風は何処に吹く・続11
「う、わー」
カカシに案内されたカカシの家を見てイルカは立ち止まった。
黒い目を限界まで見開いている。
「でっかい家ですねえ」
森の奥まった場所にあったのは、洋風とも和風ともとれるデザインのお城みたいな家だった。
「火影さまの家も大きかったですけど、カカシさんの家はまた違った意味で大きいですねえ」
平屋の火影の家に比べて、カカシの家は高さがある。
「それに都心に、こんな森があるなんて」
イルカは、ぐるりと辺りを見渡す。
一面、緑のカーテンで新鮮な空気が肺を満たす。
「空気はいいし爽やかで、いいところですね」
にっこり笑ったイルカはカカシを釘付けにした。
「え・・・。ああ、そうですね」
イルカの笑顔に見蕩れていたカカシは我を取り戻した。
「いい場所でしょ。さあ、家の中に、どうぞ」
玄関扉を開くと広い玄関があり、廊下が続いている。
「さあさ、入って入って」
イルカの荷物を持ってカカシは、ずんずんと奥に進んでいく。
「はーい」
靴を脱いだイルカもカカシに続いた。
「なんだか、変わった造りの家ですね」
「ははは、そうね」
「モダン的だけどレトロな感じで。ノスタルジックな雰囲気ですねえ」
「まあ、この家の持ち主も、そんな感じだしね」
カカシは肩を竦めた。
「カカシさんの家じゃないんですか?」
首を傾げたイルカにカカシが答える。
「俺の家っていうか、正しくは俺が管理を任されている家かな〜」
「・・・管理を任されているって、そこに俺が一緒に住んでいいんですか?」
不安そうに聞くイルカにカカシは「いいのいいの」と手を振る。
「どうせ、この家の持ち主は当分・・・。いや、もしかして、もう帰ってこないかもしれませんしね」
この前、葉書きが来て、どっかに居ついたとか書いてあったからとカカシは軽い調子で言う。
「いったい、どんな人なんですか?」
不思議そうに聞いたきたイルカに「ううむ」と唸ってからカカシは、ちらとイルカを見た。
探るような目つきだ。
「話してもいいけど・・・」
「いいけど?」
「話してもイルカさん、怒らない?俺のこと嫌ったりしない?」
予防線を張ってきた。
「多分、大丈夫だと思いますけど」
「多分じゃなくて、絶対じゃなきゃ話さない」
「・・・絶対、大丈夫だと思います」
「だったら話しますけどね」
カカシはイルカを居間へ通した。
白を基調とした部屋で、テーブルと椅子が置いてある。
そこに座るようにイルカに言い、カカシは飲み物を用意した。
「俺ね、イルカさんの後任で高校の先生する前に何していたと思います?」
「え?えっと、他の学校で先生ですか」
ぶー、とカカシが右手と左手の人差し指で、バッテンを作る。
「違います」
「大学院で研究とか?」
「それも違います」
「・・・うーんと、サラリーマン?」
「ううん、違う」
首を振ったカカシは飲み物に口を付けると上目遣いでイルカを伺う。
「俺ね、この家の持ち主の秘書みたなことしていたの。なんつーか、書生とでもいうかな」
「秘書?書生?」
「そ。だから、この家に居候しながら家事全般をこなしていたんだ〜よ」
そういえば、カカシは家事が得意だと言っていた。
「そうなんですか」
秘書とか書生とか言われても、ピンとこない。
そもそも、カカシは何故、この家に居候していたのだろうか?
「ああ、それはねえ」
カカシは渋い顔をして、とっても言い難そうにしている。
「うーん、こんなことイルカさんには思いも寄らないと思うんですけど」
「はあ」
「この家の持ち主ね、作家なの」
「作家?すごい!」
ごく普通の感想をイルカは述べた。
「作家の方なんですか!そんな人とお知り合いだなんてカカシさん、顔が広いんですね!」
「いや、まあね・・・」
「どんなジャンルの本を書いているんですか?」
読んでみたいと思ってイルカは聞く。
「ど、どんな?」
急にカカシが挙動不審になった。
視線が不自然に落ち着かない。
「どんなって、えーとね・・・。ああ、そうそう、恋愛物?ラブストーリー的な?」
「純愛小説ですか?」
「・・・そ、そうかな?そうかも?」
イルカは元国語の教師でもあるので、文芸に造詣が深い。
「そうですか!」
俄然、イルカは興味が出てきたらしい。
「作家の方のお名前は何て仰るんですか?」
「・・・ジ、ジライヤ、だったか、な〜」
「ジライヤさんですか!名前の雰囲気からして時代物の小説も書いてそうですねえ」
何やらイルカは盛り上がっている。
「ええ、そうですね、あはははは・・・」
取って付けたような乾いた笑いをしたカカシは明後日の方向を見た。
小説家というのは事実であったが、書いている作品に関しては真っ赤な嘘を言っていた。
なんとなく・・・。
なんとなくイルカの前では書いている作品が、まさか青少年が読めないような内容だとは口が裂けても言えなかった。
イルカが、どう思うか考えると怖気づいてしまうカカシだ。
・・・ま、今は伏せておこう。
イルカと、もっと密な友好関係を築いて仲が深まったら言うことにしよう。
そういうことにしておいた。
「で、それでですね」
一先ず、飲み物を飲んで気を落ち着けたカカシは話を続けた。
「俺は、その作家のジライヤさまのすごいファンで家に押しかけて、そのまま居ついてしまった。そんでジライヤさまが取材旅行と称する旅に出て、暇していたら高校の先生をやらないかと打診が来た、そういう訳なんです」
「へええ」
イルカは別世界の話でも聞いている気分だ。
そんな世界もあったのかと。
想像もつかない。
「押しかけるくらいですから、その作家の方の本が大好きなんですねえ、カカシさん」
「そうなんです!」
我が意を得たりと、カカシが勢い込んでイルカに力説する。
「すっごく面白くて何回も何回も、読んでも飽きなくて。愛読書にしているほどです、常に持ち歩いているほどで・・・」
「そんなに面白いのなら、俺も読んでみたいです」
今度貸してくださいね、とイルカに言われて墓穴を掘っているカカシであった。
「ま、とにかく、家に関しては俺が管理を任されているのでイルカさんは心置きなく引っ越してきて大丈夫ですから。むしろ、ウェルカムですよ」
大きく両手を開く。
「イルカさんが一緒に住んでくれたら、めちゃくちゃ嬉しいですよ」
話が一段落してカカシは「さて」と立ち上がった。
「家の中、案内しますね」
「はい」
頷いたイルカは楽しそうにカカシについて行った。
「最後にここなんですけど」
連れてこられたのは庭だ。
一面、青い芝生で、とっても広い。
「イルカさんに紹介したい面々がいるんです」
「俺に?」
紹介とは誰だろう、とイルカは少し緊張する。
この家の持ち主の知り合いの人だろうか、だったら失礼のないようにしないと。
背筋を伸ばす。
「イルカさん、こっちに来てください」
ちょいちょいとカカシが庭の隅の方に手招きした。
「はい?」
とことこと呼ばれた方に行くと、急に何かに飛びつかれる。
「わわっ!」
びっくりしたイルカは思わず、よろめいた。
「こら、そんなことしたらダメだろう」
カカシの叱る声がして目を開けて、よく見ると、そこには数匹の犬が尻尾をぶんぶん振ってイルカを見つめていた。
大小、様々な犬がいる。
「こ、このワンちゃんたちは?」
「うん、ここで飼っているんです」
カカシが頭を掻きながら説明してくれた。
「俺が飼っているんですけど・・・。イルカさん、犬は平気?」
嫌いじゃない?と心配そうな顔になったカカシにイルカは満面の笑みだ。
「平気です、動物大好きなんです」と言いながら、飛びついてきた犬を撫でている。
「犬と暮らすのが子供の頃からの夢だったので」
「だったら、良かった」
カカシが、ほっとしたように笑みを浮かべる。
「全部で八匹いるんですよ〜」
「八匹も!」
「うん」
どの犬も穏やかな瞳で優しそうな顔をしている。
いっぺんでイルカは犬たちのことが好きになった。
「嬉しいなあ」
犬を、ぎゅっと抱きしめる。
「家族が、こんなに増えるなんて想像していませんでした」
「・・・え?」
イルカの言葉にカカシは目を見張った。
家族?
イルカは、そう言ったのか。
その家族の中にカカシは含まれているのか。
どきどきしながらカカシは訊いた。
「その家族って俺も入っていますか・・・」
俺もイルカさんの家族なの?
そう訊くとイルカの顔が途端に真っ赤に色づいた。
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