きっと大切な人だから 11
「イルカ先生・・・。」
イルカが言った言葉を聞いて理解すると同時に、カカシの胸が熱くなり不覚にも目に涙が浮かんでしまった。
記憶のないイルカが薄っすらと覚えていた情景の中にはカカシの姿があったのだ。
しかも笑っている顔、優しい顔。
それらはイルカがカカシに好意を寄せていたかもしれないということで。
カカシの嘘が分かった今でもカカシのことを怒りもせず呆れもせず、ただ言ったのは・・・。
恋人じゃなくて残念だということ。
こんなことなら嘘なんて吐かなければ・・・。
「イルカ先生、本当にごめんなさい。」
ごめんなさい、ごめんなさい。
その言葉を繰り返す。
それでも握ってもらったイルカの手を離せず、カカシは謝ることしか出来なかった。
「もう謝らないでください。」
「でも。」
それではカカシの気持ちが治まらない。
イルカには精一杯詫びたい気持ちで、いっぱいだ。
「・・・それで、あのう。」
躊躇いがちにイルカが訊いてくる。
少し不安そうに。
「これから、私はどうすれば・・・。」
カカシの恋人ではない、ということは、この隠れ家にいられないということになるのではないか、と暗に訊いてきた。
「ここにいるのは・・・。」
「それはですね。」
握られた手を安心するように握り返したカカシは言った。
「前にイルカ先生は木の葉の里の忍だと言いましたよね。」
「はい。」
「木の葉の里には里の長を務める、火影さまがいらっしゃいます。その方ならイルカ先生に掛かっている術も解くことができると思うので記憶が戻ります。」
「じゃあ、これから俺は・・・。」
イルカが、そっと目を伏せた。
「その木の葉の里に行くのですね。」
妙に静かな声だった。
少しイルカの様子がおかしいことにカカシは気がついた。
どことなく悲しそうで。
記憶が戻るというのに何故だろう。
「そうです、これから木の葉の里に行きます。イルカ先生は、まだ足が完治していないので俺が背負って・・・。」
言いながらカカシは言葉に詰まった。
そうして記憶が戻ったら・・・。
ここでのことは全部、忘れてしまうのか。
胸が痛くなる。
余り、一緒にいることは出来なかったが仮初めでも、カカシと恋人だったことも。
そんなことを考えると言葉が出てこない。
何とも気無しにカカシは黙ってしまっていた。
対するイルカも何事か考えているのか、言葉を発しない。
二人の間を暫く、沈黙が流れた。
「あ、あのっ。」
先に言葉を発したのはイルカであった。
「カカシさん、俺。」
何か重大なことを言おうとしているのか、イルカはカカシの方へと身を乗り出してきた。
「この家を発つまでは、まだ、俺たち。」
ぐっと唇を噛んでから意を決したように言う。
「まだ、恋人でいいですよね?」
「え・・・。」
「だ、だから、まだ、俺の記憶が完全に戻る前なら俺たち、恋人ですよね?」
イルカは何を言おうとしているのか。
「俺はカカシさんの恋人でいいですよね。」
必死な顔でイルカは言いカカシが頷くのを待っている。
そんなイルカにカカシは「イルカ先生が、それでいいのなら」と言ってしまう。
「だったら。」
更にイルカはカカシの方へと身を乗り出してきた。
「木の葉の里に戻る前に。」
イルカの目はカカシを真っ直ぐに見ている。
「キス、してください。恋人のキスを。」
ちょっと声が震えていた。
そんなことを言うイルカの真意は、どこあるのか。
考えようとしたけど今は、どうでもよかった。
イルカと恋人としてキス。
最初で最後の、かもしれない。
「いいですよ。」
優しく笑ったカカシはイルカを引き寄せると両手でイルカの顔を、そっと挟んだ。
イルカの黒い瞳は潤んでいる。
綺麗で無垢な目だ、イルカのように。
「イルカ先生、目と閉じて。」
カカシが囁くとイルカの目は閉じられた。
「大好き、イルカ先生。」
ゆっくりゆっくり、イルカの唇に近づいていく。
自分の唇と触れ合うと大そう、気持ちがよかった。
イルカの唇は心地よい。
いつまでも触れ合っていたくなるほど。
随分、長いことキスしていた。
キスすることが、こんなにも気持ちを高ぶらせ、そして満たしてくれるものなのか、とカカシは実感した。
離れる時も、ゆっくりゆっくり、なるべくゆっくりと離れていく。
キスが終わってもイルカは目を開けることはせず。
腕の中に倒れこんできたイルカの体をカカシは、しっかりと受け止めたのだった。
きっと大切な人だから10
きっと大切な人だから12
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