きっと大切な人だから 14
急に抱きついてきたイルカに驚きながらも、その背に腕を回してカカシは言った。
「え・・・。今日、俺の誕生日だっけ・・・。」
考えてみると任務に出発した時は九月初めでは任務は二週間の予定だった。
今日が、その二週間目に当たる最後の日、ということは、ちょうどカカシの誕生日になる。
自分でも誕生日ことなんて忘れていた。
なのに、イルカは覚えていてくれてお祝いの言葉を言ってくれた。
すごく嬉しい。
それに。
「ねえ、イルカ先生。」
抱きついて離れないイルカの背を、ぽんぽんと叩くカカシの顔は明るい。
「ねえねえ。」
表情も緩んでいる。
声も甘さを含んでいた。
「今、なんて言ったの?聞こえなかったなあ。」
わざと言っていた。
「お願い、もう一回言ってよ。」
声には嬉しさが滲み出ていた。
「い、言えません、無理です。もう・・・。」
カカシの首にかじりついているイルカから細い声が聞こえた。
「もう、俺は駄目です。こんな、こんな・・・。」
恥ずかしいです、と言う声も、そして体も微かに震えている。
「記憶がない間の俺がしたことって思い出すだけで死にたくなります。」
俺ってあんなキャラじゃないはずだ、と呟いていた。
「あんな、カカシさんに、だっ抱きしめてとかキスしてほしいとか。」
自分で言っておいて更に恥ずかしさが増したのか、イルカはカカシに抱きつく力が強まった。
「なんで、あんなこと言ってしまったんだ・・・。」
「なあんだ、そんなことですか。」
イルカの告白にカカシは自然と笑みが浮かんだ。
「それはイルカ先生が俺が言ったことを信じていたからでしょう。」
カカシが恋人だと言ったことを少しも疑わずにイルカは信じていたのだ。
「だからこそ、極普通に恋人として振舞ったってことで。そんで、なんでイルカ先生がそんなことをしたのかと言うと。」
声が優しくなった。
「イルカ先生の心の底に、俺が好きだという気持ちがあったからに他ならない。」
カカシの言葉にイルカは黙ってしまった。
「俺のこと、きっと大切な人だから、と言っていましたよね。」
あの言葉、とイルカの体を抱きしめる。
「俺もね、同じ気持ちですよ。イルカ先生が大切な人です。大切で大好きな人です。」
「カカシ先生。」
イルカの腕の力が緩み、そろそろと体と起こして俯き加減に顔を上げてきた。
その表情、全部は見えなかったが。
「俺、任務に行く前にカカシ先生のことが好きなんだって自覚して、それで。」
「それで?」
「でも、火影さまがカカシさんにいい人みつけるように言っているのを聞いて。」
「うん。」
「カカシさんは俺のこと好きだって言ってくれたけど断らないと思っていて。」
ぽつりぽつり、とイルカは自分の心情を語った。
「そう思っていたからか、記憶がない分、羞恥心が薄れてしまったのか、よく言えば素直になってしまったのか分かりませんがカカシさんに抱・・・。」
続きを言うのを断念して、はあ、とイルカは息を吐き出した。
「自分でも、あんなことをしたなんて信じられないですし、今の俺では絶対しないと思います。」
「そっか。」
「そんなことをした相手、カカシさんの顔がとてもじゃないけれど、まともに見れません。」
「そう、でもさあ。」
カカシは腕の中の俯いているイルカの顔を覗き込んだ。
「でも、やっぱり俺のこと好きなんでしょう、イルカ先生。」
「そ、そりゃあ・・・。」
顔を覗き込まれたイルカは逃げることが出来ず、覚悟を決めたように言った。
「俺はカカシ先生のこと好きなんだなあって。」
言ってから目を閉じた。
「記憶がない時の俺が取った行動は、きっと俺の本心なんだと思いますし。」
それから目を開けて、しっかりとカカシを見た。
「好きです、カカシ先生。」
はっきりとカカシの耳のイルカの言葉は届いた。
「俺もイルカ先生のことが好きです。記憶がない時に恋人だって言ったこと許してくれますか。」
「え?ああ、気にしていません。」
「よかった〜。」
ほっと胸を撫で下ろしたカカシはイルカに強請った。
「ねえ、さっき言ったこと、もう一回だけ言ってください。誕生日おめでとうの後に言った言葉。」
小さく頷いたイルカは囁くように。
カカシにだけ聞こえるように。
甘い吐息と共に言葉を告げた。
「俺の恋人になってください。」と。
きっと大切な人だから13
きっと大切な人だから15
text top
top