風は何処に吹く・続続
「イルカ先生、おはようございます!」
日曜の麗しい朝、カカシはイルカが生業としている探偵事務所のドアを勢いよく開けた。
「いい天気ですよ!太陽は天高く輝き、空は晴れて青く、風も爽やか!絶好のデート日和です!」
「そうですか」
いつからいたのか分からないが、イルカは仕事に没頭中。
びしっとネクタイを締めて、ストイックさが漂っている。
パチパチとパソコンのキーを打っていた。
「イルカ先生、外に遊びに行きませんか?気持ちいいですよ」
「結構です」
忙しいのか、イルカはパソコンの画面から目を離そうとはしない。
熱心に画面に見入っている。
「もー、イルカ先生たら〜」
「カカシさんこそ、こんなところにいていいんですか。今の時期、忙しいでしょう」
四月の年度始めは学校の先生は忙しいはず。
そして一応、カカシは高校の教師をしていた。
「大丈夫でーす」
イルカが座っている机の他に、もう一つある事務机にカカシは勝手に座る。
いつもは事務所の事務処理と経理を担当している月光ハヤテという男の席であったが他に本職を抱えているため、時々しか事務所に顔を見せなかった。
「俺の仕事は、もう終わっていますので」
「なら、いいのですが・・・」
言ってから一区切りついたのか、イルカが顔を上げた。
少し微笑み、カカシを見る。
「遅くなりましたが。おはようございます、カカシさん」
窓から陽光が差し込み、室内を明るく照らしていた。
「本当に、いい天気ですね」
「そうなんです!」
「でも、残念ながら俺は・・・」
イルカは両手を上に上げ、ぐーっと背筋を逸らす。
「これから来客の予定がありますので」
「えー、そうなの?」
「はい」
「せっかく、イルカさんとハッピーサンデー過ごせると思ったのに〜」
「なんですか、それ」
くすっと笑ったイルカが立ち上がった。
部屋の隅にある茶器がある棚に行くと茶を淹れ始めた。
「天気がいい、こんな日にカカシさんこそ、デートする彼女はいないんですか?」
からかうように言い、淹れたお茶をカカシの座っている机の上に置いた。
なぜか、イルカの事務所の茶器が揃えている棚にはカカシ用のカップがある。
そのカップにイルカはお茶を淹れてくれたのだ。
「愛しいイルカ先生に会いに来た俺に、そんなこと言いますかねえ」
膨れ面になったカカシは「いただきまーす」とイルカの淹れてくれた茶に口を付ける。
「あちっ」
高温のお湯に舌を引っ込めてから、ふうふうとお茶に息を吹きかけた。
子供みたいな仕草にイルカが微笑ましく思っていると。
「あーあ、イルカ先生とデートしてキスしてイチャイチャして、めくるめく夜の世界へ旅立ちたいなあ」と、大人の発言をして微笑ましく思ったイルカの気持ちを台無しにしたりしてしてしまった。
そうこうするうちに、イルカの言っていた来客が訪れてしまった。
イルカはカカシに帰るように目配せしたのだが・・・。
いつの間にか勝手知ったるイルカの事務所になっていたカカシは慣れた手つきで、客用の茶碗に茶を淹れると対談しているイルカと来客に、これまた慣れた手つきで茶を出した。
来客が不思議そうな顔をカカシに向けると、カカシは宣まった。
「私はイルカ先生の専属の秘書を務めております」
勝手に名乗ってしまう始末だ。
聞いているイルカはとんでもないカカシに発言に、あんぐりと開けた口を慌てて閉じた。
いつもの笑顔が引き攣っている。
引き攣りながらも終始、笑顔で訪れた客と接し、程なくして客が帰ったところでカカシに噛み付いた。
「カカシさん!なんてこと言うんですか!」
ちょっと怒っている。
「秘書だなんて言って!だいたい、教師は副業禁止なはずです。それに仮に、もしも俺の秘書になってもらっても、ここは貧乏探偵事務所なんですから給金なんて払えませんよ」
「やだなあ、他愛もない冗談ですよー。それにお金なんていりません、プライスレスですから」
カカシは楽天的だ。
「こんなことで怒るなんてイルカ先生、かわいいー」
ラブです!とかウインクしてくる。
「そういう問題じゃなくてですね」
更に言い募るイルカの肩をカカシは、ぽんぽんと叩いた。
「怒るのはカルシウムが足りてない証拠ですよ。この後、予定がないのなら外に出てカルシウムたっぷりのものでも食べに行きましょ」
体のいいランチデートのお誘いだ。
「全く、もう」
諦めたようにイルカは息を吐き、ふっと笑みを浮かべた。
「本当に面白い人ですね、カカシさんは」
休みなのに俺なんかを構いに、こんなところまで来て。
肩を竦める。
「まあ、そろそろ昼ですからねえ。どこかに何か食べに行きましょうか」
「やったー」
「夕方から夜にかけては予定があるので、そのまでの間ですけど」
「えー」
「火影さまに付き添いを頼まれていますので」
「火影さま?」
カカシは眉を潜めた。
火影さまとはカカシの勤める木の葉高校の理事の愛称である。
「理事と?」
「そうなんです」
イルカは立ち上がって事務所の鍵を手に取った。
「スーツを着て来るようにと言われました」
「ふーん」
それ以上はイルカは言おうとはしなかった。
守秘義務というやつなのかもしれない。
「ねえねえ、イルカ先生」
「はい」
事務所の外に出るとイルカは鍵を掛けている。
二人して古びた階段を下りて行く。
途中、何度か、ぎしぎしと音がした。
「イルカ先生はいつが休みなの?」
「休みですか、そうですねえ。特にないですよ、不定休です」
「そうなんだ。いつ、デートに誘ったらいいかなあと思って」
「デートだなんて」
そこまで話して階段の一番下に着いた。
ビルの扉を開ける。
カカシの冗談だと思っているイルカは軽く交わす。
「本当に変わった人ですね、カカシさんは」
ちっとも本気で受け取ってくれない。
「もう、俺は本気と書いてマジなのに」
「またまた〜」
「本気ですってば。イルカ先生となら、どこにだってデートに行くのに」
イルカと並んで歩いてカカシは、すっとイルカの肩に手を回し肩を抱く。
「あ、そうだ!夏になって暑くなったら海水浴にでも行きましょうよ。浜辺で白いパラソル立てて日焼け止めを塗りっこして、大きなハートマーク柄の浮き輪に二人で入って海で泳ぐんです」
なんだか無茶なことを実現しようとしているカカシだ。
「あははは〜、カカシさんてば」
カカシの戯言には答えず、笑ったイルカは、とある店の前でイルカは止まった。
「あ、ここで飯、食いましょう。安くて美味いんですよ」
さり気なく、自分の肩に回ったカカシの手を外す。
そして店の暖簾を潜りながら、聞き漏らしてしまうような小さい声で呟いていた。
「・・・・・・海水浴か、背中の傷跡目立つかな」
背中の傷?
多分、イルカは何気に言ったのだろう。
それがカカシに聞こえているかも知らずに。
風は何処に吹く・続
風は何処に吹く・続続続
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