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二度あることは三度ある<一度目の2>



しかし男も身元が解らぬことには里に戻り難い。
うっかりスパイだったら、どうしようもない。
目の前の男を見ていたら、そんなことは全くなさそうだったけれども。
それに、だ。
呼び名がないと不便極まる。
なので。
「えーっと、持ち物見せてもらえる?あんたが誰か知りたいから」
試しに言ってみた。
持ち物を見れば何かしら手がかりがあるかもしれない。
「はい」
素直に頷いて身に着けていた持ち物一つ一つをオレに見せてくれた。
「うーん」
見せられた持ち物を見てオレは唸る。
身元が解るようなものが何もない。
一個もない。
忍者の鑑とも言うべきか、見事だ。
忍者は死に際して身元が判明するべきではないというのが通例となっている。
ただ死体になった時に唯一、同じ里の同胞にだけ解るように身元を暗号化して明記してある認識票を任務に出るときは身につけているはず。
所持が義務付けられているから。
通常はネックレスとして首から掛けている。
それを見れば名前も身元も解る。
認識票に期待した俺は男に首から何か提げてないか訊く。
「ネックレスみたいなものしてない?」
男は黙って首を振る。
「こんなの持ってない?」
オレの認識票を見せても不可思議な顔をしていた。
心当たりがないらしい。
困ったな。
この人、任務に認識票を持ってくるのを忘れたのかな〜。



腕を組んで考え込んでいると男が「あの」と話しかけてきた。
「はたけさん」
「え?」
そんな呼び方は久しい。
名字で、さん付け。
普段は階級をつけて名前を呼ばれている、はたけ上忍って。
なんか、いいなあ、その呼び方。
気を良くしたオレは男に言った。
「も一回、呼んで」
「え」
「俺の名前」
「はたけさん」
戸惑いながらも男は呼んでくれた。
心地よい声に吸い込まれそうになる。
慌てて気を引き締めた。
あー、あれだなあ。
オレは頭をがしがしと掻いた。
ちなみに、これは困った時の癖だ。
目の前の男といると沈着冷静なオレのペースが崩れるなあ。
クールが売りなオレなのに。
「はたけさん」
「え、ああ、なに?」
男がオレを呼んだのは用事があるからだよな。
俺は男の顔を見た。
「どうかした?」
「はい」
神妙な顔をして男は俺に頭を下げてきた。
「ご迷惑をお掛けしているようで本当にすみません」
「あー、いやあ、別に」
オレとしては里への帰還が伸びているので助かってはいる。
反面、どうしようかと迷ってもいる。
男は敏感に、それを察知したのだろう。
「頭の傷も手当てしてくださったんですか?」
「まあね」
「ありがとうございます」
頭の包帯を触って男は再び、頭を下げる。
そんなに畏まられてもオレの方が困ってしまう。
なんか苛めているような気分だ。
男は、ふらりと立ち上がった。
自分の持ち物を手にとって。



「ちょっと!まだ、大人しくしていなさいよ。傷が開くよ」
「大丈夫です」
男は微笑んだ。
今更だが男の顔に横一線、傷が残っているのを認識した。
忍者に傷は付き物なので大して気にしていなかったが男が微笑むと本来痛々しいはずの傷が、男に優しい雰囲気を醸し出す。
これは意外。
男は深々と頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしました。はたけさんもご自分のご都合がおありでしょうから後は自分で何とかします」
「何とかってどうするの?」
答えはない。
「それにどこに行く気?こんな真っ暗な森の中を」
これにも答えはない。
だいたいにして何も思い出せないのなら行く当てもないのに。
どうしようっていうんだ。
「ねえ」
隣に立つ男の手首を掴むと、びくっと震えが伝わってきた。
「落ち着きなさいって。いったん、座りなさい」
「でも」
「でもはいいから」
「はい」
しょぼくれて男は、もう一度、腰を下ろした。
地面に正座してオレを見ない。
この時、オレは解った。
ああ、心細いんだなあって。
何も思い出せなくて、目の前のオレも何も知らなくて、手がかりになるようなものを何も持ってなくて。
改めて男を見る。
不安なんだ、きっと。
その証拠に男はオレが手首を掴んでいるのに振りほどこうとしない。
されるがままって言うと言葉は悪いが要は誰かに傍にいてほしいんだと思う。



「そう焦らなくてもいいよ」
オレは不器用ながら男を慰めた。
「忘れているなら、そのうち思い出すでしょ」
「だったら、いいのですが」
男は煮え切らない。
顔を曇らせている。
「今夜はここで夜を明かすから寝なさいよ」
眠るように促した。
「寝て、頭をすっきりさせたら思い出すかもしれないよ」
「はたけさんは?」
「オレは火の番しているから」
一晩くらい寝なくても平気だ、問題ない。
「もし嫌じゃなければ」
控えめに男は申し出てきた。
「傍にいてもいいですか、眠れそうもないので」
「うん、いいよ」
承諾すると男は安心したように、ふわっと笑った。
なんか、なんか・・・。
あれだ、かわいい、無邪気で。
子供みたいってやつか。
そしてオレの横に座った男は火に当たって温かくなって、うとうとしてきたのだろう。
オレの肩に頭を預けて眠ってしまった。
不思議と男に寄りかかられても嫌じゃなかった。
むしろ、いい感じ。
オレは男がずり落ちないように片手は本を読み、片手で男の体を支えてやった。
腰に手を回して体を固定してやったのだが、その際に偶然にも男のズボンのポケットに手が入った。
金属の冷たい感触がある。
悪いと思ったが引っ張り出してみると、無いと思っていた忍者の認識票だった。
・・・こんなところにあったとは。
見落としていた。
オレは男を起こさぬように認識票を焚き火にかざす。
忍者番号、血液型、その他諸々が書いてある。
もちろん男の名前も。
男の名は、うみのイルカだった。



二度あることは三度ある<一度目>
二度あることは三度ある<一度目の2>



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