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続 子供と大人 7






缶けりの鬼は、じゃんけんで決めたのだが、分身の俺は示し合わせたように七人全員がグーを出して最初にチョキを出す癖のある俺が負けて鬼になってしまった。
イルカ先生は普通にグーを出したみたい。
で、缶けりが始まったのだが、結構、熾烈だった。
例えるならば、上忍パワー炸裂みたいな感じで。
ルールを決めて家の周り、半径十メートル以内で隠れるってことになったんだけど、さすが、俺の分身、見つからない。
気配の欠片もない。
なので、当然ながら気配を消すのが未熟な小さなイルカ先生を見つけることになるのだけれど。




「みーつけた。」
俺が見つけると小さなイルカ先生は、えへへと笑って「見つかちゃった。」とか言って少し照れる。
その笑顔が子供らしく、すごく可愛くて俺は場を忘れて、ほわわんと和んでしまった。
そして和みながら缶を踏もうとすると、どこから出てきたのか俺の分身たちが、俺が缶を踏む瞬間、コンマ一秒よりも短い時間を狙って、カーンと缶を蹴っ飛ばすのだ。
これでもかってほどに、有らん力を込めて。
勿論、そんな力で蹴られた缶は、キラーンと光って空の彼方に消えていく。
そして俺を見て分身たちは、ニヤリと笑ってドロンと消える。
分身の俺、手加減しろよ、と俺は、かなり殺意を抱きながら本気で思った。
小さなイルカ先生は飛んでいった缶を「あーあ、飛んでいっちゃったねー。」と、にこにこしながら見送って「じゃあ、また隠れるから探してね。」となるのだ。




これを夕方まで、なんと合計十二回もした。
しかも、ずっと俺自身が鬼だった。
分身たち、俺に恨みでもあるのか?
真剣に思った。
夕暮れ時、朝から縄跳びして缶けりして、俺とイルカ先生は泥んこになって汚れていた。
こんなに遊んだのは久しぶりだ。
疲れたけど、すごく楽しかった。
イルカ先生の笑顔も、たくさん見れたしね。
小さなイルカ先生も同じみたいで、心地いい疲れが訪れているみたいだった。




でもさ、夕飯、どうしよう。
疲れているから、どっかに食べに行くとかでいいかなあ?
イルカ先生の好きな物を食べるってのはどうだろう。
そう、ラーメンならいいんじゃないだろうか。
だからイルカ先生に言ってみた。
「夕ご飯は、どっかに食べに行こうか?」
「本当?」
嬉しそうに返事をしてくるい小さなイルカ先生。
「うん、ラーメンなんて、どう?」
「あ、ラーメン・・・。うん、いいよ。」
こくりと頷いた。
あれ?なんだか思ってよりも喜んでくれないような・・・。
この頃のイルカ先生って、ラーメン好きじゃなかったのかなあ?
いつから好きになったんだろ。
軽く疑問を抱きながら、顔と手を洗って、ラーメン屋一楽へと行くことにした。




一楽に着くとイルカ先生に注文を聞く。
「何の味がいいかな?」
「えーとね。」 イルカ先生は、店の中をキョロキョロと見回してから「何でもいい。」と小声で答えた。
うーん、どうしようと考えて俺はいつもイルカ先生が食べているのを注文する。
つまり、味噌ラーメンだ。
すごく美味しいし、きっと小さなイルカ先生も気に入るはずだ。
思ったとおり、イルカ先生は一口食べて「美味しい!」と言ってラーメンを一つ全部食べてしまった。
全部残さずに。
「ご馳走さま。」と箸を置くと俺に言う。
「すっごく美味しかった。ラーメンて、こんなに美味しいんだね。」
喜んでいるようなので良かった、と俺は胸を撫で下ろした。
「俺、ラーメンが好きになったかも。」
小さなイルカ先生は、ご満悦のようだ。




そして帰りは手を繋いで帰った。
夕日が落ちて、空は真っ暗、月が俺たちを照らしている。
俺は小さなイルカ先生の小さな手を、しっかりと握った。
だって、五代目は二、三日で術は解けると言っていた。
明日は子供になってから三日目だ。
術が解けるかもしれない。
小さなイルカ先生との別れが待っているんだ。




俺と手を繋いで、はしゃいでいる小さなイルカ先生。
「あ、畑さん、流れ星だよ。」
イルカ先生が夜空を指差す。
「お願い事を言わないと。」
子供らしくて微笑ましい。
自然に、俺の口元に笑みが浮かぶ。
「お願い事は何?」
俺は何気なくイルカ先生に聞いた。
「あのねえ。」
イルカ先生は、子供の笑顔を見せて少し、はにかむ。
「早く、父さんと母さんが帰ってきますようにって。」
それを聞いて俺の笑顔は凍りついた。



そうだ、今のイルカ先生は子供で、まだまだ両親が恋しい年頃。
なのに、その両親は、どんなに待ってもイルカ先生の元に帰ってくることはないんだ。
もう二度と。
だから、せめて、と思って、俺は言ってしまった。
「もうすぐ、帰ってくるみたいだよ。」
もう一つだけ嘘をついた。
明日には元の姿に戻る、子供のイルカ先生。
少しくらい、本当に心の底から喜ばせてあげたかったんだ。



「本当に?畑さん?」
繋いだ手に、ぎゅっと力が入る。
「うん、本当だよ。」
「嬉しい!」
イルカ先生は素直に喜んだ、嘘なのに。




これは嘘なのに。






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