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続々・恋人



昼になったらイルカ先生の料理を掻っ攫い、冷蔵庫の中には別のものを入れておいた。
流行のスイーツとか夏のひんやりデザートとか、以前にサクラから美味しいと評判の店で仕入れてきたのだ。
興味のないことでも聞いておいて良かった、情報って大事って思った瞬間だった。
あれなら、くの一たちも満足するに違いない。
下手に恨みを買うと後が怖いからなあ・・・。
冷蔵庫の中身を無事に入れ替えた俺は一人になれる場所でイルカ先生の料理を堪能した。
「うまい・・・」
イルカ先生の料理は、やっぱり美味しい。
料理は俺が好きなものばかりだった。
昨日、イルカ先生は遅くまで料理を作りながら何を考えていたんだろ。
・・・俺のことを考えて。
そういや、俺も料理を作るがイルカ先生、いつも美味しいって食べてくれていた。
そんなイルカ先生を見て、もっとたくさん食べてほしくて俺も料理を覚えたんだっけ。
イルカ先生の料理は美味しくて、量は多かったが全部、食した。
腹八分目を通り越していたが、残さず食べた。
食べたんだけど、一人で食べると味気ないっていうか、素っ気ないっていうか。
何かが足りなかった。
物足りない。
その答えは解っていた。
答えは、ただ一つ。
イルカ先生の他ならない。
一人で食べるよりも二人で食べる方がいい。
イルカ先生・・・。
俺は深く深く溜め息を吐いた。



その夜。
紅がイルカ先生を飲みに誘ったという店に、もちろん俺は来ていた。
早めに来て気配を、いつもより慎重に消して紅たち、いやイルカ先生が来るのを待った。
紅たちが飲む座敷の隣に部屋を陣取っている。
幸い、引き戸つきの個室なので中は見えない。
俺がいることが、ばれることはない。
ぴたり、と俺は隣の部屋がある壁に耳をくっ付けて聞き耳を立てる。
だんだん、人が増えてきて、がやがやし始めたけどイルカ先生の気配も声もしない。
酒が入ってきて、隣は盛り上がってきている。
時間も一時間近く経とうとしているのに。
・・・イルカ先生がいない。
どうしたんだろ?
ここは紅が言っていた店で合っている、間違っていない。
第一、隣から紅の声はしているし。
おかしいなあ。
イルカ先生、どうしたんだろうか。
遅れてくるのか、まだ仕事なのか。
今日もイルカ先生と一日会えずだったからな・・・。
夜の飲み会では確実にイルカ先生の姿を見れると思ったのに。
もう少し待つか。
そう決めて、待つこと一時間。
イルカ先生は来ない。
隣は更に盛り上がって、酔っ払いが多数仕上がっている。 どうしたのかな、イルカ先生。
イライライライラ。
もう我慢できない。
俺は隣の部屋を奇襲することにした。


ノックもせずに隣の部屋の引き戸を開けた。
気分は道場破りだったので「たのもう」とでも言おうと思ったが止めておいた。
無難に聞いた。
「ねえ、今いーい?」
俺の登場に座敷にいた連中は盛り上がった。
「あー、カカシさん!」
「飲みに来たんすか」
「駆付け三倍ですよ〜」
・・・って酔っ払いばっかりだった。
紅を始め、アスマにアンコにゲンマにハヤテ、ライドウにアオバにコテツにイズモって・・・。
見知った面々ばかり。
でも、その中にイルカ先生はいなかった。
「ちょっと紅!」
「ん〜?何よ?」
酒の席を邪魔されて紅は不機嫌そうだった。
というより、酒を飲むのに忙しいらしい。
「イルカ先生は?どこ?いないじゃない」
「あー、イルカっすか」
紅の代わりにゲンマが答えた。
「あいつ、調子が悪いとかで今日はパスしましたよ〜。家に帰りました〜」
相変わらず、千本を銜えて器用に酒を飲んでいる。
あれって、口の中に突き刺さったりしないのか・・・。
「そうそう、元気がなかったですね、ゴホッ」
「口数も少なかったしな〜」
「ここ数日、様子がおかしかったし」
「甘いもの勧めても食べなかったしねえ」
酔っ払いは無責任に、ぺらぺら喋る。
「食欲も落ちていたし」
「誰もいないところで溜め息吐いていたしな」
「きっと悲しいことがあったんでしょう、ゴホッ」
「何があったんだろうなあ」
「夏バテじゃないの?」
俺と会わない間にイルカ先生が、そんなことになっていたなんて・・・。
ショックだった。



とにかく、ここにイルカ先生がいないことは判明したので、もう用はない。
立ち去ろうとしたとき、紅に呼び止められた。
「あ、カカシ」
「何よ?」
急いでいるんだけど。
じろっと睨んだが怯む紅ではない。
むしろ、余裕で微笑まれた。
「スイーツ、美味しかったわよ。ご馳走様〜」
「あ、そ」
「重箱は、ちゃんと洗ってイルカ先生に返しておいてね〜」
それだけよ〜、と言って紅は手に持っていた杯の酒を飲み干して、手酌で注いでいた。
・・・何か、ものすごく気になったことを言われたが今は考えないことにして。
今はイルカ先生のことだけ考えることにして。
イルカ先生の家に全速力で向かった。
息を切らせてイルカ先生の家に行ったのだが・・・。
家に明かりは点いていなかった。
部屋の中に気配もなくて。
イルカ先生は不在。
「・・・イルカ先生」
どこに行ったんだ?
イルカ先生に会いたいと思う気持ちは抑え切れなかった。
「あー、もうっ!」
本当はイルカ先生の家で待っているのが一番いいのは分かっているが。
待ちきれなくて、俺はイルカ先生を探しに夜の闇の中に飛び出したのだった。



・・・割と簡単にイルカ先生は見つかった。
夜の公園のベンチに座っていたんだ。
昼と夜じゃ、公園の雰囲気はだいぶ違う。
昼に人がいる分、人がいない夜の公園は静寂だ。
そんな公園に一人、ぽつんとイルカ先生はいた。
両手を握り合わせて、膝の上に置き、どこを見ているって訳でもなく。
遠くを見ている感じだった。
表情は何もない。
ただ、じっと動かないままで。
時折、瞬きをくらいで、その瞬きの音さえ聞こえるような気がした。
俺は・・・。
イルカ先生を見て、心底、ほっとしていた。
たった二日間くらい会ってないのに、久しぶりにイルカ先生を見た気がする。
怪我も病気もしてないようで、さっき聞いた調子が悪いってのが気になるけど。
もう我慢するのは止めた、ってか、そもそも実行不可能だったんだよね。
イルカ先生と会わないようにしよう、なんて。
俺が馬鹿だった。
「イルカ先生」
一人でいるイルカ先生に声を掛けて近づいた。
俺の声にイルカ先生は顕著に反応をしめした。
ぱっと顔を上げて、こちらを見ると嬉しそうに微笑んだ。
それこそ、俺が見たかったイルカ先生の顔だったのだが・・・。
その微笑みは、見る見るうちに萎んでなくなった。
失望や絶望のような言葉が浮かぶような顔になる。
誰がイルカ先生に、そんな顔をさせたんだろう。
非常に、むかついた。
「・・・もう会わないんでしたよね」
イルカ先生の低く掠れた声が俺の耳に届いた。
「会わないことにしたんですよね、俺たち」
その声は、とても悲しく聞こえる。
「別れたんですよね、俺たち」
それなのに会えて嬉しい、と思うなんて。
聞く者の胸を抉るような悲しい響きが含まれていた。
・・・今更だったけど。
なんで会わないなんて言ったんだろう。
イルカ先生に悲しい思いをさせるなんて。
イルカ先生に失望や絶望させたのは俺だったんだ。




続・恋人
終幕・恋人




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