二人きり 第三話
次の日。
昨日のカカシの行動を不可解に思いながらもイルカは朝の受付に入っていた。
今日は午後からアカデミーで仕事だ。
「イルカ先生、おはようございます」
朝の受付所に任務の依頼書を受け取りにきたカカシは、にこにことして機嫌が良さそうに見えた。
「昨日は楽しかったですね」と話しかけてきた。
「あ、はい」
思わず、頷いたもののイルカの胸の中は、もやっとしている。
あれが楽しかったのか・・・。
皆でわいわいとお酒を飲むのは嫌いではない。
しかし昨日は記念とか言っていたカカシの趣旨とは趣の違うものだったのではないか?
疑問ばかり浮かんでくるのだがイルカは、それを押し殺してカカシに頷き返した。
「そうですね、楽しかったです・・・」
イルカの返事に満足したのか、カカシは嬉しそうに笑って受付所を出て行った。
昼になるとイルカは昼食を食べに食堂へと向かった。
いつもは弁当持参なのだが、今日の朝は時間がなくて作る時間がなかったのだ。
「なに、食べようかな〜」
適当に選んで席に着くと茶を一口、飲んでから食べ始めた。
そこへ見計らったかのようにカカシの声がした。
「イルカ先生、お昼ですか」
声のした方を向くと手に昼食をトレーを片手にしたカカシが立っている。
「あ、カカシさん」
「ここいいですか?」と相席を求められた。
了承するとカカシはイルカの対面に座る。
「ここでイルカ先生に会えるなんてラッキーです」
にこっと笑ってカカシが言えばイルカの胸は、ぽっとあったかくなった。
「俺もです」
照れながら返せばカカシは優しく笑ってくれた。
そして・・・。
イルカの背後に向かって手を振った。
「おーい、こっちだこっち」
誰かを呼んでいる。
呼ばれてきたのはアスマだった。
カカシと同じ上忍の。
昨日、飲みに行ったばかりの相手だ。
呼ばれたアスマは「おう」と返事をしてカカシとイルカの近くに来る。
当然のように二人の隣の席に腰を下ろした。
正しくはイルカの隣であったが。
正面にはカカシ、隣にはアスマ。
別に嫌だという訳ではないのだが・・・。
それに、たかが食堂での昼食だ。
カカシは偶々、アスマと来てイルカと会っただけだろう。
それだけのことなのに。
イルカの胸には確実に小さな蟠りが生まれつつあった。
仕事が終わるとカカシがイルカを待っていてくれた。
「一緒に帰りましょう」と誘われる。
「はい」
返事をしてイルカは、なんとなくカカシの周囲を見回した。
背後も見てしまう。
誰かいないかと無意識に警戒してしまっていたのだ。
「どうかしたの、イルカ先生?」
イルカの行動にカカシが首を傾げている。
「あ、いや、何でも・・・」
口ごもり、イルカは笑って誤魔化した。
変だな、俺。
心の中で苦笑いをする。
カカシさんとの時間を誰かに邪魔されるとか思うなんて。
告白された昨日の今日で、なんか上手くカカシさんとの間合いがとれないのかなとも考えてしまった。
「そうだ、イルカ先生」
そんなイルカにカカシが明るい声を出す。
「今日も夕飯、食べていきませんか?いいお店、見つけたんです」
「いいですね」
今日はカカシと二人きりだと思ったイルカは心も軽い。
ちょっとは恋人気分を味わえるかなあ、と期待もしてしまう。
にこにことするイルカにカカシも嬉しそうであった。
「え、と」
連れて行かれた店には先客が大勢いた。
「こんばんは、イルカ先生」
「よう」
それは今日の昼間に会ったアスマと昨日の夜に会った紅であった。
他にも何人かイルカの知っている人や知らない人がいる。
要するに何かの飲み会らしかった。
全員がカカシの知り合いらしい。
知り合いに挨拶するためか、カカシはするっと飲みの輪の中に入って行ってしまった。
イルカは取り残されて所在がない。
どうしよう、俺・・・。
急速に心細くなったところをアスマと紅に呼ばれて、どうにかイルカは腰を下ろす事が出来た。
カカシは、と見ると遠くに座って誰かと楽しそうに話している。
イルカの方なんて、ちっとも見やしない。
まるでイルカなんていないかのように。
イルカの存在なんて忘れてしまっているように感じた。
居心地の悪い時間が終わり、漸く帰る段になるとカカシがイルカの方へと寄ってきた。
今日も、この後、昨日みたいに誰かと飲みに行くとか?
だったら自分は帰ることをカカシに告げて、この場を去った方がいい。
どう見ても自分が場違いに思える。
だがイルカが口を開くより早くカカシが言った。
「イルカ先生、途中まで一緒に帰りましょう」
「あ・・・。はい」
予想外のカカシの言葉にイルカは一瞬、呆気にとられたものの素直に頷いた。
途中まで一緒、ということはカカシと二人で帰るということだ。
かなりイルカは嬉しくなる。
ただカカシと二人きりということに。
ちょっと、どきどきしながらカカシと夜道を歩く。
二人きりで。
周りには誰もいない。
なのにカカシは言った。
「イルカ先生、もう少し離れて歩きませんか」
言われた事がすぐには理解できなかった。
「ほら、余り接近して歩いていると俺たち、付き合っているとか思われちゃうでしょ」
思われちゃうでしょ、って・・・。
イルカは言葉を失う。
ここ、誰もいないじゃないか!
カカシさんと俺だけしか。
言葉の真意が解らない。
なぜ、カカシがこんなことを言うのか。
確かに付き合いは隠そうということになっていたけど。
前を歩くカカシの背中を見つめるイルカ。
なんか・・・。
イルカの胸に去来する言いようのない空しさ。
なんか、カカシさんとお付き合いする事で付き合う前より距離が出来た気がする。
漠然と、そう思った。
近いけど遠いカカシ。
目の前にいるのに遥か彼方にカカシの存在を感じる。
二人でいるのに、ひどく寂しくなった。
寂しさが胸に痛い。
ずきずきと痛む胸を押さえる。
カカシは、これでイルカと付き合っているつもりなのか?
これって世間一般でいうところの『お付き合い』っていうのかなあ。
昨日の夜と同じことを思ってしまう。
イルカはお付き合い二日目にして早くもくじけそうになっていたのだった。
二人きり 第二話
二人きり 第四話
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