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子犬の気持ち 6



「イビキ。」
背筋も凍るような声がカカシさんから出た。
「何をしている。」
「カカシ。」
イビキさんが機先を制するように言う。
「落ち着け、何もない。」
「何もなくて、何故イルカ先生を抱き上げているんだ。」
カカシさんは珍しく怒っていた。
「いや、これには訳があってだな。」
「今すぐ離せ。」
聞く耳持たない風なカカシさん。
イビキさんは俺を下ろそうとするけど、俺は降りたくなかった。
だって。
下りると一人ぼっちになってしまうようで。
「嫌だ。」



イビキさんにしがみ付いた。
「おい、イルカ。」
慌ててイビキさんが自分から引き離そうとするけど。
下りたくないんだ。
「嫌です。」
俺はぎゅっとしがみ付いた。



「イルカ先生。」
静かなカカシさんの声がするので、見るとカカシさんが両腕を広げて。
「こっちにおいで。」
そう言ってくれた。
「さあ。」
目の色は優しい。
その声と目に誘われるように俺はカカシさんの腕の中に落ちた。


がっしりとカカシさんが俺を抱き締めてくれた。
嬉しい。
これが俺の求めていたものだ。
ぎゅっと両腕を首に回して抱きついた。
「カカシさん。」
「イルカ先生。」
カカシさんの優しい声に心底安心した。




「で、イビキ。」
俺を腕に抱えたまま、カカシさんは聞く。
「どうしてこうなったのか、理由を話してもらおうか。」
イビキさんは観念したように。
「怒るなよ。」と前置きして話し始めた。



話を聞いたカカシさんはひどく怒った。
「今後はイルカ先生を実験台に使うな。」
絶対にだ、と約束させた。
それから俺にも念を押した。
「イルカ先生もイビキに言われてもほいほい、薬を飲んじゃいけません。」
解りましたね、と俺には怒ってというより、叱るような言い聞かせるような感じだった。
「俺に心配させないで、いや心配するのは好きだけど。」
俺は未だカカシさんに抱き上げられていた。


「それで。」
カカシさんは核心に触れる。
「どんな薬を飲ませたの?効果は?」
「効果はだな。」
イビキさんは何故か胸を張った。


「子犬の気持ちになれる薬だよ。」
「子犬の気持ち?」
カカシさんは柳眉を顰める。
「何だ、そりゃ?」
イビキさんは嬉々として説明し始めた。
カカシさんに怒られたことなど堪えてないようだ。



「ふーん、なるほどねえ。」
聞き終わるとカカシさんは俺を見た。
「イルカ先生がねえ。」
ちょっと恥ずかしくなったけど、俺はカカシさんの腕から降りたくなかったので、しがみ付いてカカシさんの肩に顔を埋める。
顔を見られたくなかったのだ。
カカシさんは安心させるように俺を抱え直した。



「でもなあ、カカシ。」
イビキさんが不思議そうに言う。
「薬の効果は三日が限度なはずなのに。未だ、イルカは薬が効いてるようなんだよ。」
それは俺も不思議だった。
「だから、カカシに抱っこされてるんだろうと思うんだが。」
地面に下りようとしないのは、その為だろう、と。
「薬に副作用はないと思うんだがなあ。」



「ああ、それはね。いいよ、分かってるから。」
カカシさんは断言した。
「イルカ先生は、ずっと甘えたかったけど、今まで我慢していたから。」
その分、今甘えているんだよねって。
「俺は別に子犬じゃなくても、イルカ先生ならいっつも可愛いし。」
俺ならとてもじゃないが言えないことをさらりと真顔で言ってしまう。
なんでもないことのように。
当たり前のように。


「単に薬は切っ掛けだったんだよ。」
そして。
「俺もずっと望んでいたしね。」
イルカ先生が甘えてくれることを。



カカシさんが言ったことをイビキさんは反芻して考えていた。
「うーむ、奥深い。」
真剣な顔になっている。
「薬の開発をイチから見直さないといけないなあ。」
単に懐くだけじゃ駄目だな、こりゃと呟いている。
「薬を飲むことによって、相手への甘えや想う気持ちが誘発されるとなるとなあ。」
そうなったら潜入操作には向かないな、と。


イビキさんはカカシさんに頭を下げた。
「すまなかったな、カカシ。」
俺にも声をかけてくる。
「イルカ、悪かったな、許してくれ。」
「いえ、あの、こちらこそ。すみません。」
俺こそ、申し訳なくなって謝った。
俺は結局新薬の開発に役立っていない。
「イルカ先生は謝らなくていいんですよ。」
カカシさんはそう言うがそういう訳にもいかない。


イビキさんは気にした風もなく「じゃあな。」と言って行ってしまった。




残るは俺とカカシさん。
俺は未だカカシさんの腕の中。


「よいしょ。」
カカシさんは俺をもう一度抱え直した。
「このまま、家に帰りましょうか。」
「えっ、任務は?」
これから任務に出発じゃないのか。

「任務は延期になりました。」
「延期?」
「はい。」
カカシさんは俺を抱き上げたまま、いとも容易くゆうゆうと歩き始めた。
「何でも、一昨日に延期が確定していたらしいんですが、俺のところに連絡が来るのが今日になってしまって。」
もっと早くに教えてくれればイルカ先生とゆっくりできたのに。
「あーあ。」
カカシさんは、ちょっと溜め息を付いている。
「でも。」



ふっと笑って俺を見上げてきた。
「でもね、イルカ先生が甘えてきてくれて、すごく嬉しかったな。」
そ、そうかな?
「イルカ先生、今まで甘えてきてくれなかったから、俺不安だったんです。」
「不安って・・・。」
「俺、必要とされてないのかなって。」
カカシさんのまさかの告白。
そんなことを思っていたなんて。



「だからね、薬を飲んだのはちょっとアレだったけど、結果的には良かったかなあって。」
「カカシさん・・・。」
「今日はまだ始まったばっかりですよ。」
カカシさんは嬉しそうに笑う。


「今日はゆっくりしましょうね。」
「はい。」
俺は大きく頷いた。
「すごく嬉しいです。」
本当に嬉しい。
嬉しくてカカシさんに抱きついた。


ああ、子犬の気持ちになってよかったな。


今度は自分の気持ちのままに素直に甘えてみよう。
たくさんたくさん。


カカシさんに甘えてみよう。



終り




子犬の気持ち 5





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