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風は何処に吹く・続9



「では」
ケーキを食べ皿をお盆に下げるとハヤテはイルカに向き直った。
「この前の話の続きを。仕事の話をしたいのですが」
後半部分はイルカの隣に引っ付いているカカシに向かって言ったものだ。
「え?ああ、はいはい」
仕事の話では、しょうがない。
カカシは渋々と移動する。
ハヤテは持ってきていたアタッシュケースの中から幾つかの書類を取り出し、イルカと話し始めた。
「先月の依頼の件ですが」
「ああ、これね」
イルカの声のトーンが下がる。
「失敗しちゃったんだよねえ」
悲しそうだ。
「いえいえ」
ハヤテは首を横に振った。
「依頼人の方は失敗とは思ってないですよ。ないものはない、でいいそうです」
「そうなの?」
「はい、また別の箇所に当たってほしいとのことで」
「そうなんだ。なんていうか、いいのかな〜?それで」
「いいんですよ、それで。気にしなくていいんです」
二人の会話に聞き耳を立てながら、カカシはアスマの甥っ子の相手をしていた。
していたといよりも、させられていたというのが正しい。



「何て名前なんだコレ?」
アスマの甥っ子が聞いてくる。
「俺?俺は畑カカシ」
「カカシおじちゃん?」
「・・・・・・まあ、そうね、うん。俺は『兄ちゃん』じゃないのね」
甥っ子は、えっへんと胸を張った。
「オレは木の葉丸だ、コレ」
「うん、知ってる」
「小学生だ、コレ!」
「俺は高校教師だ」
「足が速いぞ、コレ!」
「俺は走るの嫌い」
「勉強は嫌いだ、コレ!」
「俺は読書が好き、特定の本に限るけど」
会話が弾む。
なんだか、小学生の木の葉丸とカカシは馬が合うようであった。
「ねえねえ、木の葉丸くん」
カカシは木の葉丸の耳に口を寄せ、手で覆い声が漏れないようにして小さい声で話しかけた。
「秘密の話があるんだけど」
「秘密!」
木の葉丸の目が輝く。
子供は秘密が大好きだ。
「ハヤテのこと知っていたの?」
「うん、知っていたぞ」
こそっと木の葉丸も小声で返す。
「イルカ兄ちゃんが、この家に住んでいたとき、よく遊びに来たからな。オレとも遊んでくれて勉強教えてくれたぞ、コレ」
「そうなんだ〜」
「そうだぞ。ハヤテの兄ちゃんは怒ると、すっごく怖いぞ、コレ」
「え、ハヤテって怒るの?」
意外な情報だった。
いつも淡々としていて感情の変化が見られないハヤテが怒るとは。
「怒ったらどうなるの?」
興味を持ってカカシは聞いてみた。
「ハヤテ兄ちゃんが怒るとだな」
思い出したのか、木の葉丸がぶるぶると小刻みに震える。
「真っ暗な部屋に連れて行かれて、蝋燭に火をつけて」
「ふむふむ」
「ごめんなさいって言うまで怖い話をするんだ、コレ」
「・・・へー」
木の葉丸は、そのときのことを思い出したのか、泣きそうになっている。
「ハヤテ兄ちゃんがする怖い話は、本当に本当に怖くて、夜、一人でトイレに行けなくなるぞ、コレ」
ハヤテは、いったい、どんな話をしたのだろう。
「だから、そんなときはイルカ兄ちゃんについて来てもらうぞ、コレ」
「え、イルカさんに?」
非常に羨ましい話になった。



「そうそう、イルカさんなんだけどさ」
相変わらず、秘密の話は続いている。
「一緒にお風呂って入ってたりするの?」
「うーん」
木の葉丸は腕を組んで考えた。
「前にいたときは入ったことあったけど、今は入らないぞ」
もう大きくなったから、と木の葉丸は言う。
「ほんとは一緒に入りたいって言ったことあったけど、背中の傷跡がひどいからって駄目って、イルカ兄ちゃん言っていた」
「・・・ふーん」
カカシも一度だけ見たことがある、イルカの背の傷跡を。
あれは見られたくないものだったのか・・・。
「他にはイルカさんに関して何か面白い話はない?」
イルカのことなら何でも知りたいカカシである。
「うーん、面白い話?」
「イルカさんの口癖とかイルカさんの好きな食べ物とかイルカさんの弱点とかイルカさんのかわいい寝顔とか・・・」
「ちょっと!そこ!」
ストップが掛かった。
イルカが怖い顔をしてカカシと木の葉丸を見ている。
眉間に皺が寄って、雷、いや拳骨が落ちてきそうな感じだ。
「二人して、こそこそ内緒話しない!カカシさんも木の葉丸に変なこと言わないでください」
イルカに怒られてしまった。
「はーい」
二人して返事して、しょぼんとするカカシと木の葉丸。
木の葉丸が、こそっと教えてくれた。
「イルカ兄ちゃんも怒ると怖いぞ、コレ」
もっと早く教えてほしかった。



「こんな感じでいいですかね?」
「うん、こんな感じで。ありがとう、ハヤテ」
イルカとハヤテの仕事の話は終わったらしい。
「いつも、ごめんな。電話の窓口になってくれて」
「何でもないですよ、こんなことくらい」
どうやら携帯電話を所持しているハヤテが事務所の窓口担当になっているようだ。
「こんなこと気にせずにイルカは早く体を治してください」
「うん、ありがとう」
「私と木の葉丸くんはケーキのお皿とティーセットを返してきます」
ハヤテと木の葉丸は持っていた物をお盆に乗せると、それを持って部屋から出て行ってしまった。
部屋には、またカカシとイルカの二人が残された。
「はああ」
イルカが深く重い息を吐く。
「大丈夫、イルカさん?」
疲れたのか、とイルカの背を摩るとイルカが「大丈夫です」と返事があった。
しかし、声は疲れている。
「寝た方がいいんじゃないの?」
「平気ですよ」
カカシの顔を見て、健気に微笑む。
「少し・・・。悩んでいることがあって」
「悩みなら俺に話してよ」
イルカの負担が減るのなら話くらい、どんだけでも聞く所存だ。
「話した方が楽になることもあるし」
もしかしたら、カカシが力になれるかもしれない。
「ええ、そうですねえ」
躊躇った後、イルカは困ったように言った。
「住む場所が・・・。帰る家が無くなってしまったので、どうしようかと。いつまでも、火影さまの家にお世話になるわけには行きませんし」
俯いた顔に翳がかかる。
「家探しをしなくてはならないのに」
ぐっと唇を噛む。
「なかなか、思うように行かなくて」
体調が優れない面もあるのだろう。
少しだけ、イルカが苛立っているような気がした。
いつもは心配をかけまいと気丈に振舞っているイルカなのだが。
「家、ねえ」
カカシは首を捻って考えた。
「イルカさんは、どんな家に住みたいの?」
「え・・・、これといって。贅沢は言ってられませんから」
特に希望はないらしい。
「ならさ」
カカシは、にっと笑う。
名案を思いついたような笑顔だ。
「うちに来たら?俺んち」
とんでもないことを言い出した。





風は何処に吹く・続8
風は何処に吹く・続10




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