子犬の気持ち 5
休み三日目。
はっとして起きるともう昼だった。
時計を見て確認してが正午を回っている。
「あああ〜。」
思わず叫び声をあげると隣の部屋からカカシさんが顔を出した。
「おはよう、イルカ先生。」
おはようって、もう昼じゃん。
「何で起こしてくれなかったんですか?」
ちょっと恨みがましい目で見るとカカシさんは「ごめんね。」と言いながらベッドの横に来た。
そのまま、トスンとベッドに座る。
「あんまりよく寝ていたからさ、起こせなかったんだよね。」
カカシさんが寝乱れた俺の髪を手櫛で整えてくれる。
「でも、今日は遊びに行くっていっていたのに。」
昼回ってから出かけんじゃ、遠出ができないよ。 俺がひどく残念がっていると、カカシさんは俺を抱き寄せ耳元で囁く。
「でも、俺、本当は外に行くよりね。」
低い声が俺の耳を擽る。
「家の中でイルカ先生と二人でいるのがよかったから起こさなかったの。誰にも邪魔されないし。」
「そ、そうなんですか?」
なら、いいんだけど。
俺も同じだからいいんだけど。
でも、なあ。
「カカシさんだって折角の休みなのに、したいことはないんですか?」
「したいことはイルカ先生と二人きりでいることだけ。」
二人切り・・・そ、そうなんだ。
カカシさんに言われたことを頭の中で反芻すると、かーっと体が熱くなった。
・・・お、俺って愛されいるよな。
「それに。」
カカシさんの囁き声は未だ続く。
「この休み、イルカ先生が俺に甘えてきてくれるから。」
俺の顔を見て、にっと笑う。
「すごく楽しい。」
なんて事を言う。
「だから休みが終わるまで目一杯甘えてほしんだけど。」
強請られた。
そして俺は本能のままに甘えてみた。
というか、薬の効果で自然にそうなってしまっていたんだけど。
カカシさんにぴったりとくっついていたり離れてみたり。
戯れたら、擽ってもらったりして大いに笑ったり。
頭や体を撫で貰って、うっとりしたり。
なんだろう、この気持ち。
すごく幸せで明日のことなんて、どうでもよくなってしまうような感じだ。
そんなことをしているうちに、あっと云う間に三日目は終わってしまった。
唯一つ、俺には心の残りなことがあった。
薬が効いて本能のままに行動しているといっても。
どこかに残っている理性がその欲求を押さえていた。
それは抱っこだ。
文字通り、腕に抱っこして欲しい。
抱き上げて欲しいのだ。 でも・・・流石に幾らなんでもこれは言えない。
言ってはいけないよな、恥ずかしすぎる。
僅かに残っていた自制心が邪魔をした。
カカシさんに甘えながら俺は心で葛藤していた。
抱っこして欲しい、いや駄目だと。
本能と理性の間で、どうにかこうにか我慢した。
休みの最終日。
朝からカカシさんは任務に行く。
俺は暇だしカカシさんを見送りすることにした。
カカシさんは五代目のところに寄ってから任務に出発するそうだ。
カカシさんの身支度を手伝っているとカカシさんがぽつりと言った。
「あー、イルカ先生ともっと長く一緒にいたかった。休みなんてあっと言う間だね。」
任務が入るなんて本当についてない。
そんなことを言っている。
「まあまあ。」
俺は慰めた、気休めにしかならないけど。
「次の休みでゆっくりしてください。」
そう次の休みでは、ゆっくりと休めればいい。
今回は俺ばっかり休んでいたしな。
家を出て一緒に歩きながらカカシさんは言う。
因みに手を握っていた。
「でも、イルカ先生と一緒でなければ嫌なんです。」
「そう、ですよね。」
そうだよなあ、俺達休みが重なるなんて余りないし。
急に寂しくなってきてしまった。
その後、当たり障りの無い話をしながら歩いていたが、気が付けば五代目がいる建物の前まで来ていた。
「じゃあ、俺、五代目のところに行ってきますね。」
「はい。」
その後は、里の大門まで送るつもりだ。
「イルカ先生。」
カカシさんが繋いだ手を優しく離した。
俺は知らずのうちに力を入れて握り締めていたらしい。
「本当は離したくないけど。」
両手で俺の手を包んでから離す。
「直ぐ戻ってくるから待っていてね。」
カカシさんは建物の中に消えた。
「カカシさん。」
カカシさんの姿が見えなくなると無性に寂しくなった。
薬の効果は三日くらいって言っていたから、多分効果は切れているはずなのに。
カカシさんが恋しくて堪らない。
今すぐ会って抱き締めてもらいたい。
「カカシさん。」
早く出てきて。
でも出てきたら。
今度は大門まで送って、それから暫くお別れだ。
寂しさが募ってきて胸が痛くなる。
そんな時、後ろからポンと肩を叩かれた。
「イルカ。」
声をかけて来たのはイビキさんだ。
「調子はどうだ。」
「イビキさん!」
俺の様子にイビキさんは眉を潜めた。
「どうした?何か変だぞ。」
俺の額に手を当ててくる。
「熱は無いようだな。でも体が、ふらふら揺れているぞ。」
寂しくてしょうがなくて、なんだか立っていられない。
カカシさんに傍にいて欲しい。
「大丈夫か?」
自然な成り行きでイビキさんが俺を抱え上げた。
所謂抱っこだ。
「医務室に行くか?」
俺は首を振った。
「大丈夫です。」
抱っこされたかったのにイビキさんにされると、どうも違う。
抱っこは嬉しいのに。
どっか違う。
イビキさんは、何を思ったのか「よしよし。」と俺の頭を撫でてくれた。
少しだけ安心する。
でも。
イビキさんじゃないんだ。
きっと俺が抱っこされたいのは。
その時、すっと背筋が冷たくなった。
正しく言うと、冷気が流れてきたのだ。
出処ろの方を見てみると。
建物の玄関にカカシさんがいた。
俺達の方をじっと見つめている。
その瞳は冷ややかだった。
子犬の気持ち 4
子犬の気持ち 6
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