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悲しいけれど、それが現実 11



目の前に立つ人物、カカシを見てイルカは目を瞬かせた。
ぱちぱちと何度、瞬いてもカカシは消えない。
夢ではないようだ。
「カカっ・・・」
カカシの名前を呼ぼうとした時だった。
冷たい風が吹いてきてカカシとイルカの間を通り抜ける。
「ごほ・・・」
冷たい空気が肺に入ったのか、イルカは激しく咳き込んだ。
「ごほっ、ごほごほごほ・・・」
咳が止まらない。
本格的に風邪の症状が出てきたらしい。
口を手で押さえて咳き込むイルカを見てカカシは焦ったようだ。
「イルカ先生、大丈夫?」
傍に来て、イルカの背を摩る。
その手つきは慎重だ。
「体調、悪いんですよね。早く家に帰らないと」
「な、んで、それを・・・」
咳が一旦、治まったイルカは喉から、ひゅうと苦しげな息を出す。
「何でって、その」
カカシは罰が悪そうな顔をする。 「昨日の別れ際のイルカ先生の顔色が気になって。報告書を出した後に職員室に顔を出したら、生意気な小娘が・・・じゃなくてイルカ先生の同僚の人がイルカ先生は体調悪くて、さっき帰ったって言っていて」
それで、心配してイルカを追ってきてくれたらしい。
「折ってきてよかった」
ふっと息を吐いたカカシはイルカに諭すように言う。
「調子悪いときは無理しないで、イルカ先生」
「でも・・・」
「一人で我慢しないで誰かを頼ってもいいんですよ」
一人で何でもするのもいいけど出来ないときもあるでしょ、とカカシはイルカを見つめた。
それでも。
イルカがカカシを頼る理由はない。
理由がないのに頼れるのか。
「ま、とにかくですね」
カカシは冷たい風からイルカを防ぐようにイルカの肩に手を回す。
少しでも暖かくなるように。
「一刻も早く家に帰りましょう」
こんなところにいては、ますます体調が悪くなります。
どうやら、断ってもイルカの家に来そうな勢いだ。
有無を言わせない雰囲気が今のカカシにはある。
一応、イルカは確認した。
「帰るって俺の家に、ですよね?」
「他にどこがあるんです?」と言ったカカシは、にやりとする。
「俺の家でもいいですよ」と。
カカシの家・・・。
昨日の手裏剣柄のベッドカバーが思い出された。
ずきっと胸が痛む。
胸が痛むのは体調が悪い所為ばかりではない。
「いえ、自分の家に帰ります」
きっとカカシは家の前まで送ってくれるつもりなのだ。
その厚意に甘えよう。
また風が吹いてきて、その冷たさにイルカは身を震わせた。



「イルカ先生〜、ここ、開けていいですか?」
うきうきとカカシがイルカの家の中を歩き回っている。
何だか楽しそうに。
「あ、コップあった!それから、冷蔵庫も開けますよ〜」
冷蔵庫を覗いたカカシが眉を顰める。
「何にも食べるものがないですね、色々と買ってきましょう。イルカ先生、何が食べたいですか?」
カカシはベッドに入っているイルカに振り向いた。
とことことベッドに近づき、傍らに膝を突きイルカの額に手を当てる。
「熱い。熱が出てきましたね」
イルカの吐き出す息は熱くなってきていた。
「何か食べたいものがありますか」
ゆっくりと穏やかな声で訊いてくるカカシにイルカは首を振った。
「特にない、です・・・」
「そうですか。じゃあ、ご飯は病気の時の定番のお腹にやさしいお粥でいいですか?」
こくり、とイルカは頷いた。
「それと水分だな、あとビタミン」
うんうんと頷いたカカシは張り切っている。
イルカの看病に。
「じゃ、分身に買い物してきてもらおう」
ぽんと煙が上がって、もう一人のカカシが姿を現す。
「こういうとき、忍者って便利ですよねえ」
分身のカカシは買い物に行ってしまう。
「イルカ先生、寒くない?」
カカシは寝ているイルカの布団を顎下まで引き上げると、軽く叩いた。
ぽんぽんぽん。
ひどく懐かしくなる。
昔、熱を出すと両親もしてくれた、イルカを安心させるように。
だんだんとイルカの目が閉じていく。
「傍にいるから安心してください」
カカシの手がイルカの頭を撫でて、額に下りてくる。
「少し眠っていて、イルカ先生」
ご飯の出来たら起こすから。
その声を最後にイルカは眠りに落ちてしまった。



あったかい。
部屋の空気があったかくてイルカは目が覚めた。
昨日のカカシの家のように空気が温かい。
ぼんやり、目を開けるとカカシの姿が目に入った。
「あ、イルカ先生、起きたの」
イルカの気配に素早く気がついたカカシが飛んでくる。
「具合はどうですか、ご飯が出来たけど食べれます?」
そういえば、お腹が減ったような気がする。
「はい・・・」
返事をすると喉が痛かった。
ひりひりする。
「起き上がれます?」
「それくらいは・・・」
声が掠れている。
ベッドの上で上半身を起こすと関節が、ぎしぎしと音を立てる。
イルカは風邪を引くと、熱が出始めると関節が痛くなることはよくあった。
ようやく、ベッドの上で体を起こすとカカシが手に何かを持ってやってくる。
茶碗に入ったお粥とスプーンだ。
「イルカ先生の家の調理道具、勝手に使わせてもらいました」
それは別にいい。
「お粥が上手い具合に出来ました」
「す、すみません・・・」
イルカの声を聞いてカカシが気を利かせてくれた。
「喉が嗄れてますね。先に水分、摂りますか」
そう言って、カカシは飲み物を飲ませてくれたのだが、それが喉に沁みて痛い。
「少しずつ食べましょうか」
茶碗の中のお粥をスプーンで掬うとイルカの口元に持ってくる。
「はい、イルカ先生」
あーんして、と言われて素直に口を開けた。
あーんするのが嫌だとか、食べさせてくれるのを遠慮するとかいう気力は今のイルカにはない。
カカシが傍にいてくれることが、とても有り難く感じ、居てくれてよかったと思っていた。
「熱くないですか?」
カカシがお粥の熱さを気にしている。
「だ、いじょうぶです・・・」
お粥は適温で食べやすい。
ただ、喉が痛いので少しずつしか飲み込めない。
「美味しい?イルカ先生」
こくっと頷くとカカシは微笑んだ。
「よかった・・・。早く元気になってね、イルカ先生」
そんなカカシの顔を見てイルカは複雑な思いを抱く。
カカシがいてくれて嬉しい。
けど、なんで?
何でだろう・・・。
理由が欲しい、カカシがいる理由を誰かに説明してほしかった。



せっせとイルカの看病をして、甲斐甲斐しく世話を焼くカカシ。
お粥を食べ終わると薬を出してきた。
「これを飲んでね、イルカ先生」
風邪の薬だろう。
水を持ってきてイルカの口に薬を共に含ませる。
ごくり。
飲み終わると、口の端についた水滴を拭われた。
胃に食べ物を入れると元気が出てきたような気がする。
「さ、薬を飲んだら寝てくださいね」
再び、イルカをベッドに戻すとカカシは布団を掛けてくれた。
「寒くない?」
イルカは頷く。
「そ」
見下ろすカカシは目を細めてイルカを見ている。
その目の光は優しい。
優しく感じられた。
「カカシ先生・・・」
喉の痛みは多少治まったのか、声を出しても痛くない。
「なーに、イルカ先生」
「どうして・・・」
イルカは訊かずにはいられなかった。
「どうして、こんなに」
こんなに優しくしてくれるのか・・・。
「こんなに俺に良くしてくれるんですか・・・」
「良くしちゃ駄目?」
伸びてきたカカシの指先がイルカの頬を突付く。
「イルカ先生が大変なときに助けてあげたいと思うのは駄目なんですか」
大変なとき・・・。
毒を受けたイルカが里に帰ってきたときも病院に連れて行ってくれた。
その病院で一晩入院したときも外で待っていてくれた。
「イルカ先生、病院で言ってましたよね。俺は知り合いだって」
ふっとカカシの顔が曇った。
「そりゃあ、俺はイルカ先生の単なる知り合いですよ。でもね」
カカシがイルカに顔を寄せる。
近くなってカカシの顔がよく見えた。
「知り合いだけど、それ以上に・・・。イルカ先生と親しくなりたいと俺が思っているんです」
その言葉にイルカはカカシを凝視する。
カカシの言葉を聞こうと耳を欹てた。
「最初から互いに親しい人なんていません。親しくなるには、たくさん話して、多くの時間を一緒にいないと親しくなれません」
イルカ先生のことを、もっと知りたい。
「俺が親しくなりたいと思うには、ちゃんとそれなりの理由もあるんですけど」
だけど、それを話すのは後でね。
「イルカ先生が良くなったら。俺の話を聞いてください」
カカシの手がイルカの目の上に被さってきた。
イルカの瞼が閉じられる。
「俺はイルカ先生に優しくしたいんです、ものすごく」
だから今日は帰りません、傍にいます。
その言葉はイルカの胸に、すとんと落ちてきて。
溜まっていた心の中の靄が晴れていく。
風邪を引いて体調は悪いのに、気分は清清しかった。




悲しいけれど、それが現実 10
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