二人きり 第七話
歩いて行くカカシを呆然と見つめていると歩いていたカカシが、ぴたりと立ち止まった。
くるりと身を反転させ、違う方向に歩き始める。
そのカカシの歩みは真っ直ぐ、イルカへと向かってきていた。
すぐさまカカシはイルカの傍まで来た。
「イルカ先生」
カカシが嬉しそうに話しかけてくる。
「こんなところで、どうしたんですか」
にこにこにこにこ、溢れんばかりの笑みだ。
「あ、俺、お遣いの帰りで、その・・・」
先ほど見た光景に動揺してしまっているイルカは上手く話せない。
しどろもどろだ。
「ええと、あの」
動揺しているイルカの話をカカシは辛抱強く聞いている。
嫌な顔など全く見せない。
「あの・・・。カカシさん」
「はい、なんでしょう」
カカシの優しい声がする。
その優しさが今のイルカには辛い。
そして動揺の余り、つい口から出てしまった。
「さっき、そこの店から誰かと出てくるところを見たんですけど」
言ってから、しまったという気分になる。
言うんじゃなかったと後悔した。
カカシにもプライベートがある訳だし、それをイルカは追求する立場ではないよう気がした。
例え、それが綺麗な女性とでもあってもだ。
なのに、イルカの心と裏腹に口は勝手に言葉を吐いてしまう。
「綺麗な女性の方と一緒でしたね」
カカシには嫌味とも思われる言葉に違いない。
更にイルカは自分の言った言葉が、自分に跳ね返ってきて心に深く突き刺さってしまった。
綺麗な女性と自分じゃ、比べる価値もないかもな・・・。
がくん、と落ち込む。
「女?綺麗な?」
しかしイルカの言葉にカカシは首を傾げた。
「誰のことですか」
眉間に皺を寄せて思い出そうとしているようだったが上手くいかなったらしい。
「そこの店では軽く飯を食べてきただけで」
あ、そういえば、とカカシは頷いた。
「偶々、店が混雑していて、どっかの誰かと相席になったんですけど。それが知り合いのやつだった、かな?」
よく覚えていないらしいが。
「その人と二人で食事をしたんですか・・・」
イルカはカカシの尋ねずにはいられない。
ただ、どうしても語尾は小さくなってしまうが。
「二人で、っていうか。テーブル席が二人用だったので」
つまりカカシは入った店で偶然、知り合いにあった混雑も相まって必然的に二人で食事をした、ということらしかった。
そのことに幾分か、安心したもののイルカの胸の内は晴れなかった。
俺は偶然でもカカシさんと二人きりにはなれないのに。
晴れない胸の内に渦巻くものが嫉妬だということにイルカは、漸く気がついた。
俺、妬いているのか・・・。
さっきの人に。
カカシさんと二人で飯を食べたことに。
なんていうか。
イルカは、そっと心の中で溜め息を吐いた。
俺って心が狭いなあ・・・。
自分で自分に嫌気がさしてくる。
カカシさんが誰と何しようといいだろう、そんなのカカシさんの自由だ。
それに、とイルカは思い出した。
最初にカカシに言われたことを。
俺たちが付き合っていることを隠しておきましょうと言われたことを。
「カカシさん」
顔を上げるとイルカはカカシを見て、にっこりと完璧な笑顔を作った。
「お遣いの帰りなので俺は、もう行かないといけません」
「イルカ先生?」
「カカシさんと一緒にいると目立ってしまいますし」
ぐっと堪えて次の言葉を言った。
「誰かに見られると付き合っていると誤解されてしまうかもしれませんしね」
本当はそんな誤解をされることなんてないと思うけど、と悲しい言葉を心の中で付け足す。
それだけ言うとイルカはカカシに頭を下げて早足で歩き出した。
カカシの方を振り返りもせずに。
今、カカシがどんな顔をしているのか考えると怖くなる。
もはや空腹感は無くなってしまっていた。
それから、さすがにカカシに合わす顔が無かったイルカは任務で里の外に出ていた。
受付所もアカデミーも人員過多だったので何もない今のうちに休みでも取っておけと言われたのだが、家に一人でいたくなかったイルカは任務を選んだ。
里外に出るのも久しぶりで気分も違うものになる。
任務は、それほど難しくはなく親書を運ぶというものだった。
日程も二泊三日で、ちょうど良かった。
ただ、イルカは任務に出ることをカカシに告げてはこなかった。
カカシに会いたくなかったからだ。
それに自分の気持ちを整理したかったのもある。
もっと冷静に考えて落ち着いた行動をしないと。
何しろ一応、イルカは大人なのだから。
言動に気をつけて不用意にカカシさんを傷つけないようにしたい。
カカシが誰かといると嫉妬してしまうけれど。
二人きりになれないことが寂しいけれど。
でも、やっぱりカカシのことが好きなのだから。
任務を終えたイルカは心に強く、そう思いながら里への道を急いだ。
任務から帰ってきたイルカがしたことは当たり前であったが報告書を出すことであった。
時間は、だいぶ遅く夜になっていた。
「報告書をお願いします」
報告書を提出すると受付をしていた知り合いの同僚が「お帰り」と言ってくれた。
「イルカ、任務に出ていたんだなあ」
「うん、久しぶりだけどね」
「俺も偶には任務に出ないと体がなまるな」
人がいなかったのもあって同僚と少し話をしたのだが、ふと同僚が思い出したように言った。
「そういや、はたけ上忍がイルカのことを探していたぜ」
「え、なんで?」
「さあ〜。姿が見つからないって騒いでいて任務に出たってのを聞いたら、えらく心配していたよ」
「俺のことを?」
「ああ」
「イルカが帰ってきたら教えてくれって言っていた」
「そうなんだ・・・」
「明日、会ったら挨拶でもしてくれば?」
「そうするよ」
言葉少なにイルカは返事をすると受付所を後にした。
カカシに任務に出ることを告げていかなかった罪悪感が圧し掛かってくる。
「一言、言っていけばよかったな」
イルカのことを心配してくれたカカシに申し訳なくなってきた。
謝りたい。
それと同時にカカシに会いたくなってくる。
これが恋しいという感情だろう。
一目だけでもいいから会いたい。
今からカカシさんの家に行ったら迷惑だろうか?
もう夜も遅いけど。
ちょっとだけなら・・・。
自然、イルカの足はカカシの家の方角に向かっていたのだった。
二人きり 第六話
二人きり 第八話
text top
top