二度あることは三度ある<一度目>
それはオレが召還を受けて里に戻ろうとしていた道すがら起こった出来事だった。
数日前に里からに式で、至急戻れと命令されたのだ。
「面倒だな、もー」
数少ない同僚の口癖が出てしまった。
ずーっと里外の任務をしていて里に戻るのは数年ぶりで。
知り合いや同僚に会うのも久方ぶりだった。
そんな連中と話をするのが楽しみではあったが一方で面倒でもあった。
なんたって色々としがらみが出てくるから。
人付き合いとは、そういうものだと頭では分かってはいるのだが面倒の一言に尽きる。
だもんでオレは里に至急戻れと言われても何やかやと理由をつけては、ぐずぐずとしていた。
里からの召還は厄介ごとの匂いもするし。
気楽とはいえないが里の外で一人任務をする方がオレの性にあっている。
そのときは本当に、そう思っていた。
急げば一日で着く里までの距離をオレは、のろのろと進んでいた。
言い方を変えれば、のんびりと。
しかし、まあ、のんびりと進んでいてもやがては里に着いてしまう。
明日には里だというところでオレは近場に人の気配を感じた。
ここは森の中、敵がいてもおかしくはない。
敵か・・・。
条件反射で身を隠すオレ。
戦っているうちに身についた習性だ。
武器を構えて人の気配のする方に忍び寄る。
そろそろと足音を忍ばせて近づき、そろっと覗くと人が一人倒れているのが見えた。
うつ伏せで目を閉じている。
身なりはオレと同じ忍装束。
男の傍らに落ちている額宛には木の葉のマーク。
体格からして男。
木の葉の里の忍、同胞か?
しばらく様子を見ていたが男は動かなかった。
じっと倒れたまま。
怪我をしているのか・・・。
嗅覚を意識的に鋭くしてみると微かに血の匂いがする。
やっぱり怪我をしているらしい。
全く知らない人間だが怪我をしている木の葉の同胞を見捨てるわけには行かずオレは男の傍に近寄った。
ただし敵である可能性は頭の隅に置いておく。
オレはビンゴブックに載っていて常に狙われているからだ。
男が木の葉の里の忍だとは完全には信じていなかった。
倒れている男に近づいて跪いて首に手を当てた。
温かく、脈はあり息もしている、生きていた。
怪我をしている箇所は、すぐに判明した。
頭だ。
後頭部を派手な傷があった。
傷の割には出血は少ない。
他に外傷はなく理由は不明だが頭を打ったことで気を失ったらしい。
うつ伏せの男の体を腕に抱えて仰向けにすると男にしては長い黒髪が重力に従って、はらりと落ちる。
黒髪が印象的だった。
男は若く、オレと同い年くらいだろう。
怪我を別にすれば健康そうである。
軽く体を揺すってみたが目覚める気配はない。
頭を打っている状態で移動していいものなのだろうか。
体に負担はかからないか。
すぐに里に戻って医者に診せたほうがよかろうか。
医者ではないので判断が難しい。
迷っていると抱えていた男の瞼が、ぴくりと動いた。
目覚める兆候だ。
ぴくりと動いた瞼は何回か、それを繰り返して静かに目が開く。
男の目はスローモーションのように、少しずつ開いていきオレは見守る。
開いた男の目は髪と同じ黒色でオレを惹きつけた。
相手は男なのに・・・。
男は開いた目でオレを見た。
黒い瞳は小さなオレが映っている。
何回か瞬きをしてから男は安心したように息を吐き、また瞼を閉じてしまった。
「おい!」
男は眠ってしまったようで呼びかけても起きる気配はない。
「こら、起きろ!」
怒鳴ってはいない、小さな声で俺は男に呼びかけている。
でも男は起きない。
・・・とんだお荷物を背負い込んだのかも。
オレはなんとなく思った。
やれやれ。
里に帰る前に厄介ごとか。
そんなことも思ってしまう。
オレは男の頭の傷の手当てをして適当な場所で夜を明かすことにした。
さきほどの男の様子からして緊急性はないような気がする。
任務で培ったカンとでもいうのか。
大丈夫だろうと確信したのだ。
だとしたら、わざわざオレが背負ってまで男を里に連れ帰る必要はない。
可愛い女の子なら、まだしも男は重たいからね。
オレは男が起きるのを待つ方を選んだ。
日が暮れて森の中は暗くなった。
小さく火を熾す。
男は、まだ起きない。
一応、体が楽になるように支給されている忍服のベストの前を少し開けて、口元も緩くしてある。
頭には忍具を入れて使用する腰用のウエストバッグを枕にした。
男の物だ。
後頭部の傷には触れないように枕にしてあるから、そこんところは心配ない。
オレは火に当たりながら持ち運び便利に作ってある高カロリーで高タンパク質で腹持ちが良い食事を口にする。
兵糧丸みたいなものだ。
水も一口、飲んだ。
これでオレの夜の食事は終わり。
あとは男が起きるのを待つだけだった。
待つのは得意だ、いつも本を読んで時間を潰す。
愛読書にしている本もあり持ち歩いている。
火の光で本を読み、ついつい里が近いこともあって緊張感が薄れて夢中になって読んでしまった。
面白い、クライマックスってところで俺は視線を感じた。
はっと思って顔を上げると男が上半身を起き上がらせてオレを見ていた。
じーっと。
「あ、起きたの?」
男は頷いた。
「頭を打っていたようだったけど吐き気はない?」
また頷いた。
「他に体に異常は?」
今度は首を振る。
「そう、よかった」
ほっとしたところで俺は気になっていたことを訊く。
「なんで、あんな所で倒れていたの?頭の傷はどうしたの?」
オレの質問に男は眉を潜めた。
訊いたことに応えてくれない。
「あんた、名前は?木の葉の忍で間違いないよね」
矢継ぎ早に訊くと男は困ったような顔になり俯いてしまった。
長い髪が顔を隠してしまっている。
男の黒い目が見えない。
「ちょっと」
苛ついた俺は声を荒げてしまう。
辛抱が足りないかもしれない。
「何か言ったら?」
責めるような口調になってしまった。
男は、そろそろと顔を上げる。
黒い目がオレを見て、そのことに満足した。
「あの」
男が声を発した、小さい。
「オレ・・・」
一度起きたときのように何回か瞬きをして男は頼りなさそうに言った。
「誰なんでしょう?」
「は?誰ってオレは、はたけカカシだけど」
「あ、いや、あなたではなくて」
男は自分を指差した。
「オレは誰なんでしょうか?」
「そんなこと・・・」
オレが知るはずはない。
目の前の人物のことは全く知らない、俺が教えてほしい。
「まさか」
オレは、ごくりと唾を飲み込んだ。
あることが頭に浮かんだのだ。
「何も解らないとか言わないよね・・・」
男は何も言わない。
「ここはどことか私は誰とか」
「すみません」
本当に申し訳なさそうにして男は項垂れた。
「何も解りません、思い出せないのです」
・・・ということは、だ。
記憶がないってことで。
それはいわゆる記憶喪失ってやつで。
頭を打ったことが原因だとは推測されるけど。
まさか、そんな小説の中のような出来事が現実に起きるとは。
噂には聞いていたが記憶喪失って本当にあるんだ。
晴天の霹靂、いや小説よりも奇なり。
オレの愛読書に記憶喪失のヒロインがいたような・・・。
そのヒロインは主人公と恋に落ちたが結末はハッピーエンドではなくてバッドエンドで意外だった、あれには驚いたっけ。
じゃなくて!
バカなことを考えてしまったが、まずは落ち着かないと。
落ち着け自分、百戦錬磨のオレが何で慌てる必要がある。
自分に言い聞かせていたつもりだったのだが気がつくと俺は男の手を握って、有らぬ事を口走っていた。
「平気ですよ、オレがついています!」
なんで男に対して、しかも初対面の男にこんなことを言ってしまったのか。
謎だった。
二度あることは三度ある<一度目の2>
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