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悲しいけれど、それが現実 3



結局、イルカは受付所の夜勤に同僚と二人で入っていた。
アカデミーの受付所等の割り振りをしている主任に泣きつかれたのもある。
本当に不意に起こったトラプルの上のハプニングだったらしく、どうにも人が足りなかったらしい。
すまん、と主任に手を合わされた。
そこまで、されては断れない。
元々、気が進まなかった飲み会だけにイルカは、ほっとしながら受付所の夜勤をしている。
一つ、気がかりなことが残っていた。
約束をしたカカシのことだ。
今日の夜の六時に約束していたのだが。
カカシさん、怒っているかな・・・。
しかし、約束と公の飲み会が重なってしまっては、しょうがない。
どっちを優先するかは一目瞭然だ。
カカシも今日の飲み会に参加しているはず。
それならば、イルカとの約束がなくなってしまうことは了承してくれるだろう。
出来たら、カカシさんに会って話したかったけど・・・。
生憎と今日はカカシに会うことはなかった。
今度、会ったときに謝ればいいか・・・。
時計を見ると九時を過ぎている。
飲み会の面々は二次会に流れている頃だろうか。
幸いにして今日は受付に来る人間は少ない。
「適当にやろうぜ、人も来ないことだしさ」
同僚はマイペースだ。
「ああ、そうだな・・・」
「それに俺たち、明日は休みだしな」
そう言って、にやりとする。
「え?休み」
そんな話は聞いていない。
「それ、本当か?」
「あったり前だろ」
同僚は得意げだ。
「こんな割りに合わないことやらされているんだから、それなりの待遇をしてもらわないと」
「だって、手当て割り増ししてくれるって」
それだけでもい、とイルカは思っていた。
「なに言ってんだよ」
同僚は椅子の上で、ふんぞり返る。
「手当ても貰って、更に休みを貰うなんて当然の権利だろ。俺たち、ここんとこオーバーワークもいいところだったんだから」
超過勤務は確かにあった。
「だから今日の夜の受付をやる代わりに、見返りとして手当てと休みを要求したんだよ」
その要求が通ったということだ。
「すごいな、そんなことするなんて」
イルカは思いもつかなかった。
「イルカは人が良過ぎんの。あとは言ったもん勝ちってとこだな」
ほら、テストの採点、半分やるからと持ち込んでいたアカデミーの生徒のテストを同僚に奪われる。
「久しぶりの休みだな・・・」
ぽつりと呟いたイルカに同僚は大きく頷いた。



「本当に休みだった・・・」
朝、受付所で交代を終えると本当に家に帰ってくることが出来た。
本来なら、朝まで受付所の仕事をして午前中はアカデミーの仕事があるはずだった。
「すげー」
部屋に上がり、寝室のベッドを見ると一気に眠気が襲ってくる。
欠伸が止まらなくなり、瞼が落ちてきた。
「風呂・・・は起きてからでいいか」
食事も今はいい、起きてからで。
それより早くベッドに入って目を閉じたい。
眠りたい。
行儀が悪いと思いつつ、イルカは服を脱ぎ捨てた。
重いベストも額宛も黒い忍服の上下もベッドの周辺に放り投げ、身軽な格好になりベッドに潜り込む。
「はああ、幸せ〜」
柔らかい枕の感触を存分に味わう。
あったかい布団はイルカを優しく包んでくれる。
眠りに落ちる前にカカシの顔を思い出した。
優しく笑っているカカシの顔を。



意識がぼんやりと覚醒していく。
ゆっくりと瞼が持ち上がって。
温かい布団の中の目覚めは最高であった。
「はー、よく寝たなあ」
目を擦りながら上体を起こし、外を見ると暗くなっている。
時計と見ると夕刻の時間帯だ。
すっきりした頭でイルカはベッドを下りて風呂場に向かった。
風呂の準備をしてから冷蔵庫を開けると空っぽだった。
「何もない。最近、買い物行ってなかったからなあ」
ふわあ、と欠伸をして伸びをすると首を左右に振って、こきこきと鳴らす。
「風呂を沸かして間に買い物に行って何か買ってくるか」
食べる物も飲み物もない。
手近にあった服を着て財布を掴むとイルカは買い物に出掛けた。



「何を買うかなあ」
商店街を見て回る。
「野菜、魚、肉、果物・・・」
イルカの冷蔵庫にはないものばかり。
それらを一人で食べる分だけ買っていく。
「で、夕飯は何を食べようかな〜」
材料を買ってからイルカは考えるタイプだった。
既に買ったものを両手に抱えている。
「こんだけ買えば、何か作れるから買ってから考えるとするか」
家に帰ろうとイルカが踵を返し、商店街を抜け出そうとしたとき。
「イルカ先生!」
誰かに呼び止められた。
振り向くと、そこにはカカシがいた。
「あ、カカシ先生・・・」
里での任務が終わったばかりなのか、忍服を着たカカシが立っている。
対してイルカは私服だ。
「忍服じゃないので、最初は解りませんでした」
喋りながらカカシはイルカに近づいてきた。
じーっと上から下までイルカを眺める。
「私服姿は初めて見ました。その服、鎖骨が見えますね」
「ど、どうも・・・」
変なことを指摘されて恥ずかしくなったイルカはカカシから顔を逸らした。
昨日の約束のこともあり、何となく気まずい。
でも、謝っておいた方がいいよな・・・。
不可抗力とはいえ、約束はしたのだから。
「あの、カカシ先生・・・」
だけどイルカが言う前にカカシに言われてしまった。
「昨日はイルカ先生、どうしたの?」
「え・・・」
「飲み会に来なかったね」
何となく責めるような口調だ。
「飲み会とバッティングしたから飯食う約束は、とりあえず延期だなと思ったけど」
約束はなくなってはいなかった。
「それでもイルカ先生が来ると思って、俺、楽しみにしていたのに」
「すみません、仕事が急に入って・・・」
「また、仕事?」
カカシ先生、怒っている・・・。
イルカを見つめるカカシの目には何の表情もないが、怒っているような気がする。
「ごめんなさい・・・」
カカシの顔を見ていられなくて、視線が地面に落ちていく。
せっかく、カカシ先生が誘ってくれたのに・・・。
飲み会の前に一度、ちゃんと断りと入れればよかったと思っても、もう遅い。



「イルカ先生」
とん、と肩を叩かれて、はっとして顔を上げると困った顔のカカシが頭を掻いていた。
「別に俺、怒っていませんよ」
怒ってないと言いつつもカカシは何かに対して、不満そうにしている。
「言ったでしょ。イルカ先生は働き過ぎだって」
だから心配なの。
カカシはイルカを心配してくれていた。
「飲み会で酒でも飲んで、一息つけばいいのにと思ったから」
「そうでしたか・・・」
ありがとうございます、とイルカは素直に頭を下げた。
カカシが自分を心配してくれたことも嬉しい。
「お気遣いいただいてありがとうございます」
カカシの厚意に感謝する。
「で、昨日の約束を今日にしてもらおうと受付所にもアカデミーにも探しに行ったんだけど」
「ああ、今日は一日、休みでしたので」
「少しは休めた、イルカ先生?」
「はい、さっきまで寝てました」
「そう。十分睡眠をとったから、肌つやがいいんですね」
ちょん、とイルカの頬をカカシが突付く。
肌つやがいいなんて言われても、まだ風呂にも入ってないのに。
「いえ、そんなことないです。風呂もこれからなので」
「お風呂?」
その言葉にカカシの顔が緩んだ。
「へえ、イルカ先生、これからお風呂なの」
「そうなんです」
カカシは妙に楽しそうだ。
「じゃあ、今日は駄目かな。ここで会ったのも何かの縁だから、飯に行きましょうって誘いたかったんだけど」
ちら、とイルカの手に持っている荷物を見る。
「イルカ先生、買い物しちゃったみたいだし」
残念、とカカシは肩を竦めた。
「あ、そうだ」
楽しそうなまま、カカシは言葉を続ける。
「荷物を運ぶの手伝いますよ」
「え・・・。あ、一人で持てますから」
「そんなこと言わずに。イルカ先生の家まで運びますよ」
そうしたら歩きながら話せるし、もっとイルカ先生と一緒にいられるし。
何かカカシが大事なことを言ったような気がしたのだが。
ひゅるり。
カカシの下に一羽の小鳥が舞い降りてきた。
任務の召集だ。
「えー、うそー」
ちょっと勘弁してよ、とカカシは苦い顔だ。
「イルカ先生に会えたのに、行きたくないなあ」
はあ、と溜め息を吐くカカシ。
任務を断ることは出来ない。
「イルカ先生、俺、任務に行って来ます」
「はい、お気をつけて」
「帰ってきたら、今度こそ俺に付き合ってくださいね」
飯とか酒とか、二人きりで。
「はい・・・」
こく、とイルカは頷く。
「ありがと、イルカ先生」
そっとカカシの手がイルカの鎖骨周辺に伸びてきた。
鎖骨を撫でた手が首を辿って、上に移動していく。
耳裏の柔らかい箇所でカカシの手は止まった。
その間、カカシは目を細めて、反応を楽しむようにイルカを観察している。
カカシに触られているイルカは目を見開いたまま、一歩も動けなかった。
何で、こんなことをするのだろう。
カカシの意図は何なのだろう。
もしかして、自分のことをからかって面白がっているのか・・・。
「からかわないでください・・・」
漸く、イルカの喉から声が出た。
その声は掠れている。
「からかってなんかないよ」
意外にも声は真剣だった。
カカシの手がイルカから離れる。
するするとカカシの姿が夜の闇に融けていく。
「イルカ先生がかわいかったから我慢できなくて」
カカシの姿が消える前に、そんな言葉が聞こえた気がした。
自分の願望が生み出した空耳かもしれない。
イルカは決して、かわいくないから。
かわいいなんて言葉は似合わないのは自分がよく知っている。
「はああ〜」
ぐったりとイルカは脱力した。
「何なんだよ、いったい・・・」
強く噛み締めた唇は血の味がした。



悲しいけれど、それが現実 2
悲しいけれど、それが現実 4





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