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続 大人と子供11




どうやって家に着いたか、よく覚えていなかった。
玄関の扉を開けて靴を脱ぎ捨て、ふらふらと居間に行く。
居間に行ったのは、帰ってから最初に居間に行くのが習慣になっていたからだ。
帰ると、そこにはイルカ先生がいて俺を出迎えてくれた。
「お帰りなさい。」って。
でも、今はそれはない。
イルカ先生がいないからだ。
俺のイルカ先生が。



「あの、畑さん。」
小さなイルカ先生が、おずおずと俺に話しかけてきた。
「あの、あのねえ、さっきね。」
さっき、とは五代目やトントンのことだろうか。
聞きたくなかった。
「今は聞きたくない。」
「そ、そう。ごめんね。」
俺は居間に座りテーブルの上の握った自分の手を、じっと見つめていた。
何もする気が起きない。
「畑さん、具合が悪いの?だったら、お医者さんに・・・。」
またしても、イルカ先生が話しかけてきたが俺は冷たく言い放ってしまった。
「どこも悪くない。」
「そう・・・。」
取り付く島のない俺の返答に、小さいイルカ先生は困っているようだった。
小さい子供に何をしているんだろうか?
俺は自己嫌悪に襲われる。
これ以上、子供のイルカ先生を傷つけたくなかった。
「悪いけど、俺から離れていてくれる?」
余りに冷淡な言い方に、自分でもなんてことを言うんだって分かっていたけれど止められなかった。
俺から離れていてほしいのは、イルカ先生のためなんだ、と心の中で言い訳する。



小さなイルカ先生は何も言わず、俺の近くから離れた。
ごめんね、そう思いながらも口に出せない。
イルカ先生は何も悪くないのに。
悪くないのだけど小さなイルカ先生を見ていると、遣り切れない、この思いをぶつけそうになってしまうのだ。
落ち着こう。
整理して考えよう。
そうだ、五代目は解術の方法をもう一度調べてみるって言っていたし、まだ完全に希望が途切れたわけじゃない。
解術できないではなく、できないかもしれないって言っていたのだ。

そんなことを考えている俺に、再び、イルカ先生が話しかけてきた。
「畑さん、お茶淹れたんだよ、飲む?」
見ると、お盆の上に湯気のたつ湯飲みを乗せている。
いつの間にか、お茶を淹れていてくれていたらしい。
「疲れている時は、あったかいもの飲むといいんだって。」
はい、と小さいイルカ先生が湯飲みをテーブルに置いてくれたけど。
俺は溜め息をついて拒否してしまった。
「俺から離れていてって言ったよね。」
イライラするのを押さえられず言ってしまった。

目の前の小さいイルカ先生は、俺の知っているイルカ先生じゃない。
そして俺を知っているイルカ先生じゃない。

その事実に気持ちが滅入ってしまう。
小さいイルカ先生は目を伏せた。
「ごめんなさい。」
そう言い残すと今度こそ、俺から離れていった。




最低だな、俺。
両手で顔を覆う。
俺は上忍で精神的にも強いと思っていたが、こんなに逆境に弱いとは・・・。
我ながら、いったい何を今まで修行してたのかと思った。
なにが里の誇る上忍だ。
大好きな人に会えないのは辛いけど、それとは今のイルカ先生には関係ない。
何も知らないだけなのに。
そんなことを何度も何度も考えて、はっと気づくと既にかなりの時間が経っていてテーブルの上にあったお茶は冷めていた。

さっき、イルカ先生が運んできてくれた時は湯気が立っていたはずなのに。
お茶を一口飲んでみた。
やっぱり冷めている。
お茶を運んできた時、小さなイルカ先生は何て言っていたっけ?
確か『疲れている時は、あったかいものが。』って言っていた。
その前は、俺の体の具合を心配してくれていた。
俺を心配してくれていたんだ。
家に帰ってきて、最初に話しかけてきたのは多分、いつもと違う俺の様子を見て、俺の気持ちを和ませるか解きほぐしたかったんだろう。
なのに、俺。



子供に八つ当たりみたいな真似してしまった。
でもイルカ先生は何も言わずに、言われたとおりに俺から離れて・・・。
そこまで考えて心臓が、どきんと跳ねた。
イルカ先生は、どこだろう?
離れてと言われて、どこに行ってしまったんだろうか?
大急ぎで玄関に行くと、イルカ先生の靴はある。
ほっとしつつ、家の中を探してみると庭に続く部屋の縁側で膝を抱えて、ぽつんとしているイルカ先生が見つかった。
膝を抱えたまま、その目は遠くを見ていた。
ずーっと遠くの山の、その空の向こうを。



そういえば、と俺はイルカ先生に言った言葉を思い出した。
二、三日で元の姿の戻るから、と軽い気持ちで言ってしまったことを。
ご両親が『もうすぐ、帰ってくるみたいだよ。』って。
帰ってこない人を期待して待つようなことさせるなんて、俺って、いったい・・・。
大きな溜め息が出そうになる。
すると、俺の気配を感じ取ったのか、イルカ先生が振り向いた。
イルカ先生の口が小さく開いて、また閉じる。
話すと、まずいと思ったのだろうか。
さっきの俺の態度からすれば当然だと思う。



「さっきはごめんね。」
先ずは俺から話しかけて謝った。
「俺・・・。」
その後の言葉が続けようとしたけど、イルカ先生が先に言葉を発した。
「父さんたち、帰ってこない。」
やっぱり、俺の言葉を信じていて待っていたのか。
その言葉が突き刺さってくるようで胸が痛くなった。
「帰ってくれば、畑さんの話が聞けるのにね。」
「・・・え?」
「俺の父さんと畑さんは友達なんでしょう?友達になら何でも話せると思うんだ。」
思わぬ言葉に、息が止まりそうになった。
「子供には言えないことでも、大人同士なら言えるかなって。」
俺の父さん、大人には大人にしか分からない話があるんだって時々言っていたよ、とイルカ先生は言う。
「難しい任務の話は俺には分からないから。」
小さなイルカ先生は、俺が任務のことで悩んでいると思ったらしい。



違う、と否定しようとしたらイルカ先生は自分の膝をぎゅっと抱き締めて言った。
「それに、畑さん、俺と同じ名前の人のこと、好きなの?」
「な、なんで?」
そんなことを知っているんだ?
大人のイルカ先生のことは一言だって言ってないはず。
「寝言でね、イルカ先生、イルカ先生って何回も言っていたよ。」
寝言なんて言っていたのか、俺。
「一回だけ、イルカ先生大好きって言っていた。」
「それは・・・。」
イルカ先生のことは大好きだ、でも、どうやって説明すればいい?
「だから。」
小さなイルカ先生は抱えた膝に顔を埋める。
「好きな人と同じ名前だから、俺の名前、呼んでくれないのかなって。」
その声は、限りなく微かだったけど俺の耳には、はっきりと聞こえた。
寂しいという感情を伴って。



「ごめん。」
膝を抱えたイルカ先生を丸ごと抱き締めると自然に言葉が出た。
「ごめんね、イルカ。」
ごめんねイルカ、と何回も同じ言葉を繰り返す。
少しでも寂しさがなくなるように。



その時だった。
俺の腕の中のイルカ先生からチャクラが溢れ出して煙が、ぽんと上がる。
「ただいま、カカシさん。」
そこには大人のイルカ先生がいた。




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続 子供と大人12




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