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二人きり 第十話



イルカを引っ張るカカシの顔はイルカからは見えない。
店を出てから、随分と歩いたような気がする、とイルカは酔った頭で考えた。
カカシさん、いったい、どこまで行くんだろう?
切れたイルカの怒りは長くは続かず、カカシに引っ張られる間に昇華されてしまっていた。
イルカの足取りは、ふらついている。
ふらつきながらも思った。
このまま朝まで歩くのも悪くない、カカシさんと二人で。
そんなことを思った時だった。
不意にカカシが止まり、引っ張られていたイルカは前につんのめり転びそうになる。
それを受け止めたのはカカシだった。



「イルカ先生」
カカシの声は、ひどく真剣だった。
受け止めたイルカの背に腕を回しているものの、その腕はイルカを抱き締めることはない。
ただ、受け止めている。
その表現が正しかった。
カカシの腕は、ぴたりと動かず、もしかして態とその姿勢を維持しているような感じでもあった。
「イルカ先生」
もう一度、カカシはイルカの名を呼んだ。
そして言った、
「俺の他に好きな人がいるんですか?」
「え」
思いがけない、その問いに思わずイルカはカカシを見る。
顔が近かった。



「さっき、店で言っていたでしょう、好きな人がいるって」
「あ・・・」
「でも、その人はイルカ先生のことが好きじゃなくて」
「ええと・・・」
「片思いと訊かれて肯定していたじゃないですか!」
それは全部、カカシさんのことだと言おうとしたのだがカカシの方が早く口を開いた。
カカシの口から矢継ぎ早に言葉が出てくる。
「俺はイルカ先生のことが好きで好きで堪らないし、イルカ先生も俺のことが好きだって解っていますし」
好き、と言われてイルカはカカシの腕の中で赤くなる。
酒の所為で感情の起伏が大きくなっているのは間違いなかったが好きだと言われて嬉しかった。
「俺たち、両思いでしょう?なのに俺の他に好きな人がいるなんて!しかも片思いってなんですか!」
カカシは激昂していた。
こんなカカシを見るのは初めてだった。
怒りを露にするなんて。
「イルカ先生には俺がいるのに!」



カカシさん、いつから話を聞いていたのだろう。
ぼんやりとイルカは思い、それから、ちょっと笑った。
「カカシさん」
「なんです・・・」
殆ど、顔がくっ付かんばかりの状態でイルカに微笑まれたカカシは少し身を引いた。
腕の中のイルカを離さずに。
怒っているはずなのに頬が緩み始めている。
「それは・・・」
ちょっと酔っ払っていたイルカは、いつもより大胆になっていたとしても過言ではない。
身を引いたカカシに逆に詰め寄った。
体が、ぴたりと密着する。
「ぜーんぶ、カカシさんのことです」
「え、俺?」
ぽかんとするカカシの表情が妙におかしかった。
「俺はカカシさんが好きなのにカカシさんは俺のことが好きじゃないみたいで」
「そんなことないですよ」
カカシが即座に否定した、力強く。
「だから片思いみたいだって思ったんです、俺」
眠たそうな目でイルカはカカシを睨みつけた。
「酷いのはカカシさんじゃないですか。先ほど、ふたりきりでと俺のことを責めましたけど」
ずずいっとイルカはカカシに近寄る。
近寄った分だけカカシは後ろに下がった。
「カカシさんは俺と二人きりが嫌みたいで、いつも離れているし。カカシさんが近くにいるのに遠くにいるようで」
酔った勢いでイルカは言った。
「俺、寂しいです。恋人のはずなのに・・・」
とうとう、本音を言ってしまった。
「二人きりになれないなんて」



イルカの本音を聞いたカカシの眉が下がり、それが上がって、また下がった。
どうにも困った顔をしている。
イルカの背に回していカカシの指先が何度も開いては閉じを繰り返す。
それはカカシの心中を表しているようだった。
つまり葛藤だ。
「イルカ先生、あのですね、俺は」
切羽詰っているのかカカシは言葉が纏まらないらしく、切れ切れになっている。
「俺はですね、つまり、あの」
「なんですかー」
イルカがカカシの目を見つめると、たじたじになっていた。
「俺は大好きなイルカ先生と付き合えて天まで舞い上がっているわけですよ」
舞い上がって舞い上がって地上に降りてこられないほどにね、と。
「舞い上がりすぎて付き合ったその日にイルカ先生を押し倒したりしたら、さすがにあれでしょ」
「おしたおす?あれ?」
カカシの言っていることは、よく分からない。
体術の練習かなあ、とイルカは見当はずれのことを思っていた。
カカシは、ふうと溜め息を吐いた。 「まあ、俺の理性の問題ですが。そんな展開になったらイルカ先生じゃ引くでしょう、確実に」 悩ましげな溜め息をカカシは吐く。
「付き合った当日に破局とか泣くに泣けませんから」
それがカカシの胸の内だったのだ。




二人きり 第九話
二人きり 第十一話




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