子供と大人 5
それからイルカ先生の家に着いて結構、ばたばたとしてしまって、あっという間に夜になってしまった。
夕飯はイルカ先生が甘口のカレーライスを作ってくれた。
子供の俺のために作ってくれたらしい。
「明日のご飯は何か食べたいものがあるかな?」
イルカ先生が、にこにこしながら聞いてくる。
「えーと。」
多分、子供の好きそうなご飯を作ってくれるつもりなんだろうけれど。
そういうのって揚げ物とかが多いよね。
俺、天ぷらとかは、ちょっと苦手なんだよなあ。
できたら、それ以外のものがいい。
しかし。
上目遣いで見上げると、優しい眼差しのイルカ先生が俺を見つめている。
そんな目で見られると。
「あ、あのう。何でもいいです。」
そう答えるしかなかった。
夕飯後。
「カカシ君、お風呂沸いたから先に入ってくれるかな?」
風呂の湯の温度を確かめたイルカ先生が俺に言ってきた。
「あ、はい。」
タオルと下着を渡されて脱衣所へと連れて行かれる。
「それからさ。」
イルカ先生が、少し笑って確認してきた。
「一人で、お風呂入れる?大丈夫?」
「・・・はい。大丈夫です。」
そんなことまで心配されるなんて俺の姿はイルカ先生の目には、いったい何歳に映っているやら。
幼い子供にしか見えないのかなあ。
「そっか、じゃあ、ゆっくり入ってきてね。」
イルカ先生は手を振って脱衣所から出て行った。
でもさ、よくよく考えてみたら、イルカ先生と一緒に風呂に入るチャンスじゃなかったか?
一人じゃ嫌だって言ったら、きっとイルカ先生のことだから一緒に入ってくれたの違いない。
ちょっと後悔した俺だった。
熱めの湯に、ゆっくりと浸かると体から、じわじわと疲れが出てきた。
小さい子供の体は、大人の体とは勝手が違うらしい。
今日だけで、思ったより疲れてしまっていた。
なので風呂から上がると、大分ぐったりとしてしまって、うとうとと眠気が襲ってくる。
風呂から上がるとイルカ先生が待ち構えていた。
「ごめん、子供用のパジャマがなかったの忘れていた。」
それで、と俺の前に大人用の浴衣を差し出してくる。
「これでいいかな?裾の長さを調節すれば、子供でも一応着られるから。」
こくりと頷くとイルカ先生が手際よく浴衣を着せてくれた。
「歯磨きしたら、すぐ寝られるよ。」
指差された隣の部屋を見ると、既に布団が引かれていた。
「一緒の部屋で隣同士で寝るんだけど、いいかな?」
子供の俺に、いちいち確認して気を遣ってくれるイルカ先生。
気遣いの人だなあ。
そんなところも大好きだ。
歯磨きして布団に入ると中は、ふかふかで暖かくて、あっという間に眠気が襲ってきて目を開けていられなくなった。
目を閉じると、頭をふわりと撫でられる感触がある。
イルカ先生の大きな手だ。
俺の頭をゆっくりと撫でている。
すごく気持ちが落ち着いて安心する。
眠りに落ちる前に遠いところからイルカ先生の声が聞こえた。
「・・・これで諦めもつくよな。」
俺を撫でる穏やかな手とは裏腹に、その声は寂しげで苦しげで何かを耐えているような響きを持っていた。
俺は胸が痛くなる。
諦めって何だろう、イルカ先生の諦めなければいけないことって何?
とても気に掛かるし、聞かなければいけないような気がしたのに。
残念なことに子供の俺は、そのまま眠りに落ちてしまった。
子供と大人 4
子供と大人 6
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