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きっと大切な人だから 9



一緒に簡単な朝食を食べると連日任務のカカシは、さすがに仮眠を取ることにした。
「ちょっと任務続きで寝ていないので寝てもいいですか。イルカ先生も一緒に寝ます?」
誘ってみたがイルカは首を横に振る。
「俺は夜、ちゃんと眠っているので大丈夫です。」
「そうですか。」
ふわーとカカシは欠伸をしながら言った。
眠気が急の襲ってくる。
イルカの傍だろうか。
布団を敷きながらカカシはイルカに告げた。



「実は今夜から一泊の予定で、また任務なんです。」
「え・・・。そう、なんですか。」
カカシが布団を敷く様子を傍らで見ていたイルカは溜め息こそ吐かなかったものの、がっかりした様子であった。
「あの、すぐに帰ってきますから。」
取り繕うようにカカシが慌てて言葉を付け足す。
「寂しくないように、また忍犬を置いていきますから。」
そんな悲しそうな顔をしないで、と言いそうになる。
俯いたイルカから小さな声が聞こえた。



「俺、学校の先生なんですよね。パックンさんから、色々と聞いたんですけど。」
カカシが不在の間、イルカは忍犬から自分のことを聞いていたらしい。
記憶がなく自分のことが解らず、頼れるはずの恋人のカカシが不在なので自分のことが知りたくなるのも当然である。
「俺の仕事というか・・・。ずっと、ここで休んでいていいのでしょうか?」
最もな質問でもあった。
「ええっと、それは・・・。」
カカシは急いで考えを巡らす。
「イルカ先生は怪我をしているので、休暇扱いで療養中になっています。」
嘘をついた。
恋人であるという嘘の上に更に嘘を積み重ねてしまう。



「誰にも迷惑をかけていないということでしょうか?」
責任感の強いイルカらしい発言だ。
「え?ええ、大丈夫です。」
イルカは、まだ任務に行って帰って来てないことになっているから。
「だったら、いいんです。」
呟いてイルカは隣に大人しく座っていた忍犬を手招きすると抱え上げた。
そのまま、立ち上がる。
「カカシさん、お疲れでしょうからお休みになってください。」
ふらっとしながらも壁に手を着いて部屋を出て行ってしまった。
カカシの顔は一度も見ずに。
「・・・イルカ先生。」
自分のしたことに今更ながら、深い後悔の念の湧き上がってきて。 カカシは、とりあえず布団に入って横になったものの、ちっとも眠気を催すことはなかった。


それでも少しは眠ったらしく、カカシが目を覚ました時は日は落ちていた。
夕方である。
カカシの傍にイルカの姿はなかった。
気配を探ると家の中にイルカはいるようである。
カカシは気配を辿りながらイルカを探すと家の庭に面した座敷にいた。
正確には庭から外が見える座敷の縁側に横になっていた。
そこで小さく丸まって眠っていたのである。



「カカシ。」
カカシの気配に気がついた忍犬が、ぴょんと飛び出てきた、イルカの腕から。
イルカは忍犬を抱きながら眠っていたようであった。
「カカシよ。」
忍犬が小さな小さな声でカカシに言った。
「これでいいのか。」
「いいって・・・。」
珍しく、きつい口調である。
「イルカのことに決まっているじゃろう。」
痛いところを突いてきた。



「イルカはな、カカシ。」
忍犬なのに主に対して説教じみた言い方になっている。
「お主の前では元気に振舞っているが、カカシが不在の時はひどく気が滅入っているようじゃぞ。」
その言葉はカカシの胸に突き刺さった。
「一人だと食事も喉を通らんみたいで、碌に食べてないんじゃ。」
カカシがいない間、食事をしていなかったらしい。
帰って来た時、イルカを抱きしめた違和感は、それだったのだ。
二日ほどでも食べなければ痩せるまではいかなくても、体に多少の変化はある。
「記憶のことを言っていたが・・・。イルカは自分が誰か解らず、たった一人で、この家に取り残されて・・・。」
ぐさぐさと言葉が刃となって、カカシの心に降ってきた。
「仮にも恋人であるカカシはいない、傍にいるワシはイルカのことを知っていてもイルカに記憶にワシはいないのじゃからのう。」



忍犬は、そっと寝ているイルカを振り返った。
起こさぬように気を遣っている。
「夜は眠っているなんて嘘じゃ。イルカはワシを、ずっと腕に抱えて昼間はあの縁側で、ぼんやりと外を眺めて、夜は布団に入っても、やはりワシを抱きしめたまま、まんじりともせず・・・。」
カカシに知らない事実が次々と明かされる。
「今日は偶々、眠っておるがな。」
カカシが帰って来て安心しているのじゃろう、と言う。
忍犬は忍犬らしからぬ目で優しくイルカを見ていた。
子犬を見る親犬のように。
「だから!」
忍犬は厳しい声を小さく発した。
最初に言った言葉をカカシに、もう一度言った。
「これでいいのか。」



いいわけない・・・。
それは解っていたのだが。
解っているのだが。
何と答えたらいいのか。
答えが見つからないまま、カカシは寝ているイルカを起こさぬように抱き上げると自分が寝ていた部屋に戻り、自分が寝ていた布団に横にならせた。
布団を、きっちり肩までかけて寝顔を、じっと見つめる。
顔は明らかにやつれていた。
任務続きのカカシより疲れた顔をしていた。
イルカは独りぼっちで、どんな気持ちだったのであろうか。
恋人か・・・。
その言葉を苦い気持ちでカカシは噛み締めた。



カカシは、すくっと立ち上がった。
イルカの寝ている部屋を後にする。
忍犬に言い付けた。
「俺は任務に行って来るから・・・。」
「カカシ!」
「イルカ先生を頼むね。」
「逃げるのか!」
忍犬の声が後ろに聞こえた。
とても遠くから「逃げるな!」と言う声がする。
だって。
走りながらカカシは自分に言い訳をした。
今だけ、今だけだから。
この任務が終わったら、ちゃんとするから。
心の中でイルカに謝っていた。
ごめんなさいイルカ先生、と。





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きっと大切な人だから10






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