続 大人と子供13
俺たちの感動の再会に水を差す者がいた。
窓の外に小鳥がぱたぱたと羽を羽ばたかせている。
五代目の式だ。
俺はイルカ先生にくっ付いていて、離れる気はさらさらない。
やっと会えたっていうのに離れるなんて嫌すぎる。
そんな俺の気持ちを見越したのか、イルカ先生が俺をくっ付けたまま窓の外の小鳥を部屋に導き入れた。
「五代目なんて放っておけばいいんですよ。」
俺は毒づいた。
せっかく、イルカ先生が元に戻って二人だけだったのに。
「そんな、緊急な用事かもしれませんよ。」
小鳥は、ぽんと煙になって、イルカ先生の手の平に小さな紙切れとなった。
紙切れには、こう書いてあった。
イルカを連れて、すぐに来い。
この前を同じ文言だった。
「行かなくていいですよ。」
俺は強気で言った。
「もう、イルカ先生は元に戻ったし問題解決です。」
俺の言葉を聞いてイルカ先生は首を横に振った。
「そんなわけにはいきません。火影さまじゃないですか。」
それに、とイルカ先生の顔は暗くなる。
「俺、カカシさんにも五代目にも、ご迷惑をお掛けしてしまって、一言だけでもお詫びしたいです。」
子供になった時の記憶が残っているイルカ先生は、どうやら責任を感じているらしい。
「そんなこと、イルカ先生が言うことじゃないですよ。」
とは言ったものの、俺はイルカ先生の気持ちを尊重して五代目の呼び出しに応じることにした。
「しょうがないですね。」
俺はイルカ先生を腕に閉じ込めた姿勢で、イルカ先生の背中で印を組む。
移動の術だ。
俺たちは一瞬で火影室に移動して、五代目の目の前にいた。
「イルカ。」
五代目が、俺たちを見て目を丸くする。
俺たちは勿論、くっ付いたままだった。
詳しく言えば、俺がイルカ先生を抱き締めている形だ。
「元に戻ったのかい?」
「はい。」
イルカ先生は恥ずかしそうにして、頭を下げた。
「いろいろと、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「なーに、気にするな。」
五代目は豪快に、はははと笑ってイルカ先生を優しい目で見る。
「元に戻ってよかったな。」
「はい、おかげさまで。」
「もしかしてカカシに名前を呼んでもらったのかい?」
それを聞いてイルカ先生は不思議そうに質問した。
「なぜ、それをご存知なんですか?」
俺も知りたい。
俺が子供のイルカ先生の名前を呼んだから、イルカ先生は元に戻ったのか?
「ああ、それはだね。」
五代目は説明してくれた。
「巻物を作成者を調べてみて判明したのさ。」
「作成者?」
「巻物の字が掠れて読めなかったから、作成した者が誰か分かったら何かヒントがあるかもと思ってね。」
それでさ、と五代目は言葉を続けた。
「あの巻物の作成者は、なんとイルカの父親だったのさ。」
「俺の、父?」
イルカ先生は目を丸くしている。
「本当ですか?」
俺もびっくりだ。
あの巻物を作ったのがイルカ先生のお父さんだったなんて。
「そうだよ。そして、なぜ、あの巻物が実戦で使用されなかったかというと、本来なら術で子供になった者が親に名前を言ってもらって元に戻るような仕組みだったらしいね。キーワードになる『ある言葉』ってところでイルカの父親がミスしたらしいのさ。」
イルカ先生の顔は心なしが蒼ざめている。
自分の父親がこんなところで話題になるとは思っていなかったんだろう。
「もっと詳しく調べたら、あの巻物は、ちょうどイルカが生まれた頃に作ったものらしくて『ある特定の人物』は『両親、もしくは保護者』で、そこまでは良かったんだが肝心の『ある言葉』を自分の子供の名前、つまりイルカにしたんだよ。」
「俺の名前・・・。」
イルカ先生は絶句している。
「本来の『ある言葉』ってのは術になって子供になった者の名前になるはずだったらしい。でも、イルカの父親はイルカの誕生で、まあ、浮かれてしまったんだろう。自分の子供の名前を入力、インプットしてしまったのさ。まあ、巻物の用途は不明だが。」
五代目の長い説明は終わった。
「なるほどねえ。」
俺は得心した。
「イルカ先生のお父さんが作ったから、イルカ先生の名前を呼んで、元に戻ったということなんですね。」
「そういうことだ。」
五代目が何故か、自分が手柄を立てたように踏ん反り返る。
「つまりだ。カカシ!」
俺を、びしっと指差した。
「お前が子供のイルカの名前を早々に呼んでいれば、もっと早く問題は解決してたんだよ。父親の友人というカカシを子供のイルカが親のように感じて懐いて慕ったから元に戻ったんだろう。」
「んな、無茶な。」
俺は呆れ返った。
「勝手じゃないですか、元はと言えば五代目のせいでしょ。」
「そんなことはない。」
五代目は根拠のない自信を見せる。
「カカシのせいだ。」
「五代目が悪いんですよ。」
だんだんと不毛な言い争いになってきた時、イルカ先生の声がした。
「すみません!」
俺と五代目に頭を下げまくっている。
「すみません、すみません。俺の父が、そんな巻物作って失敗していたなんて。すみません、ご迷惑をお掛けしてすみません。」
イルカ先生は可哀相になるくらい蒼ざめて、俺の腕の中で倒れそうになっている。
「俺の父の所為で。」
「イルカ先生、イルカ先生。」
俺は、落ち着かせようと背中を優しく叩いて慰めた。
「誰もイルカ先生のことなんて責めてないでしょ。誰も悪くないんですよ。」
強いて言えば悪いのは五代目だ。
なのに、五代目は俺の言ったことに便乗した。
「そうそう、誰も悪くない。不幸な事故だったんだよ。」
なーんて言っている。
反省していないんじゃないだろうか。
でも、イルカ先生は俯いて目を伏せてしまって辛そうにしている。
早く、この場を退散した方がいいかもしれない。
「もう、いいですよね?」
俺は五代目に確認を取った。
「イルカ先生は元に戻ったと言っても疲れていますし、帰ってもいいですよね?」
「ああ。明日も休んでいいから、ゆっくり疲れをとるんだよ。悪かったな、イルカ。」
五代目は、そう言うと手を振る。
「じゃ、失礼します。」
俺の言葉にイ倣い、イルカ先生は無言で一礼した。
イルカ先生の手を握って俺は火影室を出る。
そのままイルカ先生の手を引いて、家に向かって歩き出した。
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