彼の言い分 2
気になる、あいつは思ったとおり同じ野営地にいた。
野営地にいる数人の中忍と一緒に雑用をしていたのを確認したので間違いない。
おまけに時折、笑顔を見せたりして自分のときとは大違いだ。
それを木の陰から見た俺は、その場をそっと離れる。
そして俺は同じ野営地にいる少し、いや一回りほど年の違う上忍に聞いてみた。
「あの子は?」
俺の指差したほうを上忍は、ちらりと見て言った。
「あいつね、里に帰る途中だったんだけど、せっかくだから、ここに来たんだ。お前の援護に行ったんだろ?」
「うん、来たけど。」
せっかくだからって、どういう意味だ?
「さっき、あいつから報告受けたんだよ。まあまあ、強いだろ?」
「うん、まあまあね。」
「割と、いいやつだろ?」
この上忍は、あいつのことを知っているみたいだった。
自慢されているみたいで、ちょっと癪に障って面白くない。
俺は名前も知らないし年も知らない。
知らない事だらけだ。
「ふーん。」
内心、イラっとするのを押し殺して、何気なさを装って興味なさそうな振りをした。
他の人間から名前を教えてもらうのが悔しかったのだ。
こんなに気になるのなら助けてもらった時に、直ぐに名前を聞けばよかったのに。
俺って馬鹿だな。
その夜のことだ。
皆が寝静まった深夜。
見張り以外は起きていない。
俺は自分のテントにいたけど誰かが、こっそりと野営地を離れて行く気配を感じた。
誰だろう?
俺は自分のテントの入り口を少し開けて外を見ると、昼間のあいつだった。
昼間に怪我をした肩を手で抑えている。
傷が疼くのか、それとも別の何かだろうか。
悪いことを企んでいるようには思えないし、興味が沸いて跡をつけることにした。
後を付けると暫くいった、人けのない場所で腰を下ろすのが見えた。
木の根元の蹲って、足を抱えて座り込んでいる。
寝ている様子ではない。
抱え込んだ足の中に、顔は伏せていた。
そのまま、ピクリとも動かない。
見ていると不安になってきた。
怪我が痛くて動けないのか、それとも急に具合が悪くなったとか?
だったら野営地の誰かに言えば言いと思うのだが。
月の光に照らされた体は青白く、これ以上黙っていられなかった。
消していた気配を現すと、そいつはばっと顔を上げた。
「誰だ!」
鋭い声が飛んでくると共に一瞬で、武器を手に取り身構えた。
「あー、俺俺。」
俺は両手を上げながら、降参ってポーズを取りながら姿を現した。
「俺だよ、俺。覚えてない?昼間会ったでしょう?」
「昼間?」
訝しげに眉間に眉を寄せるので俺は言ってしまった。
「ほら、たいしたことない上忍だよ。」
昼間、言われた台詞を情けないが、そのまま言ったのだ。
すると明らかに思い出したようで「ああ。」と体中の力を抜くのが分かった。
そして、また座り込んでしまう。
「あの上忍か。びっくりさせるなよ。」
疲れたように大きく息を吐き出した。
「ねえ、大丈夫なの?」
「何が?」
俺の問いに、そいつは刺々しく答えてくれた。
でも俺は怯まず、へこまずに聞いてみた。
「何がって昼間の傷だよ、痛むんじゃないの?」
「痛まない。」
強がって、ぷいと顔を横に向けてしまう。
うーん、埒が明かない。
俺はしょうがなく素早く近寄ると強がるそいつの額宛を取り、熱がないか額に手を当てて肩口の傷にも少し触れた。
「やめろよ。」
そいつが手を頭上に振りかざした時には総てが終わっていた。
ついでに、その手を掴んで引き寄せて逃げられないように捕まえる。
案の定、少し熱があるし傷口が熱い。
今日来たばっかりって聞いたから、移動の疲れもあるのかもしれない。
俺は腰のポーチから炎症止めと解熱剤を取り出した。
俺が愛用している、よく効く薬だ。
「はい、口開けて。」
口元まで持って行くと「いやだ。」と拒否される。
「飲んだほうがいいよ。飲まないと明日まで熱が下がらないよ。」
俺の言葉に睨みつけるように、こちらを見る。
「熱が下がらないと皆に迷惑が掛かる。」
本当はそうじゃなくて、意地張って必要以上に強がっているから心配なんだ。
でも、そう言っても聞きゃしないだろうし。
「・・・じゃあ飲む。」
小声で言ったのを確認し、口元に薬を持っていくと口を開けたので放り込む。
錠剤を飲まずに、がりがりと噛み砕く音が聞こえた。
「に、苦い。」
渋い顔をする。
「なんだよ、水がなくても錠剤くらい飲めるだろ?」
それは忍者の基本だから大丈夫だと思ったのに。
おかしなヤツだな、錠剤が飲めないなんて。
腰の竹筒に入った水を渡すと喉を鳴らして美味そうに、ごくごくと飲んだ。
飲んでから、しまったいう顔をする。
「あ、ごめん、全部飲んじゃった。」
「いいよ、後で補充するから。」
薬を飲んでくれて、ほっとした。
「それから。」と、そいつは目を伏せる。
「ありがとう。」と云う声が聞こえた。
彼の言い分 1
彼の言い分 3
text top
top