Forever Thirty7
遅くなった。
それがカカシの感想だった。
できたら、自分の誕生日には里に帰還したかったけど、思ったより任務が長引いてしまった。
イルカ先生、がっかりしているだろうな。
そう考えると、カカシの胸は痛む。
あんなに張り切って、色々と準備してくれていたのに。
里への道をひたすら走りながら、カカシは、はあ、と溜め息を漏らした。
そりゃ、来年も誕生日は来るけどさ、欲張ったらいけないと思ったけどさ。
はあ、ともう一度、溜め息を吐く。
「できたら、今年も来年もイルカ先生に祝ってもらって誕生日を一緒に過ごしたかった。」
思わず、本音が出てしまう。
だって今日はカカシの誕生日だった。
しかし、もう夜になっている。
このまま走り続ければ、日付が変わる、ぎりぎりで里に到着するだろう。
任務だとかなんとか、カッコつけてたけど自分の誕生日にイルカ先生に会いたい。
好きな人におめでとうって言ってほしいし、何か好いことあるかもしれないし。
やっぱり頑張って自分の誕生日に、日付が変わらないうちに里に着こう、そしてイルカ先生に会おうと決心したカカシは更に走るスピードを速めたのだった。
受付けに報告書を、即効提出して、イルカの待つ家に帰る。
しかし、家は真っ暗だった。
外から見ても明かりは点いていない。
「イルカ先生、いないのかな?」
待っているって言ってくれてたのに。
不審に思いながらカカシは玄関のドアを、そっと開けた。
もしかして眠っていたりして。
そう思ったカカシは静かに声を出した。
「イルカ先生、ただいま〜。」
しんと静まり返った部屋からは返事がない。
「イルカ先生〜。」
忍び足で居間まで行くと、お酒の匂いが、其処彼処に漂っていた。
目は暗闇に慣れてきたのだがカカシは、とりあえず電気を点けることにする。
パチッっと電気のスイッチが押されて室内が明るくなると同時に、真正面から何かが、すごい勢いで、ぶつかって来た。
丁度、暗闇から明るく電気が点いたところなので眩しくて目を瞬かせていたところだったので不意を突かれた格好になる。
カカシは受身も取れず、ぶつかって来た何かと、そのまま無様に床に倒れこんだ。
自分の家だったから油断した。
「いったーい!」
後頭部は、もろに畳みにぶつかり、ダイレクトに痛みが伝わってくる。
これくらい大したことはないけれど、ちょっと、むかっときてしまった。
いったい何が自分にぶつかってきたんだろう?
目が光に慣れて、漸く、ぶつかって来たものの正体が判明した。
「イルカ先生・・・。」
カカシの体の上に乗っかって、カカシを見下ろしているのはイルカだった。
何故か、カカシの手首まで押さえ込んで動かないようにしている。
イルカは多分、風呂に入ったのだろう、寝巻きにしている浴衣姿で髪も下ろしていた。
じっと、カカシを見つめる瞳は、とろんとしていて気だるげで、まるで夢でも見ているような感じである。
雰囲気が、いつもと違う。
いつもの元気で明るいイルカとは違い、悩ましげな瞳で、うっとりとしたような顔でカカシを見つめている。
カカシは、ぴんときた。
「イルカ先生、お酒飲んでいますね?」
押さえつけられたまま、テーブルの上を見るとイルカがカカシの誕生日にと買ってきたワインのボトルが二本、空になっている。
三本目のワインの瓶は半分まで減っていた。
「酔っているの?」
「酔っていません。」
イルカは、全く乱れたところのない発音で答える。
顔も赤くはなく、どちらかというと青白い感じだ。
「だって、ワイン、たくさん飲んだんでしょう?」
カカシの問いにイルカは、目を細めて薄っすらと笑いを浮かべた。
その顔にカカシはうっかり、どきりとしてしまう。
どきりとした自分に、カカシは慌ててしまった。
「イ、イルカ先生、ちょっと退いてくださいよ。」
心臓に悪いから、とカカシは切々と訴えたのだがイルカはカカシの訴えを、さらりと流す。
そして先ほどのカカシの問いに答えた。
「あのワインは『カカシさんの誕生日に飲む』って言ったでしょう?」
「そりゃ、言ってましたけど。」
当の本人がいないのに、飲んでしまったのか。
「だって、カカシさん帰ってこないんですもん。」
俺、ずーっと待っていたのに、とイルカは口を尖らせた。
「カカシさん、いなくて寂しかったんです。」
カカシを待っているうちに寂しくなってワインを飲んでしまったようだ。
だが、こんなイルカは珍しい。
弱音などの類は滅多に言わないのに。
それを言ってしまうほど、イルカはカカシの帰還を心待ちにしていたらしい。
頭では任務だと分かっていても、感情では少しだけ納得いってなかったようだ。
「そっか、ごめんね。」
イルカの気持ちを考えて、カカシは素直に謝った。
「でもさ、俺、誕生日、ギリギリで帰って来たでしょう?」
時計は日付が変わる、五分前だった。
「・・・そうですね。」
イルカはカカシの腹の上に乗っかったまま時計を、ぼんやりと見る。
分かっているのかいないのか、怪しい。
イルカは時計を見てから、にこりと笑ってカカシを見た。
その笑顔は心底嬉しそうで、子供みたいだ。
無邪気な笑顔にカカシはずるいと思った、お酒を飲んでいるのに。
大人が嗜むお酒を飲んで、そんな顔をするなんてずるいなあ。
下ろした髪は艶っぽく、カカシの体を跨いで乗っかっているので浴衣の裾は肌蹴て、普段は見えないような足に部分が丸見えで、浴衣の襟もよれて鎖骨の形がはっきり見えているというのに、それらを眺めていると変な気分になってくるのに、
そんな子供みたいな顔で笑うなんて、幾らなんでも反則だろう。
手が出せないじゃん、とカカシは心の中で愚痴ってしまう。
どちらかと言うと、今すぐ、立場逆転して俺の方がイルカ先生を押し倒したい。
そんなカカシの気も知らずイルカは非常に、ゆったりとした口調で言った。
「じゃああ、ご褒美あげます。」
「ご褒美・・・。」
イルカの顔が、ゆっくりとカカシの顔に近づいてくる。
そう言えば、イルカ先生に押し倒されて見上げる体勢なんて初めてかも。
近づいてくるイルカの顔を、つい観察してしまう。
イルカ先生て、下から見ると意外と睫が長いんだなあ。
新たな発見だ。
イルカの黒い瞳も見上げると余計に大きく見えて、くっきりとした黒がカカシの心を打つ。
綺麗・・・。
そんなことを思ってしまった。
イルカの顔が間近に迫ってイルカの匂いが、ふわりとカカシを包んだ。
既にイルカは目を閉じている。
唇と唇が触れ合って、カカシはイルカにキスをされた。
キスされる寸前にカカシの耳に届いた声がある。
「カカシさん、誕生日おめでとう。」
時計の針が午前、零時をさしていた。
カカシの誕生日は無事に幕を閉じたのだった。
Forever Thirty6
Forever Thirty8
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