きっと大切な人だから 7
イルカの言葉を聞いて、きっちり一分、カカシは固まった。
・・・今、キスって聞こえたような。
「え、キス?」
魚のじゃなくて、と馬鹿なことを考えながら、念のためにイルカに確認する。
「えーっと、よく聞こえなかったので、もう一度、言ってもらっていいですか?」
おろるおそる言うと、イルカは腕の中のパックンを、ぎゅっと抱きしめて「もういいです」と小さな声で呟くと、ふいと横を向いてしまった。
なんだか拗ねているようにも見える。
忍犬の胡乱気な視線がカカシに突き刺さってきた。
それを何とか振り切ってカカシはイルカの両肩を掴んで自分の方を向かせた。
「あ、ごめんなさい。あの、します。したいです、させてください。・・・・・・キス。」
じっとイルカがカカシを見つめている。
心なしか顔が明るくなったようだ。
「・・・目を閉じてください。」
カカシが言うとイルカは素直に目を閉じた。
記憶の大部分を喪失していてカカシのことを恋人だと信じているイルカは里にいる時は、何かに捕らわれてような制限されているような感じだったのに、今は本当に自分に素直になっている。
そんなところが愛しくなる。
本当の恋人だったらよかったのに。
そんな思いがカカシの胸を過ぎった。
そしたら思う存分キスできるのになあ。
かといってキスすることを止めることは出来ず、、目の前の誘惑には勝てなかった。
イルカにキスしたい。
耐え難い欲求が突き上げてくる。
・・・でも、嘘偽りなく恋人になった暁にキスをしたい。
そうも思った。
なのでカカシは・・・。
ちゅっと可愛らしい音を立てて、イルカの額にキスを落とした。
忍犬の視線が少々、痛かったが。
「じゃ、これで。」
カカシはイルカから体を離すと、ひらりと身を翻した。
「ちょっと木の葉の里まで行って来ます。」
そしてイルカの前から、どろんと消えた。
里に向かうカカシの顔は仄かに赤らんでいた。
イルカ先生にキスしちゃったよ・・・。
嬉しくて恥ずかしい。
幸せだけど、ちょっぴり幸せではない。
ああ、これが本物の恋人同士だったら、と何度もそう思わずにはいられなかった。
つい嘘をついてしまったが。
嘘なんてつかなきゃよかった、と思う反面、あんなイルカ先生が見られるなんて嬉しすぎるとも思ったりもしている。
素直で可愛いイルカ先生。
カカシの気持ちは揺れ動き、幸せと後悔の間を行ったり来たりしていた。
その気持ちは例えていえば、思春期の少年のようであった。
里に着いたカカシは任務の報告をすませて、それとなくイルカのことを探ってみた。
特に誰も任務について噂も心配もしていないようだ。
まだ、イルカの任務の期間内であるので当たり前かもしれない。
任務期間内を過ぎれば問題になるのかもしれないが、イルカに与えられた任務期間の終了までは数日ある。
たった数日か・・・。
イルカの任務期間が終了したら、当然、捜索されるだろう。
そうなったら、どうしようか。
ふむ、とカカシは考えた。
イルカを里に連れて帰ってくるしかないのか、それとも、このままカカシの隠れ家で暮らすとか・・・。
もしもカカシの隠れ家でイルカがカカシと一緒に暮らしてくれれば、いつでも帰った時にイルカが出迎えてくれる。
それは、とっても魅力的だ。
でも、とその魅力的な考えはカカシに翳を落とした。
イルカ先生は?
イルカ先生の人生は?
自分自身の身勝手な欲望といったら大げさかもしれないけれど、イルカにだって人生がある。
俺が恋人でよかった、って嬉しそうに言っていたけど、でも・・・。
考えながら受付所を出て廊下を歩いていると誰かに呼び止められた。
「カカシさん!こんなところにいたんですね!」
五代目の火影の付き人のシズネであった。
「綱手さまがお呼びです。任務のことで。」
綱手とは火影の名前である。
「あー、はいはい。」
カカシは、いい加減に返事をするとシズネに付いて行った。
五代目火影にカカシは任務を言い付けられた。
しかも二日ほど掛かる任務だ。
あー、ついてない。
任務はしなければいけないけれど、今はしたくなかった。
なぜならばイルカの傍にいたいから。
怪我も治りきってないし歩けないし、一人きりだし。
忍犬に任せてあるとはいえ、心配だった。
そんなことを考えながらカカシは走っていた。
任務に行きがてら、途中、隠れ家に寄ってイルカに会ってからと、それから任務に行く。
帰って来たのに、すぐ任務とか行ったらイルカ先生寂しがるだろうな。
胸が、ちくちくする。
隠れ家には結界が張ってあるから外敵の侵入はないだろうし、食料もある。
でもなあ、そうじゃないんだよなあ。
カカシは溜め息を吐いた。
溜め息を吐いていると、いつの間にかイルカのいる隠れ家に到着していたのだった。
「え、任務・・・。お仕事ですか?」
任務に行く前に時間が少しあったのでイルカと共に夕食を摂っている時に、任務のことをイルカに話した。
最初は驚いた様子ではあったが、任務が仕事だと理解すると特に騒ぐ様子もなく淡々と冷静に受け止めていた。
「それで二日ほど留守にしてしまうことになるんですが・・・。」
躊躇いながら言うとイルカは頷いた。
「仕事なら、しょうがないですよ。」
心配しないように、とカカシに微笑んで見せる。
その気遣いに申し訳なくなってカカシは項垂れた。
「すみません。」
謝ってしまう。
「なんで、カカシさんが謝るんですか。仕事だって分かっていますし、恋人なんだから謝らないでくださいよ。」
イルカは優しく言った。
「俺なら、ちゃんとここでカカシさんの帰りを待っていますから。」
「ありがとう、イルカ先生。」
その言葉に、じーんとカカシは感動してしまう。
とっても嬉しかった。
そしてカカシはイルカの怪我の手当てをしてから、忍犬に再びイルカを任せて後ろ髪引かれる思いで任務に出発した。
出発する前にイルカにキスするのも忘れなかった。
今度は額ではなく、イルカの頬にキスしてみたのだった。
きっと大切な人だから6
きっと大切な人だから8
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