Forever Thirty4
カカシが現場に駆けつけると、既に召集を受けた何人かの木の葉の忍が集まっていた。
切り立った崖の上から、遥か下を流れる川を見ている。
そこが捜索の拠点らしい。
その中で、見知った顔を見つけてカカシは話しかけた。
「アスマ、状況は?」
端的に聞く。
「ああ、戦闘があって三人の中忍が崖から落ちて、下の川に流された。捜索は始まっているが捗々しくない。」
アスマも端的に答えた。
カカシとアスマは足場を慎重に確保しながら、下の川に降り立った。
その間もアスマは知っていることを話してくれた。
「イルカたち、中忍は囮役だったんだ。平和協定を結んだ国との証印の巻物を里に持って帰る際に協定を快く思わない国の敵に狙われる恐れがあった。その敵を撹乱させるために証印を持ったと思わせるための囮だったらしいんだよ。」
目の前の川は、降った雨で増水し、轟々と音を立てて流れている。
落ちたら、ひとたまりもないだろう。
「で、イルカ先生のスリーマンセルの班が見事に狙われたってわけ?」
何の感情もない声でカカシは言った
「・・・まあ、そういうことだ。」
アスマは、それだけ言って何も言わなかった。
言うべき言葉が見つからなかったせいもある。
カカシがイルカに対して抱いている気持ちを考えると生半可なことは言えなかった。
「とにかく、探そうぜ。」
「分かってるよ。」
淡々とカカシは答えると、黙々と行方不明者の捜索を開始したのだった。
暫くして、二人の行方不明者見つかった。
イルカとスリーマンセルを組んでいた者だった。
二人は上手い具合に岩場に引っかかっていたのだ。
息もあり、傷も浅い。
話すことができ、戦闘時の状況も説明してくれた。
「イルカは敵を揉み合って、そのまま、流されていきました。」
ぞっとするようなことを聞かされる。
「最後に見たときは敵と一緒に川に沈みかけていて・・・。」
最後までを聞かずにカカシは立ち上がった。
「どこに行く?」
アスマは分かりきっていたことを聞いた。
「イルカ先生を探しに行くに決まってんだろ。」
乱暴に答えるカカシには焦燥の色が見える。
「俺一人でも捜索の範囲を広げて探す。必ずイルカ先生を見つけ出す。」
「カカシ・・・。」
「絶対に生きているから、イルカ先生は。」
それだけ言うとカカシの姿は消えた。
イルカ先生・・・。
流れの早い川の岸辺をカカシは注意深く見ながら、一心に目を凝らした。
どこかにイルカがいないか、一縷の望みをかけて。
イルカが、この川の冷たい底に沈んでいるなんて考えたくもない。
「イルカ先生っー!」
カカシは叫んだ。
「どこにいるんですか!」
しかし叫び声は虚しく響くだけだった。
ともすれば泣きたくなる気持ちを懸命に押さえてカカシはイルカを探す。
絶対に帰ってくるって約束したのに。
イルカ先生の嘘つき・・・。
視界が涙で霞んできた時、カカシの視界に何かが、ちらりと見えた。
岩に隠れた所から、肌色の何かが見える。
人の手だ。
一瞬で、その場所に行くと、そこには果たしてイルカがいた。
辛うじて上半身が岩と岩の間に挟まれて、流されずにいたのだ。
触れたイルカの体は凍りつくように冷たかった。
急いで川から引き上げて、首筋に手を当てて脈と確認すると弱弱しくだが打っている。
イルカは生きている。
その事実に、ほっとしたカカシではあるが、イルカの顔は紙より白く、体は長時間冷たい水に浸かっていた所為か体温が著しく低い。
そこへアスマが到着した。
イルカを見つけたカカシを見ると近寄ってきた。
「・・・生きているのか?」
「ああ。」
「そうか。」
その答えにアスマも、ほっとしたようだ。
「だが、様態はかなり悪いようだな。カカシは、このままイルカを連れて里に行け、報告は俺がしておく。里へも知らせておくから早く医者に診てもらえ。」
「すまない、そうする。」
カカシは頷いてイルカを抱き上げると瞬時に、その場から消えた。
生きているうちで一番、早く走ったと思われるカカシは里に着くと病院へ駆け込んだ。
アスマが知らせてくれていたお陰で、イルカは素早く処置してもらえ、医者の治療を適確に受けられた。
そして医者は言ったのだ。
「命に別状はありません。」
その言葉は、なによりカカシを心底、安心させた。
「意識が戻るのは明日の朝になると思いますが、一晩、点滴をして安静にしていれば大丈夫ですよ。」
そう言われた。
病室で目を閉じているイルカの顔を、ただただカカシは見つめていた。
イルカが自分の目の前で息をして生きている。
顔色は、まだ悪いが静かに触ると温かさを感じた。
生きているんだ。
目頭が自然と熱くなって、胸が詰まる。
こういう時、泣きたくなるのは何故だろう。
眠っているイルカのベッドに両肘を着き、イルカの片手を、今だけと布団から出すと、そっと握り締めた。
神様、ありがとう。
そんなこと一度も思ったことがなかったのに、そう思ったのだった。
次の朝、ぱちりとイルカは目を覚ました。
体は、まだ動かないらしく目を、きょろきょろさせて辺りの気配を伺っている。
「イルカ先生。」
カカシが声を掛けるとイルカは、嬉しそうに目を細めた。
「カカシさん。」
掠れた声で名を呼ばれる。
「ここは病院だよ、木の葉の里の。」
そう教えるとイルカは、ふうっと大きく息を吐いてから言った。
「俺、助かったんですね。」
「・・・そうだよ。」
言いたいことが山ほどあったカカシだがイルカの次の一言で何も言えなくなってしまった。
「カカシさん、やっぱり迎えに来てくれたんですね。」
「・・・え?」
「俺、川に流されて意識が無くなる寸前、家で眠っているカカシさんが脳裏に浮かんだんですよ。」
「・・・ほんと?」
カカシは夢に出てきたイルカを思い出していた。
「ええ。でもカカシさんは眠っていて起きなくて、だから言ったんです。『迎えに来て』って。」
イルカは照れたように笑った。
「情けないですけど、あの時、カカシさんに迎えに来てほしいとか思っちゃったんですよね。もう会えないかもしれないとか思ったら・・・。」
夢の中でイルカは『お元気で』ではなく『迎えに来て』と言っていたのか。
そうすればカカシの夢の内容とイルカの言っていることは合致する。
でもカカシにはまだ聞きたいことがあった。
「キスは!キスは俺にした?」
「それは・・・。」
イルカが答えるまで、だいぶ間があった。
「・・・それは知りません。」
知りません、とは言うもののイルカの顔は真っ赤に染まっている。
本当は顔を覆い隠したいのだろうけど、体は動かずカカシの強い視線に当てられて、たじたじになっていた。
「ねえねえ、本当はどうなの?」
キスしてくれたんでしょう?と尚もカカシは問い詰める。
今は完全に面白がっていた。
「ねえ、イルカ先生?」
寝ているイルカの真上から見下ろす。
焦るイルカの顔が、よく見えた。
ふふふ、と笑って顔を、もっと近づけると真っ赤になって睨みつけてくるイルカと目が合う。
可愛いなあとカカシが思った、その時、イルカの顔が正面に迫ってきて、ちゅっと鼻先にキスされた。
そしてイルカが言った。
「今、キスしました。」
真っ赤になっているイルカは顔を見られたくないのか、ふいと横を向いてしまう。
「キスされました。」
カカシは嬉しそうに笑って横を向いているイルカの頬に、お返しのキスをしたのだった。
Forever Thirty3
Forever Thirty5
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