悲しいけれど、それが現実 6
考えてみれば・・・。
とぼとぼと、カカシとの待ち合わせ場所へ向かって歩きながらイルカは思う。
一緒に弁当を食べようって約束したけど、別に俺の手作りのって約束した訳じゃあないもんな・・・。
思い返してみれば、一言もイルカの手作り弁当とは言ってない。
ニュアンスは、そうであったもこ口には出していない。
だったら・・・。
弁当は何だっていいはず。
こっちの立派な弁当を食べた方がカカシも嬉しいはずだ。
自分の作った弁当を食べるよりも。
何より、カカシのために作った弁当は同僚に渡してきてしまってない。
「お待たせしました、カカシ先生」
昨日、カカシと会った場所に到着した頃にはイルカの出そうになっていた涙は引っ込んでいた。
前向きに行こう・・・。
誰だって美味しいものを食べた方がいい。
そう結論づけた。
美味しいものは幸せな気分にしてくれる。
それがイルカの持論だ。
「あ、イルカ先生!」
イルカの姿を見るとカカシは微笑んでくれた。
「来てくれたんですね!」
とても嬉しいそうにしている。
「はい、約束ですから・・・」
すとん、とカカシの横に腰を下ろすと貰った弁当を差し出した。
「これ、どうぞ」
口調が事務的になってしまう。
「カカシ先生のお弁当ですよ」
「・・・えっと、これは」
どう見ても豪華な仕出し弁当を見て、カカシは戸惑っているようだ。
「・・・あー、えーと」
「食べてください」
半ば強引にイルカはカカシに貰った弁当を手渡した。
「せっかくカカシ先生にって頂いたんですから、ぜひ、食べてくださいね」
「・・・そうなんですか」
「そうなんです。とっても美味しそうな匂いがしますね」
イルカは、にっこりと笑った。
「良かったですね、カカシ先生」
しかし、上手に笑えていたかどうかは自信がない。
「・・・イルカ先生は?」
カカシは控えめに訊いてきた。
「ちゃんとありますよ」
持参した弁当を掲げてみせる。
「俺の分は・・・。イルカ先生と同じじゃないの?」
カカシの声が、とっても残念そうな気の所為か・・・。
「まさか・・・。俺の手作り弁当なんて恐れ多くてカカシ先生に食べさすなんて出来ませんよ」
普通に話そうと思うほど、言っていることが卑屈になっていくような気がする。
そんな自分に嫌気がさす。
ぱかっと持参した弁当を開けるとイルカは無言で食べ始めた。
食べ始めてから「いただきます」を言うのを忘れていたのに気がつく。
気がついたが言う気が起きなかった。
イルカの様子を見て気まずそうにカカシはイルカから手渡された弁当を開けた。
「・・・いただきます」
控えめに言うと食べ始める。
何となく、イルカに遠慮している風だ。
食べている間、イルカは一言も口を利かなかった。
利けなかった、という方が正しい。
カカシの立派な弁当を見るのは卑しい気がするし、物欲しそうにするのは嫌だ。
なので、なるべくカカシの方を見ずに黙々と弁当を食していく。
早く食べ終わりたいと思う一方で、自分の弁当を改めて見てカカシに食べさすなんて早まったことしなくてよかったと心底、思った。
おかず、二種類だけだもんなあ・・・。
途中、カカシが話しかけてきた。
「イルカ先生」
遠慮がちに。
「これ、美味しいですよ。一口、食べませんか?」
話しかけられて、思わずカカシと見てしまったが、同時に豪華な弁当の中味も目に入る。
びっくりして目を見張ってしまった。
・・・なんだ、あれは?伊勢海老?
他にも色々。
・・・鯛めしに雲丹ご飯?牛肉の何とかと車海老の何とか?デザートには果物で生ハムメロン?
鮮やかな彩りが目を奪う。
イルカが見ただけでも、高級な食材を使った弁当だと分かる。
・・・すごい。
食べたことも見たこともないようなものばかり。
「どうですか、イルカ先生」
そっと弁当を差し出してきたカカシにイルカは慌てて、首を振った。
「いりません!」
そんなつもりはなかったのに、口調が強くなってしまう。
「あ、いえ・・・。カカシ先生のお弁当なので、俺はいいです」
「そう」
カカシは、それ以上は進めようとせずにイルカと同じく、黙々と食べると箸を置いた。
「ご馳走様でした、美味しかったです」
イルカも、ちょうど食べ終わって箸を置き弁当を仕舞う。
会話は何もなく、昼の時間は最悪な雰囲気になってしまった。
「それでは、俺はこれで」
少し早かったがイルカは立ち上がる。
これ以上は、この雰囲気に耐えられなかった。
「もう、戻ります」
戻る際にカカシから空になった弁当を奪う。
「これは俺が持って行きますから」
カカシの顔を見ることが出来ない。
どんな顔をしているか、想像も出来なかった。
「それでは失礼致します」
しかし、去ろうとしたときだ。
ぐっとカカシに手首を掴まれた。
「待って、イルカ先生」
「何でしょう・・・」
「明日も、ここでお昼を食べますか?」
「明日・・・」
「そうです」
真剣な顔のカカシは頷いた。
「明日も食べるなら、今度は俺が弁当を持ってきますから」
今日のお礼として。
立ち上がったイルカは、まだ座っているカカシを見下ろす。
カカシの目は真っ直ぐにイルカを見ていた。
真摯なカカシの視線がイルカに突き刺さる。
「いえ」
平坦な口調でイルカは答えた。
「仕事が忙しくなりますので、もう、ここでは食べません」
「そう・・・」
イルカを掴んでいたカカシの手が、ぱたりと落ちる。
「今度、俺と飯を食べる約束は覚えてますか」
「覚えてますけど、当分は無理です・・・」
「分かりました」
カカシも立ち上がった。
向かい合わせに立てば、イルカより僅かに身長が高いカカシの目線が上になる。
ふっとカカシが笑った。
「難しいね・・・。思ったとおりに上手くいきません」
何が?と問う前にカカシは「またね」と姿を消してしまった。
「ただいま・・・」
職員室に戻ると同僚が「ご馳走様でした」と弁当箱を差し出してきた。
洗ってあるから、と。
「めっちゃ美味かった〜」
「本当に美味かった?」
何だか信じられなくてイルカは言ってしまう。
「うん、本当。俺、イルカのシンプルすぎる弁当、好きだもん」
「そう?」
「前にも一度、食べさせてもらったことあっただろ」
「そういえば」
何かの用でイルカが昼食に持ってきた弁当を、隣の同僚に食べてもらったことを思い出した。
「イルカの味付けって病みつきになる要素があるんだよなあ」
「そうかな・・・」
「そうそう。毎日、食べるならイルカの弁当みたいなのが俺は断然いいなあ。豪華な弁当は偶にでいい」
「そっか・・・」
落ち込んでいた気持ちが、ほんの少し浮上する。
「そうだ、イルカ」
同僚が興味深げに訊いてきた。
「あの弁当、お口に合った?」
あの弁当とは同僚が渡してきた弁当のことだ。
「え、ああ。美味しかった・・・って」
「あ、そう。イルカに渡してくれてって頼まれたときにさ、お口に合ったどうかと訊いてくれって言われたからさ」
渡してきた人物のことを思い出してイルカは憂鬱になった。
恋愛に人を使わないでほしい・・・。
だって、イルカだってカカシが好きなんだから。
告白しないと決めてはいるけれど。
「だから駄目なのか・・・」
告白しないから、こんな気持ちになるのか。
胸が重くて、すっきりしない。
後で、カカシが食べた弁当の渡し主について伝えるのを忘れていたと気がついたイルカは更に憂鬱になるのであった。
悲しいけれど、それが現実 5
悲しいけれど、それが現実 7
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