子供と大人 11
プールで存分に遊んで疲れた後、終いに温泉に入って帰ることになった。
温泉はイルカ先生と一緒にお風呂に入れるチャンスと思ったのだが。
残念なことに駄目だった。
何故って、イルカ先生ってば熱いお湯にも平気で入って中々、そこから出てこない。
俺は熱いのは余り得意じゃないし、長湯も苦手だ。
結局イルカ先生より、かなり早く温泉から上がってイルカ先生を待つ羽目になった。
チャンスは惜しかったが、でも仕方ない。
次のチャンスを気長に待とう、いつかチャンスは来るものさ。
で、夕飯は一楽によってラーメンを食べた。
ちょうど帰る道すがらにあって他の店に寄るのが面倒だったし、なによりも意外に疲れていた。
一楽のオヤジさんは俺を見て、一瞬、ぎょっとしたけど何も言わなかった。
イルカ先生と普段どおりに会話していたが、俺の容姿に気づかないわけじゃなかったと思うけど。
大人の俺も何度か一楽に来ているし、俺を知らないってことはない。
きっと、これが大人の対応ってやつかなあ。
俺は、そんな二人を見ながら醤油ラーメンを食べていた。
プールで遊んで温泉に入ってラーメン食べて、体はほかほかで気持ち良かった。
イルカ先生と一緒で、俺の人生の中で最高の一日と言っても過言でもないだろう。
食べ終えて一楽を出るとイルカ先生が俺の前に、すっと屈んだ。
「カカシ君、たくさん遊んで疲れてるでしょう?」
おんぶするよ、と言ってくれた。
「でも・・・。」
そんなに疲れているかなあ、俺。
俺が疲れているならイルカ先生だって疲れているはずだ、なのに、俺だけ楽するなんて気が引ける。
「遠慮しないでいいんだよ。体が少し、ふらふらしてるよ。」
さあ、と苦笑交じりでイルカ先生に促されると、もう、おんぶの誘惑に勝てなかった。
やけに広く見えるイルカ先生の背中に乗ると、イルカ先生の首に俺は両手を回して掴まった。
イルカ先生は俺の足を、しっかりと支えてくれる。
ぴたりと頬をイルカ先生の背中にくっ付けると体温が伝わってきて、イルカ先生の心臓の音が聞こえてきた。
ゆっくりと鼓動しているイルカ先生の心臓の音。
聞いているうちに安心感に包まれて、どっと疲れが出てくる。
俺は知らず知らずに、自然と目を閉じていたのだった。
明るさに、はっと目を開けると、どうやら朝みたいだった。
もう太陽が昇っていて、外は明るい・・・ってことは、つまり。
俺、昨日、あのままイルカ先生の背中で寝てしまったんだ。
なんてことだ、昨日は寝る前に歯磨きしなかったってこと?
じゃない、落ち着け、俺・・・。
冷静になって寝ている部屋を見ると、俺一人だけだった。
いつもは、と言っても昨日一昨日の話だけど、イルカ先生が隣で寝ていたのに今日はいない。
どうしたんだろうか?
寝巻きは浴衣になっているので、恐らくイルカ先生が着替えさせてくれたのだろう。
寝相のせいなのかなんなのか、浴衣はよれよれになっていたけど。
それよりイルカ先生はどこだろう?
もしかして仕事に行っちゃったのかな、でも、それなら伝言とかあるよね。
そんなことを考えていたら襖を隔てた隣の部屋から、ごほごほと咳をする声が聞こえた。
イルカ先生?
襖を開けようと手を伸ばしたところで、俺の気配を感じたのかイルカ先生の声が聞こえた。
「カカシ君?・・・襖は開けないで。」
声は掠れて聞き取りづらかった。
「え?どうして?」
聞き返すと、咳の後に再び掠れた声がする。
「ごめん、実は風邪を引いたみたいでね。昨日、帰ってきてから少し調子が悪くて。」
それで、と続ける。
「寝る前に風邪薬を飲んだんだけど、まだ調子が悪いんだ。」
ごめんね、と謝られた。
ご飯は作っておいたのが冷蔵庫にあるから、と言われたけど。
そういうことじゃなくて。
具合が悪いのなら看病しないと。
お医者さんに診てもらったほうがいいんじゃないか、と思ったのに。
「風邪が移るといけないから、こっちの部屋には来ちゃ駄目だよ。」
そんなことを言われて、俺は襖を開けることができない。
「ごめんね、本当は今日も一日、一緒に遊びたかったんだけど。」
掠れた声が辛そうだった。
「ごめんね、カカシ君。」
愕然とした。
子供の小さな体じゃ体力がないから風邪も移りやすいし、力がないのでイルカ先生を連れて病院に行くこともできやしない。
今の、非力な小さな子供の俺では何もできない。
イルカ先生が病気でも、やってあげられることがない。
昨日まではイルカ先生と一緒にいることができるだけで幸せだと思っていたのに。
それだけでいいと思っていたのに。
でも違うんだ、これじゃ駄目だ。
好きな人が困っているときに助けてあげることができないなんて。
こんなの嫌だ。
こんなのは俺の望むことじゃない。
子供と大人 10
子供と大人 12
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