってさ、反省して。」
二人の仲を取り持つつもりだったんだけど、と。
「ちょっと、やり過ぎた。」
肩を竦める。
「早く追いかけろ。」と五代目は一旦言葉を切ってから。
「今日中に戻ってきて、二人で私の仕事を手伝っておくれ。」
もう行けと五代目が手を上げたので、俺も了解の合図の手を上げて五代目の部屋を出た。
さて、イルカ先生を探し出さないと。
どこに行ちゃったのかな。
しかし、探すまでもなくイルカ先生は発見できた。
すぐ近くにいたのだ。
仕事に対して責任感のあるイルカ先生は、仕事を放って遠くに行けるはずもなく。
五代目の部屋を出た廊下を右に行って最初に曲がった角のところで膝を抱えて蹲っていた。
顔は膝の中に伏せていて見えない。
そんなイルカ先生の姿を見ると、ずきりと心が痛む。
こんなことになった原因の一端は俺なのだから。
俺はイルカ先生と、同じ高さまで屈んで顔を近づけた。
ええと何て言えばいいのかな。
逡巡していると先にイルカ先生の声が聞こえた。
「すみません。」
小さな声だ。
「本当のこと知っていたのに黙っていて、すみません。」
苦しそうな声で謝りの言葉を言う。
最初に騙すようなことをしたのは俺なのに。
「ごめんなさい、カカシ先生と一緒に少しでもいたくて、例えカカシ先生がどんな姿でも構わなかったんです。」
だから、あんなことして、ってイルカ先生は言うけれど。
それは俺も同じだ。
「イルカ先生。」
静かに呼びかけるとイルカ先生の手が、びくりと反応した。
「あのね。」
できるだけ優しい声を出す。
イルカ先生を傷つけないように。
「俺も同じ気持ちなんです。」
ちょっとだけイルカ先生が顔を上げた。
俺を見てくれたので微笑んでみせる。
「どんな姿でもいいから俺もイルカ先生の傍にいたかったんです。だから本当のことを言いたくなくて。」
ごめんなさい、と謝った。
「ごめんね、イルカ先生。謝るのは俺の方なんです。」
顔を伏せていたイルカ先生は俺を見上げた。
黒い瞳は、しきりに瞬いている。
「カカシ先生・・・。」
「カカシ先生じゃなくて。」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「カカシさん、がいいです。そう呼んでください。」
顔を覆っている布を外して、俺は素顔を見せた。
そっとイルカ先生の両手を包み込む。
「そう呼ばれたいんです。そして、いつもイルカ先生と一緒にいたい。」
だって。
「だって、俺・・・。」
その先を言おうとしたら喉が、からからに渇いて上手く声が出なかった。
おまけに体中の血が心臓に集まったかと思うほど、心臓が忙しなく動きまくっている。
でも俺は頑張った。
頑張って言った。
「俺、イルカ先生が好きなんです。」
やっと告白できた。
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