きっと大切な人だから 12
カカシの腕の中に倒れ込んできたイルカは意識を失っている。
意識を失ったイルカをカカシは、よいしょと担ぎ上げた。
大事に背中に背負う。
キスした際に睡眠を誘導する首にあるツボを押したのだ。
イルカの両頬を挟んで気づかれないように首裏のツボを押すことなど上忍のカカシにとっては容易いことだった。
これからイルカを連れて木の葉の里に帰る。
帰れば、どうなるか、よく分かっているが・・・。
今更、未練を残してどうする。
決心が揺るがないうちにカカシはイルカを背負い、木の葉の里に向かって走り出した。
木の葉の里に到着したカカシは、まず火影の元へと向かった。
「カカシ!どうしたんだい、イルカを背負って?」
目を、ぱちくりとする火影にカカシは背負っているイルカを別の部屋に寝かせてもらい、事と次第を話し出した。
淡々と任務の報告とイルカを連れて来た経緯と理由を簡潔に要点だけを述べていく。
火影は腕を組み、目を閉じてカカシの話を黙って聞いていた。
「・・・ということです。イルカ先生の任務は、とっくに終わっていて俺が・・・。」
「つまり、結果的にカカシが保護してイルカの面倒を見ていたってことか。」
「・・・そういうことかもしれません。」
「言い方を変えるとだな。」
ぎろっと火影がカカシを睨みつけた。
かなり迫力がある。
「カカシは故意に、イルカのことを心配する私にイルカのことを黙っていた、嘘を吐いたということだな?」
「そうです・・・。」
「それに、だ。」
火影の鋭い声が飛んだ。
「イルカに対してカカシがやったこと悪く言えば、拉致。監禁とまではいかなくても軟禁みたいなもんじゃないか。」
「そうかもしれません・・・。」
「そうかもしれませんじゃないんだよ。」
低く聞こえる声が、おどろおどろしい。
カカシは、ぐうの音も出ない。
「カカシ。」
「はい。」
木の葉の里に久しぶりに大きな雷が落ちた。
「この大馬鹿者っ!」
怒鳴り声は窓を揺るがし、辺り一帯の空気が凍らせ震えさせた。
傍で聞いていた付き人のシズネが両耳を押さえて蹲ってしまほどのものだった。
「すみません。」
もちろん、怒鳴られた本人カカシの肝は冷えた。
「すみません、反省しています。」
カカシは殊勝に謝った。
「二度としません、イルカ先生に誓います。」
いつになく落ち込んでいるカカシに、それ以上、火影は何も言わなかった。
「で、イルカの容態は?詳しく話せ。」
「はい。高度な術が中途半端に掛かっており複雑に絡まって、記憶に障害が出ています。これまでの記憶が定かではありません。」
「あとは?」
「足に数箇所怪我が。こちらは、もう大分、良くなってきています。」
「分かった。イルカを診よう。」
火影は立ち上がった。
すたすたと歩いてイルカのいる部屋へと向かう。
カカシにも声を掛けた。
「イルカが心配なんだろ。一緒に来い」と。
「じゃ、カカシは一回、ここで待て。」
火影はカカシを廊下で待たせるとイルカのいる部屋に入室していった。
それを見送りカカシは、どきどきしながら結果を待つ。
結果といっても火影がイルカに掛かっている術を解くだけなのだが。
数分後、部屋の中の気配が変わった。
イルカの意識が戻ったのが分かる。
それに何故か、ひどく動揺しているようだった。
「イルカ先生、どうしたんだろ。」
そわそわと、部屋の外で待っているカカシは気が気でない。
一刻も早くイルカに会って無事な姿を確認したかった。
部屋の扉が開いて中から、イルカの診察を終えた火影が出てきた。
「火影さま、イルカ先生は?」
いの一番にイルカの様子を訊く。
火影は微妙な顔をしていた。
「あー、術は解けた。足の怪我も完治させておいた。」
「よかった〜。」
カカシは胸を撫で下ろす。
「じゃあ、あの。」
思い切って言ってみた。
「イルカ先生に会ってもいいですか?」
どうしてもイルカの顔が見たかった。
「あー、それはだなあ。」
火影の微妙な顔は、どことなく面白そうにしているような顔に変わった。
「イルカはカカシに会いたくないそうだ。」
「えっ。」
イルカは総て知って、カカシに怒っているのか。
カカシのしたことを考えれば怒られても当然なのだが。
「そ、そうですか。」
落胆して肩を落とすカカシを、これまた愉快そうに火影は見ている。
「いや会いたくないとは、ちと違うな。正確にはカカシに合わせる顔が無いと言っている。」
「え、それって、どういう・・・。」
火影の顔は楽しそうに、にやにやとしている。
「まあ、要するにだな。」
カカシに朗報というべきか悲報というべきか、決定的なことを言った。
「イルカは術に掛かっている間の記憶を失ってはいず、起きた出来事を忘れていない。」
つまり、それは・・・。
「術にかかって記憶を失っていた間のことは覚えているし、今までの記憶も支障なく、ちゃんとある。」
「じゃあ・・・・、ってことは。」
カカシは思わず叫んでしまった。
「俺と恋人だったということも、俺とキスしたことも覚えているんですね!」
なんだか、とても。
イルカが隠れ家でのカカシとのことを覚えていることが、途轍もなく嬉しかったのだった。
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