犬の領分 2
カカシと云う犬は実にお利口だった。
火影の部屋から連れてきて、仕事をしているイルカの足元で待たせていたのだが。
伏せて動かずに、仕事が終わるのを静かに待っていた。
そんな犬にイルカは時折、笑いかけて頭を撫でる。
同僚達にも理由を話すと快く受け入れてくれて、静かな犬だったので特に問題もなく。
ただ、同僚達が犬の頭を撫でようとすると、猛烈に嫌がった。
そして終業時間を少し過ぎた頃、イルカは犬と一緒に帰途に着いた。
「カカシ〜。」
イルカが犬の名を呼ぶ。
最初は特定の上忍の名前だったので慣れなかったが、名を呼ぶと犬は喜び勇んで駆け寄ってくる。
尻尾を振って親愛の情を示してくれる犬にイルカは癒されて。
動物が自分に向けてくれる掛け値なしの愛情に喜びを感じていた。
犬を預かった連休中は晴れの日が続き、毎日のように外に遊びに出た。
「いい天気だなあ。よし、今日も外に行くか?」
イルカの言葉にカカシは尻尾を振る。
機嫌がいいのか、イルカに圧し掛かってきて顔中を舐めまくった。
「よせって。擽ぐったいよ。」
笑い声をあげながら、カカシとじゃれる。
「ほらほら、簡単な弁当作るから。ちょっとだけ、待っててくれよ。」
するとカカシは、ぴたりと止まって、お座りの体制になって待っている。
イルカの動作をじっと見ていた。
「本当、カカシはいい子だなあ。今日は遠出でもするか?」
「わわん。」
カカシが嬉しそうに答える。
「そうかそうか。じゃあ、大目に弁当作るな。」
と言っても御握りだけど。
イルカも犬も上機嫌で出発した。
晴れて、気持ちよく適度に風も吹いて涼しく。
カカシとイルカは、時間も忘れて外で遊んだ。
遊んで過ごした三連休は、あっという間に過ぎてしまう。
残すところ、あと一日。
イルカはカカシと離れがたくなってた。
夜、一緒に布団で休む時。
イルカはカカシの体を抱き寄せる。
「あったかいなあ、カカシ。」
その柔らかな毛の感触に安心した。
カカシも顔をイルカに寄せる。
「カカシ大好き。」
首元にぎゅっと抱きついた。
「でもさ。」
もうすぐ、主が帰ってくるな。
寂しそうなイルカの声。
「主がいなくて寂しかったろ、カカシ。」
くんくん、とカカシは鼻を鳴らした。 「一番好きなのは主だよな・・・。早く会えるといいな。」
イルカはカカシの体に顔を埋めると、静かに目を閉じ眠りに落ちた。
カカシは、イルカが寝付いたのを確認してから。
ぼふんと変化を解いた。
敵にかけられた術は実はイルカの家に来て、すぐに解けたのだが変化の術で自ら犬の形をとっていた。
イルカと三連休、一緒に過ごすために。
「そんなことないよ。」
カカシは低く呟き、起こさないようにイルカの髪を梳く。
「一番、好きなのはイルカ先生だよ。」
今まで黙っていたけど。
最初に会った時から好きだったんだ。
犬の姿でも、イルカの近くにいれることに最初は舞い上がっていたカカシだった。
だが、どんどん辛くなる。
犬と人間は違う。
犬では人間を、イルカを抱きしめることはできない。
術を解き人間になっているカカシは、ゆっくりとイルカの体を引き寄せ、腕の中に仕舞う。
「ずっと一緒にいたいよ、イルカ先生。」
犬になんて、ならなきゃよかった。
こんなことしなきゃよかった。
ごめんね、イルカ先生。
せめて、今だけでいいから。
人間の俺として傍にいさせて。
「明日でお別れだな。」
最後の日も、やはり外に出て遊ぶカカシとイルカ。
夕方、川べりで沈む夕日を見ていた。
「三連休、すごく楽しかったよ。いつもは、だらだらしてるのに。」
カカシのお蔭で健康的に過ごせたよ。
「ありがとう。」
イルカが、ゆっくりとカカシの背を撫でる。
「明日の朝、五代目のところへ連れて行けばいいんだよな。」
忍犬として主人の元に帰ればカカシとイルカは、もう会うことはないかもしれない。
「元気でな、カカシ。」
イルカが笑いかけるとカカシは、くーんと鳴いて擦り寄ってきた。
「ははは、可愛いなあ。カカシは。」
なあ、とイルカはカカシに話しかけた。
「主の元に戻っても、その。元気でな。そして、なるべく長く生きろよ。」
忍犬としての使命もあるかもしれないけど。
「もう、会えなくても。カカシが無事に生きていることを、いつも願っているからな。」
忘れないよ、と言ったイルカの目は、とても優しかった。
犬の領分 1
犬の領分 3
text top
top