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続・恋人



イルカ先生と会わなくなって一日。
そして二日目。
なんか、イライラした。
顔だけ見ようと受付所に行ってもいないし、アカデミーにこっそり覗きに行っても姿が見当たらない。
陰も形もなかった。
・・・顔が見たい。
・・・声が聞きたい。
イルカ先生に会えないのが、こんなにも辛いとは思わなかった。
まるで、この世の終わりみたいだ。
考えるのはイルカ先生のことばかり。
今、何をしているんだろうとか、ご飯食べたかなあとか、どこにいるのかなとか。
俺のことを考えたりしてくれているかなあとか。
頭の中はイルカ先生だらけだ。
結局、その日も会えなくて。
寂しくなって、夜にイルカ先生の家の方に行ったら、窓に明かりが点いていたのは確認した。
イルカ先生は家で一人。
俺も家で一人。
何でこんなことしているだろう?
すごく空しくなる。
恋人なのに、一緒にいないなんて・・・。
その夜、イルカ先生の家の明かりは遅くまで消えることがなかった。



次の日。
下忍の子供たちの指導は休みだったので、上忍の控え室で待機だった。
今日はイルカ先生を見ることが出来るかな〜。
そればっかりが頭の中にある。
控え室に行くと同じ上忍師仲間の紅を中心に、数人のくの一たちが黄色い声で騒いでいた。
きゃーきゃー、わーわーと煩い。
「かわいい〜」
「きれい〜」
「おいしそう〜」
美味しそう?
そういえば、食べ物の匂いがする。
それも、よく知っている匂いが・・・。
「何なの?何が美味しそうな訳?」
近くにいた紅に尋ねてみると紅が満面の笑みで答えた。
「これよ」
くの一たちが見ていたのは数段の重箱に詰められた料理の数々だった。
大量にある。
見た目も華やかで美味しそう。
これを見て騒いでいたのか。
しかし、この料理、どこかで見たことが・・・。
「どうしたの、これ?」
とりあえず、訊いてみると紅が嬉しそうに笑う。
「今日の朝ね、イルカ先生がいきなり来てね」
「イルカ先生!」
その名に心臓が飛び跳ねる。
「そう、イルカ先生が来てね。『作りすぎたので、もしよかったら、お昼にでも皆さんで召し上がっていただけませんか』って、持ってきてくれたの」
「へー」
俺は内心、穏やかではない。
イルカ先生の手料理が目の前にあって、それを俺以外のやつが食べる。
「イルカ先生ね、せっかく料理を覚えたんだけど、食べてくれる人がいなくなちゃったんですって」
「えっ・・・」
「昨日の夜も、一人でいて時間を余してしまって黙々と料理を作っていたら、すごい量になちゃって『助けると思って食べてくれると有り難いです』なんて言うのよ」
「・・・・・・え」
「でね、持ってきてくれた料理、すっごくいい匂いがするから、ちょっと見てみようかってことになって開けてみてみたら、すっごい美味しそうで」
それで騒いでいたのか。
イルカ先生の料理は本当に美味しいからなあ〜。
俺と付き合ってから、料理を覚えたって言っていたけど、そうは思えないほどの腕前で。
優しい味付けと食べやすく盛り付けてあるので、食欲をそそるんだよね。
俺、大好き。
昨夜、部屋の明かりが、ずっと消えなかったのは料理をしていたからだったんだ。
「じゃあ、冷蔵庫にでも閉まっておいて昼になったら食べましょう」
一旦、イルカ先生の料理が入った重箱は控え室に備え付けてある冷蔵庫に仕舞われた。
「お昼が楽しみねえ」と、くの一たちは口々に言っている。
他の上忍の男が、どさくさに紛れて「俺にも一口くれ」とか言っていたけど一蹴されていた。
「だけど」
俺の隣に、どさっと座った紅が長い足を優雅に組む。
「イルカ先生、誰かと付き合っていたのかしら?イルカ先生を振るなんて、馬鹿な男もいたもんよね」
そして、髪をさらっとかき上げる。
「もしも私だったら、絶対に振ったりしないけどね」
イルカ先生にみたいな良い人を、って・・・。
なんでイルカ先生が付き合っていた相手を既に別れたことになっているんだ?
いや、それよりもイルカ先生が誰かと付き合っていたことになっていた?
なんで?
「だいたい、イルカ先生がフリーになったら、すぐに誰かに狙われるのに」
・・・狙われる?
「あんな良い人、放っておく訳ないじゃない」
「そう・・・」
俺が言えたのは、一言だけ。
喉が、かっらからに乾いて、心臓がばくばくしていた。
「最近、誰かは知らないけれどイルカ先生に好い人できたみたいって、専らの噂だったのよね。雰囲気も変わったし、誘っても断れてばっかりだったし」
「ふーん、そう」
イルカ先生の付き合っている相手は、俺だって知られてないらしい。
それは、それでいいんだけど。
いいんだけど・・・、いいのか?



「それにね」
ふっと紅が勝ち誇ったように笑ったのは気のせいか。
「今日のお礼としてね、イルカ先生を今夜、飲みに誘ったらオッケー貰えたのよ」
・・・今日の夜。
「どうせ、家に帰っても一人だしって言っていたわ」
寂しいのかしらね、って紅は言うが。
俺だって寂しいし、イルカ先生に会えなくて辛い。
自分から言い出したことだし、どうしたら・・・。
「あのさ、どこの店にイルカ先生と飲みに行くの?」
あっさりと紅は教えてくれた。
「メンツは?」
「ふふ、内緒よ」
そこは教えてくれなかった。
「じゃ、またね」と紅は、ひらひらと手を振ると行ってしまった。
なんか、あれだ。
総てが俺の予想と違う方向に進んでいる。
イルカ先生を守るはずが俺が追い詰められている。
逆効果だった、イルカ先生と会わないことにしたのは。
イルカ先生が、どんどん遠くなっていくような気がする、いや遠くなっている。
後悔ばかりが募る。
しかし、まあ、悠長なこともしていられない。
イルカ先生の料理が入っている上忍の控え室の冷蔵庫を睨んで、今夜、どうするか俺は策を練り始める。
どうやって、邪魔するか割り込むか、それとも飲み会自体を無しにするか。
でも、その前に・・・。
昼になったら冷蔵庫にあるイルカ先生の料理を掻っ攫って、総て食べ尽くしてしまおうと思っていた。



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