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二人きり 第十一話



「おしたおす」
イルカは今一度、カカシの言った言葉を繰り返した。
ようやく酔った頭が理解した。
おしたおすは『押し倒す』だ。
でも誰を?
「押し倒すって誰を?」
そのまま言葉に出てしまった。
「イルカ先生のことですよ」
カカシが困った顔で答える。
「俺を?誰が?」
それも言葉に出てしまった。
「イルカ先生を俺が」
嫌々という風にカカシはイルカの疑問に返事をする。
「なんで?」
真正面から見据えたカカシの顔は本当に困っていた。



「ああ、もう!」
やけになったようにカカシは言った。
叫び声に近い。
カカシは今度こそイルカを、しっかりと抱き締めた。
「それはイルカ先生のことが好きだからですよ!」
今までにない強い力と意思でカカシはイルカを腕に抱く。
「好きだったら、なんかこう、あれでしょう?」
あれって?
あれってなんだろう。
「好きな人に触ったりしたくなるでしょう!」
「ああ」
やっとイルカも思いついた。
「手を握ったりですか?」
「手を握る・・・」
「あ!あとは、えーと」
恥ずかしかったが酒の勢いでイルカにしては思い切ったことを言ってしまう。
「キス、とか?」
「まあ、そうですねえ」
間近で見るカカシは思い切り苦い顔をしていた。
まるで苦い良薬でも飲んだかのような。



「うーん、そりゃあ、そんなこともしたいですけど」
カカシの眉間の皺は深い。
どうやらイルカの思いついたことがカカシの想像していたこととは違うらしい。
かなり、かけ離れていたようだ。
「好きな人に触ったら俺は歯止めがきかなくなるってことを言いたかったですがねえ」
しかし、それはイルカの耳には届かなかった。
「そっか〜」
抱き締めてくれたカカシに、ぎゅっと抱きついていた。
何の警戒心も抱かずに、カカシを信じて。
安心したようにイルカが呟いた。
「そっか〜、カカシさん」
実に嬉しそうな声である。
「カカシさん、俺のことが好きなんだ〜」
ほっと一安心したままイルカは目を閉じてしまった。
カカシの腕の中で。
実は結構な量の酒をイルカは摂取していたので、安心した途端に酔いが回ってしまったのだ。
その寝顔は幸せそうであった。



翌朝。
ぱちりと目を開けたイルカは自分がどこにいるのか分からなかった。
あんなに飲んだのに頭は、すっきりとしている。
きょろと辺りを見回す。
どこか知らない部屋だ。
知らない部屋のベッドに寝かされていた。
ベッドカバーの模様は手裏剣模様だ。
「ここ、どこだろう」
周囲に人の気配はない。
むくりと起き上がったイルカはベッドから下りようとして自分の姿に気がついた。
「あれ?服を着ていない・・・」
もしかして酔って脱いだのか、イルカの上半身は何も身に着けていなかった。
ふと、よく見ると点々と赤い痕が無数あるのが見て取れる。
こんな痕、いつ、ついたのかな?
額宛もなく髪の解けていた。
「なんでかなあ」
首を傾げたイルカはベッドの下に丁寧に畳まれた服が目に入った。
畳まれた服の上に額宛と髪を結う紐もある。
酔ったイルカがやるとは考えにくい。
ということは誰かが服を畳んでおいてくれたらしかった。



素足を床に、ぺとりとつけると、ひんやりと冷たい。
ぺたぺたと歩いて人の気配を探した。
するとベッドのあった部屋の、すぐ傍のキッチンに誰かを発見した。
その誰かはキッチンのテーブルに座って何かを一心不乱に読んでいる。
とても集中していた。
そして、その誰かとは。
「カカシさん」
イルカの呼びかけにカカシは、はっと顔を上げてイルカを見た。
目が充血している。
「ああ、イルカ先生」 げっそりと疲れきった顔でカカシは言った。
「起きたんですね」
「あ、はい」
なんだかカカシに世話をかけてしまったと察したイルカが謝った。
多分、ここはカカシの家でカカシの部屋なのだろう。



「すみません、俺、ご迷惑を・・・」
「とーんでもない」
ふわーと欠伸をしたカカシが両手を挙げて伸びをする。
「ぜーんぜん、大丈夫です」
「そう、ですか?」
その割にはカカシは憔悴している。
「昨日、イルカ先生が眠ってしまって。俺の家のが近いから連れてきたんです」
「ああ、それで」
カカシのベッドを占領してイルカは寝ていたという訳だ。
「それだけですから。俺、イルカ先生に何もしてませんから」
断じて何も、とカカシは強調した。
「服を脱がせたのはイルカ先生が寝苦しそうだったからで、水を口移しに飲ませたのもイルカ先生が喉が渇いたって言ったからで」
カカシは酔ったイルカの世話をやいてくれていた。
「あ、あとは、その」
イルカの上半身を、ちらっと見てカカシは罰の悪そうな顔をした。
「その痕は・・・」と口ごもる。
「ああ、痕?」
カカシの視線を辿り自分の体についた、赤い痕を見る。
「これが何か?」
訊くとカカシは視線を逸らせた。
「なんでもありません」
拗ねたような口調だ。
「イルカ先生をベッドに寝かせた後、俺は何年も見ていなかった忍術の教本を押入れの奥から引っ張り出して読んでいましたから」
徹夜で、とカカシは付け足した。



見るとキッチンのテーブルの上には何種類もの教本が散乱していた。
中には難解な本もある。
イルカが見たこともないような。
カカシの意外な一面を見たような気がしたイルカは素直に感嘆した。
「カカシさんて、すごいですね」
にっこりとカカシに笑いかけた。
カカシの言葉を微塵も疑ってない笑みだった。
「とっても勉強熱心で、どんな時も勉強を怠らないなんて」
俺も見習わないと心から言ったイルカの本気が伝わったカカシは、ばたんとテーブルの上に突っ伏した。
「イルカ先生〜」
爽やかな朝なのにカカシの声は、おどろおどろしい。
「イルカ先生の言葉は破壊力抜群です・・・」
その声の様子ではカカシの繊細な男心に罅でも入って割れそうになっていたに違いない。
おそらく、今度はカカシの方がくじけそうになっていたのだった。




二人きり 第十話
二人きり 第十二話





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