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風は何処に吹く・続続続続



「ここがイルカ先生の家だったのか〜」
カカシは酔ったイルカを背中に背負っている。
「イルカ先生の家って、どこだろうと思っていたら」
カカシはイルカの探偵事務所が入っているビルの前で、帰るときはイルカと分かれている。
何回か、イルカの家がどこだろうと跡をつけてみたのだが、いつも見失っていた。
それはイルカがすぐに自宅に帰っていたからで。
・・・家に入れば姿は見えないよね。
「イルカ先生は職業が探偵だから跡をつけているの、もしかしてバレているのかと思ったりしたんだけど」
自分が跡をつけた行為については棚に上げている。
よいしょ、とイルカを背負いなおしたカカシは背中のイルカに向かって話しかけた。
「イルカ先生、おうちの鍵ありますか〜」
「うーん、ポケット・・・」
イルカは目を瞑っていて半分、眠ってしまっている。
「家は何号室になりますか?」
目の前のイルカの家は、いわゆるアパートだ。
珍しいことに一階建ての長屋みたいな風な感じで。
時代劇のドラマに出てきそうな雰囲気がある。
「イルカ先生?」
むにゃむにゃと何かと言っているイルカは夢の中にいるらしい。
「ま、表札を見ればいいか」
そう軒数もないので、カカシは端の家から順々に表札を見ていった。
中には表札がない家もある。
表札がない家がイルカの家だったら、どうしようもないのだが、最後の一番端の家の表札に海野と書いてあった。



「あ、あった!」
イルカの家に間違いないだろう。
海野という名字は、そうそうないので。
「えーっと鍵はポケットだっけ?」
悪いと思ったがカカシは背負っているイルカのズボンのポケットを器用に探る。
「あ、あった!」
鍵は、すぐに見つかった。
「イルカ先生、家の鍵、開けていい?イルカ先生の家なんだけど。開けて中に入っていい?」
うーん、と唸ったイルカが頷いたような気がした。
それを了承と捉えたカカシはイルカの家の鍵を開けると中に入る。
「おっじゃしまーす。イルカ先生の家に初!」
どこか、はしゃいでいた。
「電気点灯!」
ぱちっと壁にある電気をスイッチを探り当てて、電気を点ける。
ぱっと明るくなった室内は、あっさりとしたもので大きな家具は窓辺にあるベッドくらいだ。
何もない質素な部屋だった。
「・・・俺より部屋より物がないなんて」
初めて見た、と呟いたカカシは背中のイルカを、そっとベッドに下ろした。
ベッドの上には綺麗に畳まれたパジャマが乗っている。
「イルカ先生、これ、着て寝ているのかな?」
淡い色の、ちょっと可愛い感じのパジャマはイルカに似合いそうだ。
「でも・・・」
カカシは、ちょっと眉を潜めた。
「イルカ先生が買いそうにない柄だよねえ」
誰かに貰ったのか、とカカシが腹の中で考えていると「あー、家だー」と声を出してイルカが、むっくりと上半身と起こした。



「なんで、家?」
眠そうな目で、きょろきょろと部屋の中を見回している。
「なんで、カカシさん?」
カカシの姿を見て首を傾げていた。
「あー、あのですね」
がしがしと頭を掻いたカカシは説明をする。
「イルカ先生が酔っちゃったので、家まで送ってきたんです、俺が」
イルカを酔わせたのはカカシだったのが、そこは伏せて。
「あー、そうだった」
にこっと笑ったイルカは酔っている所為なのか、感情がストレートに出たためか、とってもかわいい。
「久しぶりに飲んで、とっても楽しかったので、ついつい飲みすぎちゃってー」
自分で自分のことを「困ったやつだ」とか言って、にこにこしている。
「先生辞めてから、こんなに飲むことなかったので」
「・・・そうなんだ」
カカシは、何となく複雑な気持ちでベッドの腰を下ろした。
イルカとの距離が、ぐっと近くなる。
「そうなんですよ」
酔っているのか、イルカは口が軽いような気がする。
「学校辞めちゃって誰にも会いたくなくなっちゃってですねえ。もう、どうでもいいやと誰にも会いたくないと思って、世捨て人になってやるとか思って」
はああ、とイルカが大きく息を吐く。
「んで、こんな迷路の奥みたいな場所に逃げ込んできたんですけどねー」
イルカの告白は口調は軽いが内容は重い。
「でも、あいつらのことが気になって気になって気になって。会っちゃいけないと思ったんですけど、この前、会っちゃったし」
それはカカシがイルカに一目惚れした運命の日のことだろう。
「俺って、駄目なやつ」
上半身を起こしてイルカは、ごろんとベッドに仰向けになった。
天井を見つめる目は、天井を見ているようで見ていない。
「本当は、もっと先生したかったなあ」



言ったイルカは片腕で目を覆った。
顔が隠れて見えなくなる。
掛ける言葉が見つからないカカシは黙っていた。
イルカの胸中を思うと胸が痛い。
「今はカカシさんと会うのが楽しみでしょうがないし。あいつらの話を聞けるし、友だちみたいだし」
アスマさんに無理言って連れてきてもらったんですよね・・・。
切ない溜め息と共に言われた。
「・・・俺って駄目な上にズルイやつだ」
自嘲気味の呟きだ。
「そんなことないですよ」
手を伸ばしたカカシはイルカの髪に触れた。
髪に触れて頭に触れる。
つやつやの黒髪に隠れたイルカの頭を撫でた。
「俺は下心ありありでイルカ先生に近づいたんですから。最初に言ったでしょ、好きだって」
イルカはカカシにされるがままで答えない。
「一目会った時から恋して愛して、俺の心は今も変わってないですし」
カカシの声は穏やかで。
心に染み入るようで。
乾いているようなイルカの心に入っていくかもしれない。
「恋人になってほしいのもお付き合いしてほしいのも、一生涯大切にするのも変わっていません」
口調は語りかけるようでも独り言のようでもある。
「今は友だちでも何でもいいです、イルカ先生の傍にいられるなら」
友だちみたいじゃなくて、とりあえずは友だちにしておいてくださいね、と先のイルカの発言を訂正するのも忘れない。



「だったら」
腕を顔から外したイルカが起き上がった。
ベッドに正座してカカシに向き合う。
「友だちだったらイルカ先生と呼ぶのは止めてください」
「え」
ぺこっとイルカは頭を下げた。
「もう俺は先生じゃないんですから」
「あ・・・」
ものすごく意表を突かれた。
イルカは先生と呼ばれて喜んでいるかと思ったら、その反対だったのだ。
「先生と呼ばれるのは辛いんです」
ごめんなさい、とイルカは頭を下げたままで言う。
「カカシさんの気持ちが嬉しくて言い出せなくて」
まさか、イルカがそんなことを思っていたなんて思っていなかった。
考えてもいなかった。
目の前が真っ暗になり、頭が真っ白になる。
「ごめんなさい」
イルカは言い続ける。
「ごめんなさい、カカシさん」
「・・・謝らないで、ください」
やっとのことで出せた言葉が、それだった。
「謝らないで」
「じゃあ、許してくれますか?」
ぱっと顔を上げたイルカは、やっぱり酔っているようで。
目が、とろんとしていた。
話し方は、しっかりしていたが酔っているのは事実だった。
「許すも何も・・・」
カカシが言葉に詰まっていると、ご機嫌になったイルカが服を脱ぎだした。
ぽいぽいと軽快に脱いでいた服を投げ捨てている。
「じゃー、もうパジャマ着て寝ようっと」
ベッドに上に畳んであったパジャマを着てイルカは寝ていたのだ。
「おやすみなさーい」

あっという間にパジャマに着替えたイルカはベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
目を閉じると、これまた、あっという間に寝息が聞こえてくる。
酒を飲んだイルカは寝つきがいいようだ。
「うん、おやすみなさい」
布団を肩まで掛けると、ぽんぽんと軽く叩いた。
イルカの寝顔が、ふっと柔らかくなる。
「いい夢を」
それだけ言うとカカシはイルカの家を出た。
鍵を掛けると玄関ドアの郵便受けから家の中に鍵を落とす。
そのまま、ポケットに手を入れて歩き出した。
猫背になっている。
歩きながら、脳裏に焼きついていることについて考えた。
イルカの背中。
服を脱いだ際にイルカの背が見えた。
背中の真ん中についた傷跡も。
・・・あれは新しい傷跡だ。
治ったばかりで再生された肌が痛々しくて。
そういえば、イルカは前に言っていた。
『海水浴で背中の傷が目立たないかな』と。
あんな傷を負うなんて。
いったい、イルカの過去に何があったのか。
なんで先生を辞めたのか。
考えても分からなかった。





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