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悲しいけれど、それが現実 4



一日、休んでアカデミーに出勤するとイルカの隣の同僚は既に来ていた。
飲み会を欠席して、急遽、受付所に夜勤に入り、昨日はイルカと同じく休みだった。
「よ!来たな」
書類を見ていた同僚はイルカに手を上げる。
「ゆっくり休めたか?」
「うん、たくさん寝たよ」
睡眠を充分取って、体は楽になっている。
疲れも、だいぶ取れた。
「良かったな、俺も羽根を伸ばしたよ」
同僚の顔は、つやつやになっている。
「やっぱ、休むって大事だなあ」
「そうだな」
イルカが席に座ると、こそっと話しかけてきた。
「なあなあ、飲み会のこと聞きたくない?」
欠席してしまった飲み会のことだろう。
「聞きたいって何が?」
「はたけ上忍と、うちの新人の女の子の教師のこと」
「・・・いや、別にいいよ」
イルカとしては聞きたくない。
「そう言わずにさ。結局、あの二人は隣同士に座ったのは一瞬で、遠目から見た感じでは険悪な雰囲気だったらしいぜ」
険悪?
意外な言葉にイルカは眉を潜める。
「何で険悪なんだ?」
「知らん、聞いただけだもん、俺。隣同士に座った二人は火花を散らせて、互いに睨みつけていたんだって」
「・・・ふーん」
「それにさ」
同僚は面白がっている。
「今日、朝一で新人の女の子にさ、訊かれたんだ。何で、イルカは飲み会に来なかったのかって、しつこく」
「俺?」
思わず、自分自身を指してしまう。
「俺、関係ないだろ」
関係ないとは、カカシと新人の教師の間のことをイルカは言っている。
「・・・飲み会で、その二人が険悪な雰囲気になったって言われても」
「違うって」
ちっちっちっと同僚は人差し指を立てて、横に振る。
「そうじゃなくてイルカ個人のことだけ聞いてきたんだよ、若干、はたけ上忍とイルカとの関係についても気にしていたけど」
「・・・ふーん」
よく解らない展開だった。
イルカのことを聞くことも知りたがるのも。
それから、ふとイルカは気がついた。
「なんで、飲み会のことまで知っているんだ?欠席したのに」
イルカは昨日は帰ってから夜まで、一日寝ていたのに。
「何でって」
同僚は肩を竦めた。
「昨日の夜は俺、飲み会に出た連中と飲んでたから」
「・・・タフだなあ」
賞賛しながらも呆れた声が出てしまった。



「あー、昼だー」
正午を過ぎて昼休みになった。
「飯にするかな」
「いいなあ」
隣の同僚hがぼやく。
「俺、この書類を仕上げてからだ」
「頑張れよ」
笑ったイルカは職員室の窓から見える木を指差した。
「今日は天気いいから外で昼を食べてくる」
「了解。のんびりしてこいよ。弁当持参?」
「うん。転寝でもしたら、こっから呼んで起こしてくれよ」
「はいはい」
「じゃ、お先に」と言い残してイルカは外に出た。
外は日差しがあたたかく、ぽかぽかしている。
職員室から外に出ると開放的な気分になった。
「気持ちいいなあ」
持参した弁当を開いて、早速、食べ始める。
もぐもぐと食べていると不意に人の気配がした。
がさ、と草を踏む音がする。
「こんにちは、イルカ先生」
木の陰から姿を現したのはカカシだった。
「カ、カカシ先生!」
口に入れていた物を無理やり飲み込む。
幸いなことに弁当は食べ終わっていた。
「任務から帰られたんですか!」
「うん、朝方ね」
カカシに最後に会ったのは昨日の夜の買出しのときだ。
「お疲れさまでした」
食べて終わった弁当の蓋を慌てて閉める。
「ありがとう、イルカ先生」
にっこりとしてからカカシの視線はイルカの弁当に注がれた。
「イルカ先生はお昼食べていたの?」
「あ、はい」
「それって手作り弁当?」
イルカの弁当箱を指差す。
「ええ、まあ。節約を兼ねて、簡単ですけど」
弁当の中味は玉子焼きとウインナーがイルカの定番だ。
それとご飯に梅干。
だいたい、いつも同じだった。
「ふーん」
カカシは、すっとイルカの横に座るとイルカの手にしていた弁当箱を意味深に見る。
「お弁当、食べ終わっちゃったの?」
「はい」
「いいなあ」
「え」
「お弁当、いいなあ」
二度、カカシに「いいなあ」と言われてイルカは気がついた。
「カカシ先生、もしかして、お昼まだなんですか?」
「そうなんです」
カカシは情けない顔をした。
「お腹ぺこぺこで」
ちら、とカカシがイルカに視線を寄越す。
「イルカ先生のお弁当いいなあ」
「そ、そうですか?」
「いいなあ、食べたいなあ」
「もう食べ終わっちゃったので・・・」
「いいなあ」
「すみません・・・」
妙に弁当に固執している。
そんなにカカシ先生は、お弁当が好きなのかな?
心の中でイルカは首を傾げた。
なので訊いてみた。



「あの、カカシ先生」
「はい」
「お弁当・・・好きなんですか?」
「はい、それはもう!大好きです!好きで好きで堪りません!」
好きが多いような気がする。
「俺、好きなんです」
隣に座ったカカシが、さり気なく距離を詰めてきて肩と肩がぶつかった。
「すっごく好きなんです!寝ても覚めても忘れられなくて、毎日毎日、夢に見るほど好きなんです!」
まるで熱烈な告白のようだった。
聞いているイルカは頬が熱くなってきた。
こんなにたくさん『好き』だなんて単語を聞くのは初めてだ。
「だ、だったら」
熱い頬を押さえながらイルカは、どうにか言った。
この場の雰囲気を変えたい一心で。
「明日、一緒にお弁当食べますか?」
「え?いいんですか!」
カカシの顔が、ぱああっと輝く。
嬉しくて嬉しくて、しょうがないといった様子で。
「本当に?イルカ先生」
「は、はい」
その弁当はイルカが作ることになるが・・・。
「どんなお弁当でもいいのなら・・・」
多分、いつもと同じようなメニューの弁当になるのは間違いない。
「もちろんです」
にこにこ顔のカカシは頷いた。
「どんなお弁当でも文句なんて言いません。言ったら、バチが当たります」
約束ですよ、絶対ですよとカカシは念を押してくる。
「解りました」
イルカは頷いた。
今日から当分は受付所へは入らずにアカデミーだけで仕事なので昼の時間がずれるということはないだろう。
その代わり。
「あ、そうだ」
思い出したことがある。
「アカデミーの仕事が忙しくなるので残業が続くと思うんです。なので・・・」
先回りしてカカシとの約束を断ることになってしまった。
「カカシ先生と以前に約束した食事の件は・・・」
行けそうにない。
「じゃ、それは延期ってことでいいですよ」
快くカカシは了承してくれた。
「イルカ先生との都合がついたときで」
「ありがとうございます」
「その分、明日のお昼はイルカ先生と一緒にお弁当が食べれますしね」
カカシは、うきうきとしている。
「イルカ先生に会いに来て良かったです」
上機嫌だ。
「それじゃ、そろそろこの辺で。俺はどっかで昼飯を調達して」
立ち上がろうとしたカカシが「あれ?」とイルカに顔を近づけてきた。
「イルカ先生、怪我してる」
するっと伸びてきた指先がイルカの唇に触れた。



「ここ」
下の唇を、そっとなぞっていく。
「昨日、会ったときにはなかったよね」
カカシは痛々しそうな顔をする。
「どうしたの?」
心配そうに尋ねてきた。
「あ、それは・・・」
それはイルカが強く唇を噛んだために出来た傷だった。
しかも原因を作ったのはカカシ。
イルカを、かわいいなんて言ったから。
そんな嘘をつくから。
だけども本当のことを言うのは、はばかられた。
そんなことを言ったらカカシに嫌われてしまうかもしれない。
好きだと告白しないことは決めたが、だからといって嫌われたくもない。
複雑な思いが交差して、せめぎ合う。
言葉が出ない。
それをカカシは、どう取ったのか。
それ以上、イルカを問い詰めることはしなかった。
触れていたイルカの唇から指を離したカカシは腰のポーチを、がさごそと漁っている。
何かを探しているようだ。
「あったあった」
ポーチの中から小さな缶を取り出した。
「ちょうど、よく効く傷薬を持っていたんです」
ぱか、と蓋を開けると薬の匂いが漂ってくる。
「イルカ先生。ちょっとだけ、じっとしていて」
指先に薬を掬い取ったカカシは再び、イルカの唇に触れた。
痛くないように力を入れないように、カカシの指がイルカの唇を何回か往復する。
その感触にイルカは目を閉じていく。
心地いい。
時間が止まったかのようだった。



悲しいけれど、それが現実 3
悲しいけれど、それが現実 5




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